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第1話 最近は『オーラ』がマイブームなんです

「あの、ハンス先輩。これ、使用魔法欄の文字が枠からはみ出ているんですけど……」


 赤の国特有の、むっと熱気がこもる前線砦の事務室。

 配属初日の新人ピーターは、手渡された一枚の『被害報告書』を握りしめていた。

 そこには細かすぎる文字で、こう書き殴られていた。




神罰(ゴッド)極光(オーラ)次元(ディメン)断絶(ション・カタ)葬送曲(ストロフ・レクイエム)




「ああ……、それはうちのトップ魔法使いルリの技名だよ。紫の髪と瞳を持つ美女なんだけどね。実際はただの『歩く天変地異』で……」


 先輩のハンスは、死んだ魚のような目で書類に文字を書きながら、感情の消えた声で返した。



「まったく、あの馬鹿娘ときたら! なーにが『良かれと思って〜』だ! 岩石地帯の山を一つ消し飛ばしやがって! 上への言い訳の書類を書くこっちの身にもなれってんだ! これ以上腰痛が悪化したらどうしてくれるんだい!」


 奥のデスクでは、事務服の上にカーディガンを羽織ったお局のマーサが、ティーカップを叩きつけるように置いた。ふんっと鼻を鳴らすと、眉間にシワを寄せながら報告書作成にとりかかった。



「はみ出てるのは、気にしなくていいよ。もし入りきらなかったら、余白に書くか、裏面に書いていいから……。はあ……」

「わかりました。それにしても、こんな魔法があるんですね。聞いたことがありません。この方は、すごい魔法使いなんですね」

「はっ! そんなふうに思えるのも、今だけさ。すぐにあんたも嫌になるよ!」



 彼らの仕事は、所属している魔法使いの派遣、任務の事後処理、被害報告、賠償金計算などなど。

 本棚には、被害報告書と賠償請求書がずらりと並び、机の上は、インク瓶と書類の山がそびえ立つ。


 小さな事務室で、今日も彼らは戦いに明け暮れる。






 蒸し暑さが増す午後――。


 ドンッ!!


 窓の外から地響きが聞こえた。

 ピーターは肩をびくつかせたが、先輩たちは無反応だ。


「なんの音ですか?」

「ああ……。気にしなくていいよ。いつものことさ。もうすぐ、報告が入るだろう」


 ハンスは虚ろな目で一瞬窓の外を見つめたが、またすぐに書類に目を落とした。



 ピーターが大量の書類を整理していると、さっそく報告が入った。


『ザザッ…… こちらポール!!』


 事務室に置かれた魔道具から、爆音と風の風切り音、そして男の叫びが聞こえてきた。


「ピーターくん、彼は『例の彼女』の報告係だ。僕は手が離せない。変わりに聞いてくれ」

「は、はい!」


 ピーターは椅子から飛び上がると、魔道具の前に急いだ。



「は、はい! ピーターです。どうしました!?」

『ルリさんが……、ザザッ……。道を塞いでいた岩石を吹き飛ばす作業をしていたのですが……。威力が強すぎて、クレーターができてしまい……』

「クレーター? 大きさはどのくらいですか?」

『直径約50メートル、深さは、まだわかりません。ここからでは、底が見えなくて……』


 ポールの報告に、ピーターは青ざめて言葉を失った。


「ピーターくん、落ち着いて必要事項を確認して。どんな魔法を使ったとか」

「あ、はい! すみません。使用魔法は何ですか!?」


『確認します! ――えっ? ヴォード? グライド? ザザッ……。すみません、もう一度……。オーラ……、最近オーラ多いですね。はい、はい、なるほど。ちなみに、もう少し短くは――? あ、無理ですか……。無理ですね。いえいえ、いいんです! 謝らないでください。仕事ですから、ははっ……、はぁー』


 ピーターはルリの声を聞こうと耳を澄ませたが、聞こえたのはポールの愛想笑いとため息だけだった。


『すみません。お待たせしました。

極光聖天インフィニティ・オーラ虚無空間(ヴォイド・グラビティ)重力放逐崩界(ゲート・バースト)だそうです』


 ピーターのペンを持つ手がピタリと止まる。


「……インフ……?」

極光聖天インフィニティ・オーラ虚無空間(ヴォイド・グラビティ)重力放逐崩界(ゲート・バースト)


 ピーターは先ほどみた被害報告書のことを思い出した。よくわからない言葉がずらりと並んだ、不思議な魔法の名前を。

 ピーターはそこで気がついた。まさか、彼女の魔法はすべてこうなのか!?


 奥でマーサが、ほれみたことかと「ふんっ」と鼻を鳴らした。「すぐに嫌になる」とは、こういうことだったのか。


 ピーターは負けるもんかと気合を入れペンをギュッと握り直し、

「申し訳ございません。もう一度おねがいします!」

 と意気込むも、技名を書き終えるまでに三回聞くはめになった。


 ピーターの心はポールへの申し訳なさで一杯になったが、『最初は誰も理解できませんよ。まあ、今もですけどね』と慰めてくれた。



『深さは追って、報告します。先に近隣への注意喚起と、立ち入り禁止の看板を設置します』


「はい。承知しました。報告、ありがとうございます」


『では、一旦これで――えっ? 穴をふさぐ? 他の岩で? ザザッ……。えっ、ちょ!! 待ってください! そういったことは一度相談してから――』



 ドカーン!! ドドドドドッ!! ドゴーン!!


『うわああああーーー!!』



 事務室に爆音とポールの絶叫が轟くと、ハンスとマーサは深いため息をついた。


「さらに賠償確定だね。ハンス」

「胃が……痛い……」

全9話です。

よろしくおねがいします。

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