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転生令嬢オリヴィアの完全犯罪マニュアル:愛を裏切った騎士への復讐は人生を支配する手引書だった  作者: リーシャ


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06真の結婚生活など存在しない。あなたは指示通りに動き、ロドリゴを操るための道具。それ以上でもそれ以下でもない

 筆跡は、以前よりもさらに力なく、丁寧になっている。与えられた課題を狂気じみた情熱でこなしているようだった。


「さて、今日のロドリゴはどんな夢を見てる?」


 皮肉を込めて呟いた。ロドリゴは、半年後の自由という餌に釣られ、想像以上の働きを見せていた。

 彼の領地は、急速に復興し、ヴァルデマー家の新たな拠点となりつつある。午後、カチュアをヴァルデマー邸に呼び出した。


 以前よりも洗練された身なりで、顔にはどこか怯えの色が浮かぶ。もうどこを見ようと、酒場の女ではなかった。援助で家族は裕福な暮らしを送っている。

 彼女自身もロドリゴ騎士爵の恋人として、ある程度の社交界に顔を出すようになっていた。


「ご機嫌麗しゅうございます、伯爵令嬢様」


 深く頭を下げた。


「ごきげんよう、カチュア。最近あなたの評判も上々のようね」


 優雅に微笑む。


「もったいのないお言葉です。全ては、ご配慮のおかげでございます」


 震える声で答えた。底知れぬ恐ろしさを身をもって体験していたからだ。言葉一つで、家族の運命が決まることを知っている。


「そう。あなたには、これからも愛のために耐える女を演じ続けてもらう。ロドリゴがこの領地を完全に復興させた暁には、あなたとロドリゴの結婚話を大々的に発表して」


 カチュアは、ハッと顔を上げた。


「け、結婚、ですか?」


 密かにロドリゴとの未来を夢見ていた。それが、現実になるかもしれないという喜びに、心が震えたようだ。


「ええ。ただし、世間に対する形ばかりのもの。ロドリゴは永遠に私の手のひらの上で踊る人形。あなたは人形の忠実な伴侶を演じるだけ」


 無慈悲で冷徹な言葉に、カチュアの顔から血の気が引いた。


「真の結婚生活など、存在しない。あなたは指示通りに動き、ロドリゴを操るための道具。それ以上でもそれ以下でもない。今更、勘違いしないとは思うけど」


 カチュアの顔を、覗き込むように言った。


「もし、あなたが私に逆らったり、ロドリゴに真実を話したりすれば。ふふ。あなたに大切なのは本当に一人?」


 ゆっくりと紅茶を一口飲み、続けた。


「家族は、再び路頭に迷うことになるでしょう。病気の母親は治療を受けられず、幼い妹は学校から追い出される。あなたの身には」


 言葉を区切って、その先を語る必要はなかった。カチュアは、震えながら頭を下げる。


「わ、分かりました。おっしゃる通りにっ」


「よろしい」


 満足そうに頷く。


「では、そろそろロドリゴが戻ってくる頃合いだから。あなたは今から彼の元へ行きなさい」


 驚いて顔を上げた。


「わたくしが、ロドリゴ様のもとへ?」


「ええ。彼の愛する女なのだから、再建された領地で彼を労ってあげなさい。彼にこう伝えるの。あなたのおかげで、私も家族も幸せになれた。あなたに感謝していると」


 オリヴィアの唇に、残酷な笑みが浮かぶ。面白くてたまらない。


「彼は、癒やしを求めるでしょ?そして、あなたに心酔する。そうすれば、彼をより深く支配できるという循環」


 言い終わり、部屋を退出。命令に従い、ロドリゴの元へと向かった。彼女の心は、歓喜と絶望の間で揺れ動いていた。愛する人と再会できる喜びと、策略の一部であるという虚しさ。


 数日後。オリヴィアの元に、ロドリゴから新たな報告書が届いた。そこには、カチュアが彼を訪ねてきたこと、どれほどカチュアの存在に救われたかが涙ながらに綴られている。


「カチュアが、俺の元に来てくれた。笑顔を見たらこれまでの苦労など、全て報われた気がした。俺はあの子のために、もっと頑張らなくてはならないと思っている」


 読んだオリヴィアは、静かに笑った。


(愚か者。本当に、愚か者だわ、ロドリゴ。陳腐な手紙まで寄越して)


 彼は、まだ気づいていない。言葉も、行動も、全てオリヴィアの筋書き通りだということに。甘い蜜に誘われ、自ら檻の奥へと足を踏み入れている。


 窓の外の空を見上げた。青い空は、どこまでも広く、澄み渡っている。


「これで、もう完全に逃げられない」


 支配欲と復讐心で満たされていた。


(これであなたは私のもの。真に自由などない檻の中で、永遠に私に仕え続けて)


 ゆっくりと立ち上がり、机の上の書類を整えた。


「リーゼ。次にロドリゴが休日の許可を求めてきたら、許可して」


「え?よろしいのですか、オリヴィア様?」


 リーゼが驚いたように尋ねた。これまでオリヴィアはロドリゴにほとんど休日を与えてこなかったから、反応はわかる。


「ええ。彼はカチュアに会いたいでしょうから」


 笑みを浮かべた。


「その際には、必ず彼女の家で過ごすように指示を出して。彼らが、どれほど仲睦まじく愛し合っているかを、民衆に見せつける必要がある」


 リーゼは意図を察し、静かに頭を下げた。


「皆に知ってもらうと、がんじがらめになるもの」


 ロドリゴとカチュアは、オリヴィアによって与えられた蜜と毒の檻の中で永遠に踊り続けるだろう。与えられた偽りの幸福に酔いしれ、真の自由を失ったことにも、気づかずに。笑みをさらに深めていく。

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