第三十三話:英雄の断罪、砕かれた希望
兵士の語るゲシュタールの惨劇は、悪夢以外の何物でもなかった。
両軍が川を挟んで対峙した戦場。ヴィンセントは、伝説の騎士の末裔らしく、川を渡る魔軍を確実に殲滅する正攻法で戦局を優位に進めていた。しかし、夕闇が戦場を支配し始めたその時、たった一人で戦場に歩み入る男が現れたという。
降り注ぐ矢を切り払い、突撃する重騎兵を紙屑のように弾き飛ばす圧倒的な力。
ヴィンセントは陣を飛び出し、その男の前に立ちふさがった。兵士によれば、二人が言葉を交わした瞬間、あの冷静沈着なヴィンセントが激しく動揺を見せたという。
激闘の末、ヴィンセントは男の剣に貫かれ、地に伏した。主を失った王国軍は、雪崩を打って押し寄せる「影」の軍勢に蹂躙され、壊滅した。
「……ヴィンセントが、死んだだと?」
俺の心臓は波打ち、頭から血の気が引いていった。
兵士が語る「その男」の特徴。高潔な面影、そして何より、あの絶望的なほどの覇気――それは間違いなく、俺の親父だった。
……ヴィンセント。俺の数少ない、本当の意味での友が。
やり場のない怒りが全身を駆け巡り、俺は荒野で咆哮した。
「うおぉおおおおぉ!!」
今すぐにでもゲシュタール平原へ戻り、親父をこの手で……! いや、違う。親父を殺すためにも、ヴィンセントの仇を討つためにも、今の俺では不可能だ。あの大剣を振るう亡霊に勝つためには、聖剣の復活が絶対条件だ。
俺は震える手を強く握りしめ、泥の中に膝をつく王国兵に目を向けた。
「……お前、立てるか」
兵士の目には、俺に対する恐怖と畏怖が混じっていた。俺は彼に、比較的安全な山間の迂回路と、わずかな干し肉を手渡した。
「最終防壁まで行け。そこへ辿り着けば、命までは取られまい」
「あ、あんたは……」
「俺は、やらねばならないことがある。もう二度と、あんな真似はさせん」
突き刺さるような冷たい風の中、俺は怒りと悲しみを鋼の意志で心臓の奥底へ押し込めた。
廃鉱山へ続く道は、もうすぐそこだ。俺は一度も振り返らず、目的地へと歩を速めた。
親父、あんたが世界をゼロにしようというのなら、俺はその意志ごとあんたを破壊する。
それが、息子として、そして戦士としての最後の弔いだ。




