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転生令嬢オリヴィアの完全犯罪マニュアル:愛を裏切った騎士への復讐は人生を支配する手引書だった  作者: リーシャ


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03あなたの騎士としての名誉はすでに地に落ちている。衛兵隊の隊長が賭博と横領で逮捕され、執事が不正を働いた責任は全てあなたにある

 ロドリゴは顔を伏せる。


「滅相もございません。ただ」


「ただ、なぁに?」


 オリヴィアが詰め寄ると、絞り出すような声で。


「自由が、ない、から」


 小さく笑った。


「ふっ!あはは、自由?あなたは、以前『オリヴィアはな、いつでも僕を信じてくれている。それが僕の誇りだ』と言った。あなたは私の信頼を裏切り自由を謳歌していた結果が、これ」


 相手は反論できない。


「財産と騎士爵領の半分を私に譲渡した。正当な契約に基づくもので。住む場所を提供し、食事を与え、安全を保障している。これ以上の何を望むと?」


「わ、私は!騎士として」


「ぷっ。騎士として?騎士道のない人が何を言うかと、思えば。フフッ」


 冷ややかに言った。


「あなたの騎士としての名誉は、すでに地に落ちている。衛兵隊の隊長が賭博と横領で逮捕され、執事が不正を働いた責任は全てあなたにある。もし、不祥事を公にすれば騎士の称号を剥奪されるどころか、投獄される。それでもいいというの?」


 震えるように首を横に振った体から、力が抜けていくのがわかる。


「私は」


「 私の所有物になったのよ、ロドリゴ。望む通りに生きるしかない」


  ゆっくりと近づき、顎を掴んだ。強制的に顔を上げさせると瞳の中に、自分の冷たい笑みが映っているのが見えた。


「役立つ価値がある。金色の髪も、青い瞳も貴族としての身分も。だから生かしている」


  指が、頬を撫でた。


「う」


 感触は、氷のように冷たい。


「もし、あなたが私に反抗したり、役に立たなくなったりすれば。どうなるか、わかる?」


 ゴクリと唾を飲み込んだ音。


「わ、分かります」


「よろしい」


 手を離した途端にロドリゴは糸が切れた人形のように、その場に崩れ落ちる。


「今夜は、晩餐会。あなたの旧知の貴族たちが何人か来る。隣に座り、仲睦まじい婚約者を演じなさい。それがあなたの仕事よ?」


 笑う。言い残して部屋を出て行った。


 夜の晩餐会。ロドリゴはオリヴィアの隣に座り、精巧な人形のように微笑んだ。貴族たちは、二人の睦まじい姿に歓声を上げ、羨望の眼差しを向ける。

 虚な様子で彼らの言葉に、どこか上の空で相槌を打つ。脳裏には、オリヴィアの冷たい瞳と凍えるような指の感触が焼き付いている。


(これが、報いなのか?)


 ワイングラスに手を伸ばすとオリヴィアが静かに声をかけた。


「あまり飲みすぎないで。明日は、私の代わりに領地の視察に行ってもらうことになっているの」


 甘く響くが、ロドリゴにとっては命令だった。力なくグラスを置く。晩餐会が終わり、自室に戻ったロドリゴは、ベッドに倒れ込んだ。疲労困憊していた。


(俺は、いつまでこんな日々が続くんだ……?)


 脳裏に、昔の自分が楽しそうに酒場の女と笑い合っていた光景が蘇る。あの頃は、何不自由なく自分の好きなように生きていた。それが、今では。今では。

 コンコン。

 突然のノックに、ビクリと体を震わせた。こんな時間に、誰だろうか。


「ロドリゴ様、オリヴィア様がお呼びです」


 リーゼの声だった。心臓が、ドクンと跳ねる。また、何かあるのだろうか。渋々とした状態で自室に着くと彼女はナイトガウン姿で椅子に座っていた。


「夜分に申し訳ないけれど、少し話したいことがあるの」


 促すと、男は椅子に腰掛ける。


「あの、何か」


「ええ。最近、あなたの評判が上がっているから」


 意外な言葉を口にした。


「私の?」


「そう。ヴァルデマー邸に滞在するようになってから、騎士爵領の管理が行き届くようになったと商人たちが口々に言っていて。以前のような滞納もなく、治安も安定しているとか」


 困惑した。それは、こちらが彼の領地を管理するために送り込んだ、ヴァルデマー家の者たちの手腕によるものだったから。


「それは、オリヴィア様がやったことで」


「ええ、もちろん、手配したものよ。世間はあなたがヴァルデマー家に滞在し、愛を育んでいるからこそ領地の管理も行き届くようになった、と認識している。ふふ」


 唇に、薄い笑みが浮かんだ。


「つまり、あなたはさらに価値のある存在になった、ということ」


 言葉を失った。彼は、手の上で踊らされているだけだと、改めて思い知らされる。


「もう一つ、あなたに仕事を与えようと思っているの」


 一枚の地図を広げたそこには隣国の国境付近に位置する、荒廃した領地が示されている。


「この領地は、長年、盗賊の跋扈と領主の怠慢で荒れ果てている。そこでここを統治してもらう。半年後には領地を立て直し、ヴァルデマー家の傘下に入れること。できるかしら?」


 地図を見た。それは、あまりにも困難な任務だ。だが、心の中にかすかな希望の光が灯る。


「もし、もし、私が成功すれば?」


 震える声で尋ねたらオリヴィアは彼を見据え、冷徹な目を向けた。


「そうねぇ。もし、あなたが期待に応え、領地を完全に立て直すことができれば……」


 少し間を置いて。


「その時は、あなたの自由を、少しだけ与えてあげましょう」


 息を呑んだ。自由。それは、今、何よりも欲しているもの。


「ただし」


 釘を刺した。


「それは、こちらが与える仮初の自由。あなたが望む自由とは違うかもしれない。もし失敗すれば、その時は、残りの全財産をヴァルデマー家に譲渡してもらう」


「なっ」


 再び絶望した。

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