第二十四話:前哨の宴、戦火の陰
日が暮れ始めた頃、俺たちは「兵站前哨村」にたどり着いた。
かつては地図の隅にひっそりと存在する過疎地だったはずだが、王国軍が補給拠点として整備したことで、村は変貌を遂げていた。軍需物資を運ぶ荷馬車が列をなし、行き交う兵士たちの怒号と笑い声が混じり合う。戦に備えた狂騒とも言える好景気に、村全体が熱を帯びている。
「うわぁ……こんなに大勢の人を見たのは初めてです!」
ルカは目を丸くし、子供のように辺りを見渡して興奮を隠せない。俺はそんな彼の背中を押しながら、村の中央にある宿に荷を置くと、二人で酒場へと足を踏み入れた。
酒場の中は、外以上の熱気に満ちていた。
ルカはキョロキョロと落ち着きなく歩いているうちに、客引きをしていた娼婦の集団に捕まり、身をよじって冷や汗を流している。俺は苦笑しながら、空いていた二人掛けの席を確保した。
数分後、ようやく解放されたルカが、真っ赤な顔でこちらへ駆け寄ってくる。
「いや~、すごいですね! 王国にはこんなに人がいたのかと思って……いやあ、驚きました」
……こいつを王都に連れて行ったら、五分と持たずに騙されるか、悪い女に骨抜きにされるんじゃないか。俺はそんな心配を抱きながら、運ばれてきた料理を前にジョッキを掲げた。
「とりあえず、乾杯といこうか」
「はい、ジンさん!」
金属音が小気味よく響く。
この辺りの名物だという鶏のローストは、荒々しいスパイスが効いていて酒が進む。戦前夜特有の、明日への不安を忘れさせるような酒場の喧騒。明日からは、俺たちはさらに危険なエリア――戦火の最前線へと足を踏み入れることになる。
(……まあ、今日くらいは羽目を外してもいいだろう)
俺も、そしておそらくはルカも、どこかで「明日」というものが保証されていないことを理解しているのかもしれない。
だからこそ、今この瞬間の温かさと、鶏肉の脂の旨味、そして何より他愛もない話ができる友人の存在が、妙に愛おしく感じられた。
深夜に近づくにつれ、酒場の灯りは少しずつ沈んでいく。俺とルカの夜は、空になったジョッキと尽きない語らいとともに、静かに更けていった。




