第四章:第五話「決死の突破行、交わす約束」
城門を飛び出したヴィンセントたちは、地を埋め尽くさんとするアビス・ゲイザーの群れと真っ正面から激突した。異形の魔獣が鎌のような鋭い爪を振り下ろすが、ヴィンセントはその瞳を逸らさない。
「いいか! まともに戦おうとするな! 攻撃をいなして、ひたすら突破しろ!」
ヴィンセントは一撃を剣の腹で巧みに受け流すと、その反動を利用して加速し、疾風のごとき速さで敵陣を駆け抜けた。背後に続く騎士たちも、ヴィンセントの背を追う。真正面から対峙すれば、数に押し潰されるのは明白だ。彼らは最小限の動きで攻撃をかわし、あるいは盾で弾き飛ばしながら、強引に包囲網に風穴を開けていく。
凄絶な突破行。数名の騎士が魔獣の爪に捕まり犠牲となったが、ヴィンセント軍はついにアビス・ゲイザーの厚い包囲を突き破り、荒野へと駆け出した。
その光景を城壁から見届けていたガリウスが、腹の底から絞り出すような唸り声を上げた。その咆哮に引き寄せられるように、ヴィンセントを追おうとしていた魔獣たちが再び城壁へと向き直る。
「……ふん。あんたより馬鹿で助かったじゃない、あいつら」
隣で杖を構えていたイザベラが、緊張を隠すようにガリウスをからかった。だが、ガリウスはいつものように言い返さず、真剣な眼差しで城壁の真下に集結する魔獣の群れを見つめていた。
「イザベラ。……お前だけは、俺が命に代えても守り通してやるからな」
不意に投げかけられたあまりにストレートな言葉に、イザベラは一瞬目を見開いた。だが、すぐにいつもの不敵な笑みを取り戻し、鼻で笑ってみせる。
「馬鹿言わないで。私はあんたに守られるような弱い女じゃないわよ」
「……はっ、ちげぇねぇ」
ガリウスは、己の愛する女の強さを誇るように、そして迫りくる死の影を振り払うように、豪快に笑い飛ばした。
「がははははははっはは!!」
凄惨な戦場に似つかわしくない、だが力強い笑い声が、王都の空に高く響き渡った。




