第十二話:禁書の予言と、逃れられぬ再会
翌朝、俺はヴィンセントと共に王国図書館の奥深くにいた。
ノインには「急な仕事が入った」と嘘をつき、昨夜絶界宮に現れたゼノスのこと、そして学校を襲った魔獣の紋章について歩きながら彼に話した。
「ノインは大丈夫なのか?」
ヴィンセントが、眉間に深い皺を寄せて尋ねる。
「ああ、今はグリルとリリスが交代で警護についている。とはいえ、余計な心配はさせたくない。……あいつに兄がいることは、まだ伏せているんだ」
「そうか……」
ヴィンセントは重いため息をついた。
「ようやく平穏な日々が来たと思ったんだがな。運命というのは、どこまでも残酷だ」
「ああ」
俺も力なく頷く。
「俺はあちらの棚を探してみるよ。何かあれば呼んでくれ」
ヴィンセントが席を立ち、俺も別の列へと向かった。
王国が誇る膨大な古文書の森。埃を被った羊皮紙の山から、お目当ての「破壊神」の記述を探し出すのは、絶界宮の建設よりも骨が折れる作業だった。
窓から差し込む陽光が、夕闇に溶け始めた頃。
俺とヴィンセントは期待した成果を得られず、机に突っ伏してうなだれていた。破壊神は、お伽話や神話の向こう側の存在だ。現実的な対処法や詳細が書かれた書物など、本当に存在するのか。
その時、俺たちの前の机に一冊の分厚い書物が、ドンッ! と重々しい音を立てて置かれた。
「あんたたちが探しているのは、これでしょ?」
顔を上げると、そこには腰に手を当てて俺たちを見下ろす、勝ち誇った顔のイザベラがいた。
「ほんとに情けない男たちね。本の一冊もまともに探せないんだから」
俺とヴィンセントは苦笑しながら顔を見合わせた。この女の情報収集能力だけは、勇者時代から一歩抜きん出ている。
イザベラが持ってきた禁書によれば、破壊神は絶界宮よりもさらに北、俺ですら立ち入ることが困難な、極寒と魔力の嵐が吹き荒れる「最果ての深淵」に封印されているという。
初代勇者が激闘の末に封印したとされるそれは、千年以上眠り続けているはずだった。
(それがなぜ、今になって……)
ゼノスが関わっていることは疑いようがない。だが、魔王の息子がなぜ、一族をも滅ぼしかねない破壊神の力に手を染めているのか。
重苦しい沈黙が場を支配する。
「……ガリウスが馴染みの酒場で待っている。そこで今後のことを話し合おう」
ヴィンセントの提案に、俺とイザベラは静かに頷いた。
図書館を出て、夕暮れの街路を三人で歩き出した時のことだ。
「カイト君のお父さん!!」
背後から突き刺さるような鋭い声が響いた。
振り返ると、そこには腰に手を当てて仁王立ちし、レンズの奥で目をぎらつかせたリナ先生が、俺を鋭い視線で睨みつけていた。
昨夜の「動画」と「プリント」。
忘れていたわけではないが、世界滅亡の危機に比べれば後回しにできると思っていた問題が、今、猛烈なプレッシャーとなって俺の背筋を凍らせた。




