第四章:第三話「鋼の意気、鉄の防壁」
先の大戦の傷跡も癒えぬまま、王都グランセールは再び戦火の渦に包まれた。
空を埋め尽くさんばかりに迫りくるアビス・ゲイザーの群れ。城壁に陣取った王国兵たちは、悲鳴にも似た号令と共に、持てる限りの矢を雨あられと浴びせる。
しかし、異界の魔力で編まれたアビス・ゲイザーの肉体は、並の攻撃では止まらない。無数の矢が全身に突き刺さり、ハリネズミのような無惨な姿になってもなお、奴らは不気味な咆哮を上げながら垂直に近い城壁を這い上がろうとする。
「駄目だ!! 奴らの硬い胸当てを破壊しねぇ限り、矢をいくら射ったところで止まりゃしねぇ!」
前線の指揮を執るガリウスが、その巨躯に似合わぬ鋭い観察眼で叫んだ。アビス・ゲイザーの核を守る胸部の装甲は、通常の弓矢では弾き返されてしまう。
「ヴィンセント! 城門を開けてくれ。俺が打って出て、奴らの胸当てを片っ端から叩き壊す!」
その無茶とも言える提案に、ヴィンセントは一瞬だけ目を閉じた。だが、今の防衛戦においてガリウス以上の適任はいない。彼は短く頷き、重い決断を下した。
「……許可する。ガリウス、死ぬなよ! 門を開けろ!」
ギギギギッ……!
重厚な石造りの城門が、不吉な摩擦音を立ててゆっくりと開く。その音を嗅ぎつけたアビス・ゲイザーたちが、一斉に首を巡らせ、獲物を求めて開いた門へと殺到した。
「ちっ……。感情の欠片もねぇ、相変わらず気味の悪い奴らだぜ」
迫りくる異形の群れを前に、ガリウスは一つ悪態をつき、愛用の大剣を肩に担ぎ直した。
「野郎ども、俺に続け!! 狙うのは奴らの胸当て一点のみだ! 破壊したら深追いせず、すぐに引け。……いいか、勇んで死のうなんて思うなよ! 生きて戻るのが仕事だ!」
「おおおぉお!!!!」
呼応する騎兵たちの雄叫び。
地響きを立てて、ガリウスを先頭とした突撃部隊がアビス・ゲイザーの黒い津波へと飛び込んでいった。鉄と魔が火花を散らす、王都防衛の正念場が始まった。




