第三十七話:聖剣の真実、精霊の行方
「……知っているわけがない」
俺は正直に答えた。ただ、親父の剣が折れたことへの恐怖と、それを直さなければならないという義務感だけでここへ来た。イグニールは溜息をつき、煤けた作業台の端に腰を下ろす。
「あの時、星核鋼を掘り出し、精錬したときの話だ」
イグニールは遠い目をして語り出した。
「星核鋼には、気が遠くなるような年月を経て宿った『精霊』がいたんだ。その精霊はゼニスの強靭な魂に共鳴し、彼と血の契約を交わした。……『清き心で悪を討ち、世界を護る』という、絶対的な規律と引き換えにな」
イグニールの指が、砕けた欠片の一つをなぞる。
「その契約が破られたんだよ、アステリオ。お前の親父が人間への絶望に染まり、破壊の衝動に駆られた瞬間に、聖剣の中の精霊は……あいつを見限った。精霊は己の意思で剣を砕き、この世から消滅したのさ。だから今、その欠片には何の声もしないだろう?」
俺は欠片を握りしめた。確かに、そこからは何も感じない。ただの冷たい石くれのようだ。
「お前の親父は、世界を壊そうと決めた時点で、自ら聖剣を捨てたんだ。……精霊に見捨てられた剣を、どう直せってんだ?」
イグニールは突き放すように言ったが、その瞳の奥には微かな光が残っていた。
「だが、星核鋼の本質は変わっちゃいねぇ。精霊が消えても、その核にはまだ意思の欠片が残っているはずだ。かつてゼニスが潜り抜けた『灰塵の顎』の最深部……。そこには、星核鋼の『源流』があるかもしれない」
俺は立ち上がった。迷いはなかった。
「行く。俺が地下へ降りて、もう一度星核鋼を探し出す」
「……死ぬぞ。魔獣はまだそこに棲み着いているかもしれない」
「親父を止めるためだ。俺は契約を交わす。今度は、親父の意志じゃない……俺自身の意志でな」
俺の覚悟を聞いたイグニールは、ふっと薄く笑った。
「そうか。ならば行け。坑道の最深部には、俺もまだ踏み込んだことのない『忘れ去られた聖域』がある。そこに精霊の残滓が眠っているはずだ」
イグニールは分厚い手で俺の肩を叩いた。その眼差しは、かつて親父に向けたものと同じ、挑戦者を見る目だった。




