表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子は私に気づかない  作者: あおき華子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/16

第十五話

 ペトロネラが演技じみたため息をついた。


「諦めが悪いわねジョーン。まだ殿下に付きまとっているの?」


「……ペトロネラ」


 ペトロネラが口をすぼめた。

「ちょっと、どうして話せているのよ」


 怒りで、頭がズキズキと痛み始めた。


「悪びれもしないのね、ペトロネラ。……主はすべてをご覧になっているわ」


 美しい金糸の刺繍が施された、深緑のドレスを着たペトロネラ。

 ジョーンは自分の手首を、ギリギリとつかんで押さえつけた。


 ペトロネラは肩をすくめた。

「まあいいわ。話せたとしても、あなたがジョーン姫だとは誰も信じない……。その姿、なかなか似合っているわよ、ジョン?」


 ペトロネラの言葉が、呪いのようにジョーンの心に絡みついた。


「私のふりをしても、いつまでも騙せるわけがない」


 ペトロネラが強気に笑った。


「あなたよりかはジョーン・ド・ダンズウェルに見えるはず。殿下は疑ってもいないわ。知っているでしょう?明日、式をあげることを」


 ああ、主よ。もう耐えられない──





 ペトロネラはベールを指先でもてあそんだ。


 ジョーンになる。

 追い詰められた思いつきの行動なのに、驚くほどうまくいっている。


 簡単に惑わされたモンタギュー伯、王子、家臣達……


 本当に、うまくいっている……



 ペトロネラは唇を舐めて、意識的に胸を張った。


 顎に溜まった汗がぽたりと胸に落ちた。


 肩を撫でながら辺りを見回し、カラスを探した。

 近くの木にとまっていたカラスが、彼女を奮い立たせるように、一度強く鳴いた。


 ペトロネラはカラスにこくりと頷いた。


 ──私は間違ったりしない


「もしばれても、子どもができてしまえばこちらのものよ。……ねえジョーン、殿下はいい父親になると思わない?」


 ジョーンの顔から血の気が引いた。


 勝った。


「男のあなたには酷な話だったわね」


「……お願い、ネル。もとに戻して……」

 ジョーンが俯きながらボソボソと言った。


「悪いけど、戻し方なんて知らないわ」


 捨て台詞に満足しながら城に向かうと、ジョーンが両手で掴みかかってきた。


 今だとカラスが鳴いたので、ペトロネラは大きな悲鳴をあげた。





 城から向かってくる衛兵達。

 外階段に出てきた宴の客の先頭にラルフ王子がいた。


「この男が乱暴しようとしたわ!」

 ペトロネラが叫んだ。


 また捕まるのだ──向かってくる兵を見ながら、ジョーンの頭はやけに静かだった。



「待て!」

 王子が兵を止めた。


「殿下!」

 ペトロネラが王子に駆け寄り、縋り付いた。


 カラスが、地面をぴょんぴょんと跳ねている。


 すすり泣きが聞こえた。


 ジョーンの霞んだ目に、ペトロネラを抱き寄せ、優しくなだめる王子が映った。



 もうやめて……


 ジョーンはうめき声をあげて、その場から走り出した。





「説明してくれ、ジョーン」


 ラルフは、逃げてゆく男を目で追いながらジョーンに尋ねた。

 あの男が、そんなことをするわけがない。


 地面に落ちている、乾いた忘れな草の花束。いつもあの男が腰に下げていた。


「あの男が私を汚そうとしたの。殿下……とても、とても怖かった」


 ジョーンが体を縮めてすり寄った。


 なぜか肌がざわついた。


「少し離れよう、姫」

 ラルフはさりげなくジョーンの体を引きはがし、己の口元を手で隠した。


 ジョーンがすみれ色の目を丸くしている。ラルフ自身も驚いていた。


 おびえるジョーンに、まるで優しい気持ちになれない。


 私はジョーンを求めて、信じているはずなのに。





 ジョーンは森の端から崖下を覗いた。白い満月が海面に映り込んでいる。

 まだ潮は引いていない。


 島を出ることに意識を強く集中させた。

 でないと、王子とペトロネラの寄り添う姿を思い出してしまう。


 ガサガサと何かの近づく音がした。


 逃げ場のない崖の前。

 ジョーンはさっとその場にしゃがみ、頭を抱え込んだ。


「異端者!」


 きつい口調の小声が聞こえた。サー・ヘンリーだった。


「手間をかけさせるな!」


 ジョーンは気が抜けて、震える息を漏らした。


 サー・ヘンリーが鼻水をすすって、少し考え込むような顔をした。


「お前、本当にウィックスの娘に──」

「してないわ!」


 ジョーンは立ち上がりながら言い放った。


 ヘンリーが眉を寄せた。


「あ、ええと、……して……いません……」

「お前、話せるのか?」

「え?……あ……今は……」


 サー・ヘンリーが腕を組み、横目でじろじろと見てきた。


 遠くで、誰かの声がする。

 サー・ヘンリーが舌打ちをした。


「今はお前を信用するしかない。見ろ、あそこの桟橋に小船を見つけた。お前はあれに乗って対岸に向かえ。逃げるんじゃないぞ。助けを呼んでくるんだ。分かったな?」


 馬もいないのにどうやって……


「あの、殿下……殿下は?」

「……へそを曲げたウィックスの娘を探している。ジョーン姫だと思って」


 ジョーンは喉の奥で唸り声をもらした。


 サー・ヘンリーはジョーンに松明を押し付けて、慌ただしく去って行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ