第二十二話:石工の誘いと幸運な切符
「お前は……昼間の」
俺が顔を出すと、その男は深々と一礼した。
「私は『ルカ』と申します。昼間は危ないところを助けていただき、本当にありがとうございました」
「いや……気にするな。俺も少しムカムカしてたんだ。お前のためにしたわけじゃない」
あまり深く関わり合いになるのは本意ではない。正体を隠す身としては、他者との縁は薄いほどいい。俺はあえて突き放すような言い方をしたが、ルカは怯むことなく微笑んだ。
「理由はどうあれ、助けていただいた事実に変わりはありません。お礼と言っては何ですが、一杯奢らせてください。下で少し、お話ししませんか?」
断ろうとしたが、その澄んだ瞳に宿る真摯な光に、得も言われぬ興味が湧いた。
「わかった。準備するから少し待ってくれ」
***
一階の酒場の喧騒も落ち着き、俺たちは隅の席で再びグラスを傾けていた。
ルカの話によれば、彼は石工として働いており、ゲシュタール平原のさらに奥地にある古い関所の修繕工事に召集されたのだという。しかし、目的地までの道中は治安が悪化しており、無事にたどり着くために腕の立つ俺に同行してほしいというのが彼の願いだった。
「実はジンさんが、ゲシュタールへ行かれると話していたのを聞いていまして。もし方向が一緒なら、どうでしょうか?」
「……一緒に行くことを拒みはしないが、実は俺は少し顔が割れていてな。あまり派手に目立つわけにはいかないんだ」
俺が言葉を濁すと、ルカは「だったらなおさらです」と身を乗り出した。
「石工に与えられた特別な通行手形を、私は持っています。これがあれば兵士の検問も最小限で済みますし、ジンさんも私の助っ人の石工だと言い張れば、すんなり通れるはずですよ」
まさかこんな幸運が転がり込んでくるとは。あのごろつきどもを叩きのめした代償が、難攻不落の要塞を抜けるための「免罪符」になるとは思わなかった。
(やっぱり、人助けはしておくものだな……)
俺は心の中で苦笑いしながら、グラスの酒を一気に飲み干した。
断崖をよじ登る必要も、強行突破の必要もない。俺たちは「職人」として、堂々と断絶の門をくぐることになった。




