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『俺のオヤジが最強すぎて勇者を廃業したんだが ~最強の魔王を育て上げ、俺をバカにした世界に復讐しようと思う~』  作者: autofocus


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第百二十一話:深淵の託宣、歪められた聖域

ノインを眠りにつかせた後、屋敷の応接室には深い静寂が戻っていた。暖炉の火が爆ぜる音と、グラシャがグラスを置く小さな音だけが交互に響く。


「……さて。あなたが聞きたいのは、目に見える『教団』という敵の、さらに奥底に潜むものの正体ね」


グラシャは度のきつい酒を一口含み、窓の外に広がる闇を見つめた。その瞳は、物理的な夜ではなく、もっと遠い「時間の淵」を見透かしているようだった。


「アステリオ……ヴェイル様が戦っているのは、単なる腐敗した宗教組織ではない。教団の大教主モルガウス。奴が真に求めているのは、神の威光でも王国の繁栄でもない。この世界を構成する『理』そのものを、古の混沌へと回帰させることにあるわ」


「……古の混沌?」


イザベラが問い返すと、グラシャはゆっくりと首を振った。


「そう。勇者ゼニス様たちが崇めているのは、この星に秩序と生命をもたらす『光の真神』。けれど、モルガウスが接触し、この世に呼び戻そうとしているのは、神話の時代に真神によって追放された『虚無の王』よ。奴は教団の祈りを、歪んだ魔力へと変換する大掛かりな術式を王都に組み上げている。聖騎士たちが狂信に走るのも、その術式によって精神を汚染されているからに他ならない」


イザベラは背筋に冷たいものが走るのを感じ、酒で無理やり喉を潤した。

「……教団の祈りが、実は邪悪なものを呼ぶ力になってるってこと? 救いを求める民衆の心が、そのまま世界を滅ぼすエネルギーにされてるなんて……。ヴェナールとかいうあの嫌味な男も、そんな計画のために動いているのね」


「おそらくね。奴らのような幹部ですら、モルガウスにとっては降臨のための『器』を調整する部品に過ぎないでしょう。王都グランゼールは今、巨大な祭壇へと変貌しつつある。ヴィンセントやアステリオが直面しているのは、信仰という皮を被った、星そのものを腐らせる病巣なのよ。これまでの戦いで流れた血すら、モルガウスにとっては充填される魔力の一部でしかないはず」


「……そんなの、ただの人間が勝てる相手じゃないじゃない。アステリオ一人に、そんな重荷を背負わせているの?」


「だからこそ、我々がいる。魔王の血と、勇者の遺志。その両方を知るあの方にしか、その虚無の門を閉ざすことはできない。私は修行中、ノインの中にある『純粋な破壊の力』を、その歪んだ祭壇を物理的に破壊するための鍵として研ぎ澄ませてきたわ」


グラシャが真剣な面持ちで語り終えた、その時だった。


「……んぅ……いざべらねえちゃん、おしっこ……」


パタパタという頼りない足音と共に、寝室の扉が開いた。目をこすりながら現れたのは、パジャマ姿のノインだった。寝癖をつけたまま、どこかふわふわとした足取りで、先ほどまで「魔王の鍵」として語られていた面影は微塵もない。


「あらら。怖い話してたら起きちゃったかしら」


イザベラが毒気を抜かれたように微笑むと、ノインはそのままグラシャの膝に顔を埋めた。


「ぐらしゃ……なんか、お外が暗い夢みた……。パパが、遠くに行っちゃう夢……」


グラシャの瞳が、一瞬だけ母親のような慈しみを湛えて和らぐ。彼女は大きな手でノインの背中を優しく叩いた。


「大丈夫よ、ノイン。夢はただの影。明日、あなたがその影を切り裂くの。さあ、もう一度寝るわよ。おしっこの後は、冷えないように温かくして」


「……うん。パパに会いたいなぁ……」


ノインがもう一度あくびをしながらグラシャに連れられて寝室へ戻っていく姿を見て、イザベラはポツリと独り言を漏らした。


「……あんなに小さい子に、世界なんて背負わせたくないわね、アステリオ」


夜明けまで、まだ時間はあった。だが、王都を包む暗雲は、確実にその密度を増していた。

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