第八話:再会の予兆
山頂まではまだ半分といったところか。
王国軍は山の中腹に差し掛かったところで進軍を止め、野営の設置を開始した。先に放っていた斥候から、山頂付近に魔王軍の主力と思われる影が待ち構えているとの報告が入ったからだ。
「ヴィンセント……どう思う?」
隣にいたヴィンセントが、兜を脱いで俺の方を見た。その瞳には、騎士としての冷静な観察眼が宿っている。
「……確かに、抵抗がなさすぎるな。我々がここに来ることは、向こうも百も承知だったはずだ。ここまで登ってくる間、伏兵を置くのに好都合な場所はいくらでもあった」
ヴィンセントは顎に手を当て、険しい表情で続ける。
「ゲシュタールでのあの戦いぶりを見るに、敵の総帥がそこまで戦略に疎いとも思えん。奴ならもっと泥沼の遅滞戦闘を仕掛けてくるはずだ」
ゲシュタールでの戦い――。
俺がヴェイルとして指揮を執ったあの日のことを持ち出され、心臓が跳ねた。罪悪感と焦燥が、冷たい汗となって背中を伝う。
「……そうだな。何かが、引っかかる」
「焦って動くこともあるまい。斥候のさらなる報告を待つとしよう。アステリオ、お前は少し休め。顔色が悪いぞ」
「ああ……すまない」
ヴィンセントの言う通りだ。今は勇者として、冷静に敵を迎え撃つ準備をしなければならない。
だが……。
(……なんだ、この胸騒ぎは)
テントの入り口から山頂を見上げる。
雲に隠れたその場所から、かつての仲間たちが発する、懐かしくも恐ろしい気配が漂ってくるのを感じる。
その中には、ひときわ異質な、そして凍りつくような冷たさを秘めた「魔力」が混じっていた。
(まさか……来ているのか。リリス、グリル……。それに、ノインまで……!)
俺が去り際に放った「勇者を殺せ」という呪いのような命令。
彼らはそれを忠実に守るために、この聖なる山を自分たちの、あるいは俺の墓標に選んだというのか。
夜の静寂が深まるにつれ、山頂から届くその気配は、まるで俺を呼び寄せる慟哭のように、激しさを増していった。




