第三十四話:廃坑の鎚音、鉄の絆
廃鉱山の麓から山頂を仰ぎ見る。立ち込める濃い霧が視界を遮り、山の全貌を隠していた。この静寂の中に、伝説の鍛冶屋イグニールが潜んでいる。
山の尾根に沿って、かつて鉱員たちが暮らした家屋の跡が連なっていた。窓は割れ、屋根は崩れ落ち、今はただ風が通り抜けるだけの骸だ。三千人以上が暮らしたというかつての繁栄は、剥き出しの土と朽ちた木材に飲み込まれている。
俺は一歩一歩、死んだ街の残骸を通り抜け、山頂を目指した。
道なき道を登り始めてしばらくした頃、霧の向こうから「カン、カン」と、乾いた鉄を打つ音が聞こえてきた。
四合目あたり。景色は相変わらず廃屋ばかりだが、音は確実に近づき、重みを増している。俺は足を止め、音の源を探った。
「……東か」
方向を定め、斜面を横切るように進むと、山肌を削り取ったような巨大な坑道の入り口が現れた。音は、その暗い口の中から漏れ出している。
俺はゆっくりと坑道へ足を踏み入れた。
奥へ進むにつれ、闇の中に橙色の光が揺らめいているのが見える。俺の気配を察したのか、不意に鎚音が止んだ。
「誰だ」
地底から響くような、低く凄みのある声。普通の人間なら腰を抜かして逃げ出すような威圧感だ。
「伝説の鍛冶屋イグニールに、頼みがあって来た」
「帰れ」
取り付く島もない拒絶。再び、激しい鎚音が坑道内にこだました。ここで引き下がるわけにはいかない。俺は肺いっぱいに空気を吸い込み、鉄を打つ音をかき消すように叫んだ。
「俺の名はアステリオ! 勇者の末裔だ! 聖剣の修復をお願いしたい!」
刹那、音が止んだ。
静寂が戻った坑道の奥で、先ほどよりも少しだけ落ち着いた、だが複雑な響きを含んだ声が聞こえた。
「……アステリオだと? あの男の子供か……」
「親父を……親父を知っているのか!」
「そんなところで立ち話もなんだ。こっちへ来い」
俺は誘われるまま、光の源へと進んだ。
そこには、赤々と燃える炉の明かりに照らされた、一人の職人が立っていた。
「……ドワーフか。まさか、こんなところで出会うとはな」
そこにいたのは、人間よりも一回り小柄だが、岩石を削り出したかのような頑強な肉体を持つ男だった。ドワーフ族――地上で最も優れた鍛冶の腕を持つと言われる伝説の民。
イグニールは深く刻まれた眉間の皺を動かし、鋭い眼光で俺を見据えた。その目には、懐かしさと、それ以上の深い憂いが宿っていた。




