第百四十七話:安息の丘、再建への胎動
使い魔の知らせを受けたリリスからの緊急報告に、ヴィンセントは迷わず馬を走らせた。王都の混乱も、勝利の余韻も、今の彼には二の次だった。
やがて、夕映えに染まる丘の上に、並んで横たわるアステリオとリナの姿が見えてくる。
「アステリオ!!! 無事か!?」
ヴィンセントは馬が止まるのも待たずに飛び降り、親友のもとへと駆け寄った。
駆けつけた足音に、アステリオは重い瞼を持ち上げ、力なく片手を挙げる。
「……さすがに、無事とは言えないな。身体がボロボロだ」
そう言って自嘲気味に笑う親友の顔を見て、ヴィンセントもようやく張り詰めていた肩の力を抜いた。安堵の笑みが零れる。
「しばらくは、おとなしくしているしかないな。王都にはノインやイザベラも集まっている。すぐに救護兵を呼び寄せて運ばせよう」
「ああ……。だが、俺よりもリナが心配だ。管を抜いてから、一度も目を覚まさない」
「大丈夫だ。王都にはイザベラやグラシャ殿がいる。彼女たちの力があれば、なんとかなるさ」
信頼する友がそばにいる。その絶対的な安心感に包まれ、アステリオは深い眠りへと落ちていった。
「……どうでしょうか、グラシャ殿」
王宮の一室。横たわるリナを診断していたグラシャに、ヴィンセントが不安げに尋ねる。
「かなり複雑な異界の魔力に蝕まれていますが……幸い、魂の根幹は守られています。時間はかかりますが、何とかなるでしょう」
グラシャの言葉に、ヴィンセントは大きく胸を撫でおろした。
「よかった。……彼女の身に何かあれば、親友に一生恨まれてしまいますからね」
冗談めかして笑い、ヴィンセントは部屋を後にした。
一歩部屋を出れば、彼はこの国を背負って立つ若きリーダーとしての顔に戻る。休む暇などない。ヴィンセントは王と共に、すぐさま王国の再建に着手した。
崩落した城壁の修繕、王宮内に深く浸透した教団勢力の排除、そして戦争で傷ついた民衆への食糧配布や手当。山積する課題を一つずつ、彼は誠実に片付けていった。
古代遺跡に逃げたモルガウスの動向は依然として不気味であったが、今の王国には彼を追うだけの余力は残されていない。
やがて、戦後処理の一段落と共に、連合軍もそれぞれの場所へ戻ることとなった。
副官グリルは魔軍を率いて絶界宮へと帰還し、リリスは「ヴィンセント様の側近」という名目で王都に残ることになった。ナユタ率いるエルフの弓兵隊も、一時里へと帰還していった。
戦火の煙が消え、王都に日常の音が戻り始める。
激動の果てに、しばしの穏やかな時が流れていった。




