第六話:総帥の退任、あるいは断罪の始まり
絶界宮。かつては復讐の拠点であったこの広間に、周辺から呼び寄せられた上級魔族たちが集結していた。その中には、忠実な武人であるグリルや、広報官のリリスの姿もある。
王座には小さな魔王ノインが座り、その傍らには仮面を被った総帥ヴェイルが立っていた。
だが、集まった魔族たちに緊張感は微塵もない。彼らにとって、ヴェイルが招集をかけるのはいつもの日常なのだ。リリスは不敵な笑みを浮かべ、新しい動画を回しながら俺と目が合うと、親しげに手を振ってきた。
俺は、震える喉を抑え込み、重く口を開いた。
「今日集まってもらったのは他でもない。皆に重要な話がある」
「ねぇねぇヴェイル、何か楽しいことが始まるの?」
ノインは期待に目を輝かせながら、俺の顔を覗き込む。
……耐えられない。だが、目を逸らすわけにはいかない。俺は、自分を信じ切っているその純粋な瞳を見つめ返し、優しく語りかけた。
「とても大切な話だ。……ちゃんと聞いておくんだよ」
「うん!」
年相応の子供のように、王座で足をぶらぶらと落ち着きなく動かしながらも、ノインは俺の言葉を一言も聞き漏らすまいと居住まいを正した。
「諸君、よく集まってくれた。これまでの諸君の活躍により、今や王国の半分を手中に収めることに成功した」
広間に地鳴りのような歓声が沸き起こる。だが、俺はそれを制するように手を上げた。
「……だが、これより先、我らの戦いはさらに熾烈を極めるであろう。王国は今以上に必死に抵抗してくる。今までのような浮ついた気持ちでは到底持ちこたえられない。……今後、人間との私的な接触を、一切、禁止する」
リリスの動きが止まったのが、横目で見えた。
「よいな。人間はすべて敵だ。……すべて、八つ裂きにせよ」
(……そうでなければ、真っ先に殺されるのはお前たちだ……!)
「私の得た情報によれば、王都に『勇者の末裔』が招聘されたという。彼とその仲間は強い。中途半端な心構えでは一瞬で屠られるだろう。……いいか、勇者を見つけたら、全力で殺せ。情けはいらない。必ず、殺すのだ」
熱狂していた広間は、氷を打ったような静寂に包まれた。俺は、その静寂を切り裂くように最後の一言を放つ。
「それから……。魔王軍総帥ヴェイルは、本日をもって絶界宮を去る。……もう、会うことはないだろう。諸君らの活躍を、心より祈っている」
それだけを言い残し、俺は背を向けた。
振り返れば、すべてが崩れてしまう。俺はマントを翻し、逃げるように足早に広間を出た。
「嫌だよ、ヴェイル!! ヴェイル、待って!!」
後ろから、ノインの泣き叫ぶ声が響く。
「僕が……人間を食べちゃったから? ごめんなさい、もうしないから! ヴェイル、行かないでよぉ!!」
(すまん、ノイン……。すべては俺の愚かさが招いたことだ)
俺の頬を、熱いものが伝う。
これから起こる未来が、どれほど残酷で救いのないものであろうとも。
お前たちを愛してしまった罪も、お前たちを殺しに行かなければならない罰も。
すべて、俺一人が背負って地獄へ行く。




