第十三話:教室の追及、逃げ場なき沈黙
夕暮れの学校。生徒たちは既に帰宅し、校舎には静寂だけが満ちている。
俺は教室の中央に並べられた椅子に腰を下ろし、リナ先生と向かい合っていた。差し込む夕日が、俺の逃げ場を塗りつぶしていく。
リナ先生はおもむろに、机の上に端末を置いた。
「これを見ていただけますか?」
静かに再生された動画。そこには昨夜、黒ジャージに身を包んで校庭を駆け回る「ジン」の姿と、傍らで配信を行うイザベラの姿が鮮明に映し出されていた。
「これ……お父さんですよね?」
彼女の視線が、サングラス越しに俺の心臓を刺し貫く。あまりに痛い。
「さあ……確かに体型は似ていますが、先生、私はしがない設計士です。こんなに強くはありませんよ」
苦し紛れの言い訳だった。
「そうですか……」
先生は小さくため息をつき、動画を早回しした。
そして、影との戦闘のクライマックス。俺が砂の刃を間一髪で回避した際、激しい動きでジャージのポケットから何かが滑り落ちた。
先生は迷いなくその瞬間に動画を止め、拡大した。
画面いっぱいに映し出されたのは、地面に落ちた一枚の紙片――先週、俺がノインの鞄から見つけた「授業参観の案内」だった。右下には、ノインが暇つぶしに描いた小さなドラゴンの落書きまで、残酷なほど鮮明に浮かび上がっている。
「……ジンさん。このプリント、私が直接カイト君に手渡したものです」
リナ先生は椅子をガタリと鳴らして立ち上がり、ゆっくりと俺の正面まで歩み寄ってきた。影に覆われた彼女の表情は、いつもの温和な先生のものではない。
「設計士の方が、なぜ深夜の学校に忍び込み、あのような……人間離れした動きで戦えるんですか? そしてなぜ、カイト君の私物を肌身離さず持っているんですか?」
言い逃れは不可能だった。
このまま正体を明かすべきか。だが、それをすればカイト(ノイン)を守るための平穏な日常は即座に崩壊する。
「……先生」
俺が覚悟を決め、リナ先生にすべてを打ち明けようと口を開きかけた――その刹那だった。
夕闇が、突如として不吉な黒色に染め上げられた。
空が割れんばかりの雷鳴が轟き、窓ガラスが激しく震える。
「な、何……!?」
俺は反射的に立ち上がり、窓へと駆け寄った。
外を見て、息を呑む。校庭は昨日と同じ、異形の闇に侵食されていた。それどころか、昨夜を遥かに上回る魔力の奔流が渦を巻き、巨大な砂の魔獣が二階にあるこの教室の窓まで首を伸ばしている。
魔獣の頂点、荒れ狂う砂の渦の中に、そいつはいた。
ノインと同じ顔立ちをしながら、瞳には冷酷な光を宿した男――ゼノスだ。
「また会いましたね、お父さん」
ゼノスは不敵な笑みを浮かべ、ガラス越しに俺とリナ先生を見下ろす。
俺はジャージの裾を掴み、脱ぎ捨てた。もう、隠している時間はない。
「先生、下がってください。ここからは……俺の仕事だ」
そう言い残し、俺は窓枠を蹴り上げ、校庭の修羅場へと飛び出した。




