第百二十二話:黄金の夜明け、不滅の誓い
王都グランゼールの背後から、血のように鮮やかな朝焼けが広がっていく。
高くそびえる城壁を黄金色に染めるその光は、救いをもたらす神の御手か、あるいはすべてを焼き尽くす審判の炎か。
高台の上、アステリオとヴィンセントは馬を並べ、眼下に広がる静まり返った王都を見据えていた。
「そろそろ、ケリをつけよう」
ヴィンセントが視線を外さぬまま、静かに、だが確かな決意を込めて語りかける。
「ああ」
アステリオは短く答え、己の内に渦巻く葛藤を鋼の意志で押し殺した。
かつて父ゼニスが命を賭して守り抜いたこの王都を、今、その息子である自分が軍勢を率いて攻め滅ぼそうとしている。その矛盾に、胸の奥が焼けるように痛む。
アステリオの揺れる心を見透かしたように、ヴィンセントがふと声を和らげた。
「アステリオ……覚えているか?」
何をだと、アステリオは親友の横顔を見る。
「俺とお前。それにガリウスとイザベラ。子供の頃、学芸会で勇者の寸劇をした後に、四人で誓い合ったことだ」
「ああ……」
アステリオの脳裏に、埃っぽい教室の匂いと、夕暮れの校舎の影が鮮やかに蘇る。
「『勇者として、勇者のパーティーとして、世界中の人を幸せにする』……だったな」
「そうだ。……俺たちは、あの頃の誓いを守れているかな?」
一瞬、朝の風だけが二人の間を吹き抜けた。かつての純粋な願いは、今は返り血と泥にまみれている。それでも、アステリオは自嘲気味に、しかし力強く口角を上げた。
「……あの頃の俺たちが考えていた『世界中の人』の中に、魔族やエルフは入っていなかった。そう考えると、あの頃よりずいぶんと風呂敷を広げちまったな」
「ふっ……違いない」
ヴィンセントが声を立てて笑う。アステリオも、数ヶ月ぶりに子供のような笑みを浮かべた。
「子供の頃の夢通りにはいかない。だが、あの頃の俺たちを失望させるようなことだけは……しないようにしよう」
「ああ。分かっている」
ヴィンセントは力強く頷くと、手綱を引き、自らの陣へと戻っていった。その背中には、かつて「聖騎士」と呼ばれた時以上の、気高く重厚な光が宿っている。
アステリオもしばらくその姿を見届けた後、翻って自陣へと戻った。
漆黒の甲冑を纏い、仮面を被る。そこにはもう、運命に翻弄され、立ち止まっていた青年**「アステリオ」**の面影はない。
――ヴォォォォォォォッ!!!
戦場に重く響き渡る出撃の角笛。
魔王軍総統ヴェイルが、漆黒の剣を天高く掲げ、全軍へ進撃の合図を送る。
時を同じくして、北側からもヴィンセントが白銀の剣を抜き放った。
「「突撃ィィッ!!!」」
二人の咆哮が重なり、王都グランゼール包囲戦、その火蓋がついに切って落とされた。




