第三章 第三十六話:灰塵の顎、絶望の鍛冶場
「……あいつ、ゼニス・レイ・ブレイバーがこの**『灰塵の顎』**に初めて現れた時、俺たちは牙を剥いたよ」
イグニールは煙草の煙を吐き出し、遠い目をした。
「この地はかつて、山神の恩寵を受ける黄金郷だった。だが、魔軍の襲撃で同胞のほとんどが焼き殺され、山そのものが呪いの場所に成り果てた。死に絶えた同胞の灰と、絶望の口元のように崩れ落ちた坑道から、いつしか人々はここを『灰塵の顎』と呼ぶようになったんだ」
その言葉には、かつて誇り高き工房であった場所が、今は死の淵へと変貌した悲哀が滲んでいた。
「俺は、あいつを追い返そうとして無理難題を言ったんだ。鉱山の最深部、古の魔獣が棲む場所にだけ存在する**『星核鋼』**を獲ってこいとな」
「星核鋼……?」
「ああ。天より降り注いだ星の欠片が地中の熱で練り上げられた、神の血が宿る至高の鋼だ。ドワーフの伝説でも、これで作った武具は折れることがないとされている」
イグニールの拳が、テーブルの上で力なく震えた。
「あいつはやり遂げた。傷だらけになりながら、星核鋼を抱えて戻ってきたんだ。……だが、俺たちを待っていたのは栄光じゃなかった。魔軍が星核鋼の気配を察し、鉱山そのものを焼き払った後だったからな」
ゼニスが戻ったとき、そこはすでに地獄と化していた。無数の同胞の死骸、立ち上る黒煙。その中でゼニスはただ、イグニールに星核鋼を差し出したという。
「『あんたたちの誇りを、この鋼に込めてくれ』とな。俺は、魂を削ってその剣を打った。同胞の無念と、あいつの覚悟をすべてその鋼に流し込んだんだ」
イグニールは震える手で、テーブルに広げられた聖剣の破片をそっと撫でた。
「アステリオ。この聖剣『ブレイバー・エッジ』は、ただの鉄の塊じゃねえ。俺たちドワーフの『怨嗟』と、お前の親父の『覚悟』が練り込まれた、生きている呪いのような武器だ」
イグニールは鋭い眼差しを俺に向けた。
「……ゼニスは言っていた。『この剣が折れる時が、世界が一度終わる時だ』とな。……お前、知ってて持ってきたのか? この剣が物理的な衝撃なんかじゃなく、自ら砕け散った本当の理由を」




