第二十三話:鋼の路、不吉な風
「断絶の門」を、俺たちは何事もなく通り過ぎた。ルカが提示した特別な通行手形を、門兵は眉一つ動かさずに受理した。「石工」という身分は、この戦時下においてこれほどまでに便利な通行証となるとは。
門から「第十三防衛区・鉄鎖門」までの道は、軍の進軍のために広範囲に舗装されていた。かつて魔軍と激突した荒野とは思えないほど整備されたその路を、俺たちは黙々と進む。このペースなら、二日もあれば鉄鎖門へ到達できるはずだ。
道中、ルカは屈託のない様子で身の上話を語った。
故郷で待つ婚約者のこと。いつか正式にプロポーズをするのだと語る彼の横顔は、戦場へ向かう青年のものとは思えないほど晴れやかだった。父から仕込まれた石工としての技術や、仕事に対する誇り。彼は一度も俺の正体を疑うような素振りを見せない。
俺もそれに応じるように、「設計士のジン」という仮面を被り続けた。
偶然見つけた不思議な結晶――聖剣の残骸を、平原西の廃鉱山にいる偏屈な鍛冶屋に見せに行くのだと説明すると、ルカは「こんな危険な時期にですか」と目を丸くしたが、それ以上は詮索してこなかった。
(……この若者を、無事に送り届けなければな)
己の使命とは別に、そんな個人的な感情が胸に芽生えていた。彼には、俺が知ることのできなかった「当たり前の未来」がある。それを守ってやりたいという、ささやかな願い。
ふと、前方の視界が開けたところで、蹄の音が激しく響いた。
一騎の騎馬が、砂埃を上げて駆け抜けていく。鉄鎖門の方から、王都へ向かう伝令だった。
「王都への伝令ですかね? 順調なんじゃないですか」
ルカが楽観的に呟く。
「……ああ、そうだといいんだがな」
俺は心の中で毒づいた。
今の伝令の顔を見た。肩の落とし方、青ざめた肌、そして何より、周囲の兵を追い越す際の殺気立った余裕のなさ。あれは勝利を報告する使者の顔ではない。戦況が、想定以上に悪化していることを告げる「警告」の顔だ。
ゼノスか、あるいはグリルか。
戦場の空気が、目に見えないところで変質し始めている。
俺は歩調を早めた。聖剣を直すまで待ってはくれない。この路の先に、何が待ち受けているのか。




