人間
生垣の独演会は終わったようで少し息を切らしながら机にもたげる姿がシュウジには同じ生き物とは思えなかった。
唾を飲み込み喉を潤す。
取調室に響き渡ったのではないかと錯覚するほど静かな時間が流れている。
ようやくシュウジは言葉を絞り出す。
「そ、それはあまりにも…」
「そう、飛躍しすぎてるんです。」
先取りしたかのように生垣は話すがシュウジが言いたかったのは「狂った仮説だ。」だった。
そんなことを考えているシュウジには目もくれず生垣はまた話し出す。
「この仮説…まあ、元は解離性同一性障害で結びつけようとしていた無理筋の理論でしたが…。あなたが新たに提供してくれた情報で真理に辿り着けましたよ。」
「で、でも、ぶっ飛びすぎている。誰がそんな与太話を信じるんですか!?」
思わずシュウジは声を荒げる。
この問いについての答えは自分の中にも出ている。
「もちろん。裏付けるものが必要です。しかし、それもあなたが連れてきてくれる。」
「バカ言わないでください!そんな仮説のために彼女を連れてくるなんてできるわけがない!彼女の精神が少し不安定で意味のわからない戯言を言っているだけの可能性もある!いや、そっちの方がありある!」
「ではそれも含めて検証すればいい。どちらにせよきちんと検証しない限り確たる情報として出すことはできない。非公式で研究したところで結果さえ出ればそれでいいじゃないですか。まあ、結局のところ“対抗手段はない”と言う答えが出るだけで世間に公表されることはないんでしょうけど。」
生垣はなんてことはないと言った様子で話し続ける。
シュウジは腹からふつふつと感情が湧き上がるのを感じていた。
「あなたも政府の人間です。日本のために働きましょうよ。どうせ会って間もない人間でしょう?正直言ってあなたと違う世界線の生き物だ。危険だと思いますよ?保護しましょう。それならあなたも自分に言い訳がきく。」
どこまで言っても人ごとな理論にシュウジの限界がくる。
デスクの下にあるカバーのついたボタンを踏み抜く。
すぐさま警報音が鳴り扉が自動で開かれる。
廊下は赤色灯の光がちらつき異様な雰囲気を醸していた。
「な、何をするんですか!」
生垣は事態を飲み込めず立ち上がる。
デスクの上には足元のボタンを押した時に開かれる隠し戸がある。
そこには拳銃が無造作に置かれている。
ゾンビが何かの拍子で自由になった際の緊急措置だ。
こんな間の抜けた緊急措置、待っている間に襲われるだろうと思っていたが人間相手には役に立った。
拳銃を手に取ると意外と軽いことに驚く。
この上ない無機質な感覚。
「あんたは狂ってる…。」
「なにを…!」
拳銃を向けられ慌ててこちらに突っ込もうとする生垣に無慈悲な轟音が浴びせられる。




