鏡
中島がいる。
よかった、死亡は誤報だったんだ。
気づくと彼の周りに尋問した三島や片平が現れこちらを招くように手を振る。
「中島さん…。」
一歩踏み出すと金縛りのように体が動かなくなる。
耳の中で声がする。
「そっちじゃない。」
声のした方向を振り向くと桔梗が笑顔で小さく手を振る。
安心できる表情に今度こそ駆け出そうとするも今度は床が沈むような感覚で転倒する。
「もちろんそっちも違う。」
煽るような言い方と思い通りに動かない体に苛立ちを覚える。
「じゃあ、こっちか?」
頭の裏で声が聞こえた気がして振り返る。
そこにはただ部長や生垣がこちらをぼんやり眺める。
あちらに行く気にはならないが声がまたする。
「そこが1番平和で光ある世界。だけど残念。そちらも違う。」
何がしたいんだ!ここはなんだ!
声を出すために喉を震わせても音は出ない。
しかしそれを聞き取ったように小馬鹿にした笑いが今度は目の奥からする。
やめろ!やめてくれ!
「残念ながらお前は大変な道を歩むよ。俺がそのレールを敷いてやるから踊りきれよ。ほら、こっちだ。」
声が右耳から入りそのまま頭を通過して左耳から出てくる。
出ていった方向を見るとこの世で1番見た顔がいやらしい笑みを浮かべて指を刺す。
あちらには行きたくない。
全力で逃げなければならない。
四つん這いで慌てて遠ざかろうとするも動く歩道のようにあちらへ引き摺り込んでいく。
いやだ!
「イヤダイヤダも好きなうち。これからよろしく頼むよ、俺くん。」




