第三十二話:壊滅の報、慟哭の荒野
翌朝。焚き火の残り火を消し、出発の支度を整えていた時だった。
森の奥から、男の悲鳴が突き刺さるように響いてきた。
「くっ……来るな!!」
距離は近い。俺は傍らに置いていた剣を掴むと、瞬時に音もなく駆け出した。
茂みに身を隠して覗き込むと、そこには追い詰められた王国兵と、三体の「ゴブリン」の姿があった。だが、俺の知る低級魔族とは明らかに何かが違う。その身には、見る者すべてを蝕むような禍々しいオーラが渦巻いていた。
(……ただのゴブリンじゃない。何かに汚染されているのか?)
一瞬の迷いもなく、俺は茂みを飛び出した。
一足で距離を詰め、先頭のゴブリンの首を跳ねる。続く二体目も袈裟懸けに切り伏せたが、三体目は俺の踏み込みを正確に読み、その爪で俺の剣を受け止めた。
膂力が異常だ。奴は力任せに俺を跳ね飛ばした。空中で姿勢を制御し着地するが、次の瞬間、俺の剣が嫌な音を立てて欠けた。
「クソッ、こんななまくらでは……!」
俺は近くで呆然としていた王国兵に向かって怒鳴った。
「おい! お前の剣を貸せ!」
彼は無言で腰の剣を投げ渡した。戦場仕込みの、手入れの行き届いた業物だ。これなら耐えられる。
俺は柄を握り、短く詠唱して魔力を流し込む。刀身が淡い光を帯びた瞬間、三体目のゴブリンが咆哮とともに襲いかかってきた。振り下ろされた爪を紙一重でかわし、そのまま奴の喉元へ剣を突き立てる。
断末魔とともにゴブリンが絶命した。
俺はふらつく王国兵に手を差し伸べて立たせ、礼を言って借りた剣を返した。
「……こんなところで何をしている。部隊はどうした?」
男は肩で息をしながら、死んだような目で俺を見つめた。
「ありがとう……助かった……」
それきり言葉が続かない。俺は胸の焦燥に耐えかね、再び問いただした。
「答えてくれ。ゲシュタール平原の王国軍は、今どうなっているんだ!」
男は沈痛な面持ちで、かすれるような声で答えた。
「……王国軍は、壊滅した。」
その言葉を聞いた瞬間、目の前が真っ白になった。
「何だって……? どういうことだ。ヴィンセントはどうした! あの男が率いる軍勢が、こんなにもあっさりと敗れるはずがない!」
気づけば、俺は彼の胸ぐらを掴み上げていた。あまりの興奮に男の顔が青ざめていく。
「す、すまない……」
俺は我に返り、手を離した。
「いや……いいんだ。……話してくれ。平原で、一体何が起きたんだ?」
男は泥にまみれた顔で、悪夢のようなゲシュタールの惨状を語り始めた。




