第四十話:星の誓約、受け継がれる名
深い、深い闇の底で、俺は夢を見ていた。
まだ小さかった俺をベッドに寝かしつけながら、親父が語ってくれた冒険譚。それは俺にとって、どんな宝石よりも輝いて見える勇者の物語だった。
「ねえ、父さん」
幼い俺は、隣に座る親父の逞しい腕を掴んで尋ねた。
「僕の名前……アステリオっていう名前の由来は何なの?」
ゼニスは一瞬、遠い目をして微笑んだ。その顔には、今の冷徹な「影」など微塵もなかった。
「父さんはな、勇者として魔王を倒すために、ある精霊と約束を交わしたんだ。もし、父さんの心が闇に支配されたとき、父さんの心そのものが砕けてしまう……そんな厳しい契約だ」
親父は俺の頭を優しく撫で、その瞳をまっすぐに見つめた。
「その約束をした精霊の名が**『アステール』**。お前の名は、そこから取ったんだ。アステリオ……お前は父さんのすべてだ。そして、父さんの心が絶対に闇に屈しないための、一生の誓いの名なんだよ」
――皮肉なものだ。
その誓いは、今や無惨に砕け散っている。
***
「……っ……」
目が覚めた。冷たい岩の感触と、湿った空気。どれくらい眠っていたのかはわからない。
俺は痛む体に鞭打ち、よろよろと立ち上がった。ヒュドラとの死闘で削られた体力は完全には戻っていないが、不思議と足取りは軽かった。
洞窟の先、暗闇の奥にうっすらと、だが力強い光が見える。
「……星核鋼か」
確信があった。俺を呼んでいる。
細く険しい道を抜け、ようやく辿り着いたその場所は、無数の鉱石が星屑のようにちりばめられた巨大な空洞だった。その中心、祭壇のような岩塊の上に、ひと際まばゆい光を放つ鉱石が鎮座していた。
神の血、あるいは星の心臓。
俺がその前に立った瞬間、光は爆発的に膨れ上がり、視界を白銀に染め上げた。
重力が消える。
目を開けた時、俺は暗い洞窟にいたはずが、無限に広がる群青の宇宙に浮かんでいた。足元には銀河が流れ、頭上には数多の星々が瞬いている。
「……ここは……?」
その空間の中央に、一人の少女が立っていた。
透き通るような銀髪と、星の輝きを宿した瞳。彼女こそが、親父が語った精霊の成れの果て――。
「待っていたわ。我が名を継ぐ者、アステリオ」
鈴を転がすような声が、宇宙の静寂を震わせた。




