第五話:決別のミッション
「どうするって……王からの要請を断るわけがないだろう」
俺は吐き捨てるように言い、再び歩き出そうとした。だが。
「待ち切なさいよ」
イザベラが俺の腕を掴み、無理やり引き止める。正面から対峙した彼女の鋭い視線が、逃げ場を塞ぐように絡みついた。
その目は、俺を責めているのか。それとも、憐れんでいるのか。
耐えきれず視線を逸らす。これでは、彼女の疑惑を認めたも同然だった。
「……いつから、疑っていた?」
俺の問いかけに、イザベラは拍子抜けするほどあっさりと答えた。
「最初から」
「最初からって……それは、ノインのインタビューの時からか?」
「そ。だって、あんた挙動不審なんだもん。顔バレNGとか言い出すし、これは何かあるなって思ってたわ。……で、リリスちゃんの村に行った時に確信した。だって、そこにジェシカおばさんがいたんだもん」
女の勘は鋭いと言うが、この女はただの女じゃない。そもそも、情報のプロである彼女を巻き込んだ時点で、俺の運命は決まっていたのかもしれない。
俺は腹を括った。この女に、これ以上隠し事は通用しない。
「……そうだ。俺がヴェイルだ。だとしたら……俺を殺すか?」
沈黙が支配した。冷たい夜風が、二人の間を気持ちよさそうに吹き抜けていく。
やがて、イザベラがゆっくりと口を開いた。
「殺す」
短く、揺るぎないその言葉に、俺は反射的に身構えた。
「……あんたが、魔物の味方をするならね」
イザベラは一歩踏み込み、俺の胸ぐらを掴むほどの勢いで顔を近づけた。
「ねえ。私たち四人は、由緒正しき勇者とそのパーティの末裔なのよ。目的はいつだって決まってる。私たちはいつの時代だって、魔物を殺し続ける存在なの」
耳の奥で、昨夜思い出した父の言葉と、イザベラの宣告が反響する。
「あんたが間違った選択をしないことを願っているわ。……このことは、ガリウスとヴィンセントには黙っておいてあげる。だからあんたは、リリスちゃんを悲しませないように説得しなさい。それが最後のミッションよ」
イザベラの瞳が、月光を反射して冷たく輝く。
「それが、あの魔物たちとの……最後のお別れよ」
彼女の言うことは正しい。
この歪んだ関係を終わらせられるのは、始めた俺自身しかいない。誰を恨むことも許されない。恨むべきは、復讐に目が眩んで「家族」ごっこに逃げ込んだ、愚かな自分なのだから。
俺は、震える拳を強く握りしめた。




