第百四十八話:神蝕の儀、完成の深淵
古代遺跡の最深部。王都の喧騒も届かぬ地の底で、静寂と狂気が交錯する儀式の場があった。
中心に座すモルガウスの周囲には、幾何学的で不気味な光を放つ魔導回路が幾重にも巡らされ、虚空から引きずり出された異界の魔力が黒い霧となって渦巻いている。
「……ようやく、この時が来た」
モルガウスが低く詠唱を唱えると、遺跡の壁面に刻まれた古の神紋が一斉に赤黒く脈動を始めた。
それは「星喰」の最終段階。地上から奪い上げた膨大な霊力と、祭壇から持ち出した異界の残滓を、自らの肉体を器として完全に練り上げる禁忌の儀式である。
モルガウスの肉体は、すでに人の理を捨て去っていた。
皮膚の下では、実体化した神の意志が蠢き、血管は暗紫色に変色して浮き上がっている。一息つくごとに、周囲の空間がひび割れるような異音を立て、この世界とは異なる理が物質界を侵食していく。
「肉体という牢獄を捨て、我は星の意志と一つになる」
彼が杖を掲げると、天井から降り注ぐ闇の奔流がその身を包み込んだ。
内側から引き裂かれるような激痛が走るが、モルガウスの口元には歓喜の歪んだ笑みが浮かぶ。心臓は止まり、代わりに「星喰」の核が激しく拍動を始めた。
眼球は白濁し、その奥には無数の銀河が渦巻くような、空虚で広大な暗闇が宿る。
――グオォォォォォ……!
遺跡全体が、巨大な生物の胎動のように震える。
モルガウスの背後から、漆黒の翼とも触手ともつかぬ影が伸び、現実の境界を食い破りながら広がっていく。
それは祈りではなく、この星に対する死の宣告。
神との融合は、九割を超えた。
暗闇の中で、不浄なる神の器と化したモルガウスは、静かにその時を待つ。
世界が反転し、真の絶望が顕現するその瞬間を。




