第百十九話:月下の再会、無垢なる守護者
隠匿の加護を失ったイザベラは、もはや剥き出しの標的に過ぎなかった。
人造魔導兵たちは言葉を交わさずとも、瞬時に包囲網を形成する。神官たちは恐怖のあまり腰を抜かし、祈ることも逃げることもできずに震えていた。
「来るなら来なさい! 視聴者の皆さんに、私の最期まで綺麗に映してもらうんだから!」
イザベラは強気に叫んだが、その足はわずかに震えていた。
一斉に魔導兵たちが跳躍する。十数本の黒い剣が、イザベラ目掛けて四方八方から振り下ろされた。彼女は防御結界を展開しようとしたが、枯渇寸前の魔力は無情にも応じない。
「ここまで……なの……?」
死を覚悟し、イザベラがぎゅっと目を閉じた。
鋭い剣風が肌を刺し、世界がスローモーションのように停滞した、その刹那――。
イザベラの背後から、無数の鋭い閃光が降り注いだ。
それは意志を持つ光の矢のように軌道を描き、人造魔導兵の心臓部を的確に貫いていく。一撃のもとに動きを止めた異形の兵士たち。感情を持たないはずの彼らが、その圧倒的な光の奔流に、心なしか怯えているようにも見えた。
死の予感が霧散し、イザベラはゆっくりと振り返る。
「お待たせ、イザベラ!」
そこには、月光を背に受けて立つ愛くるしい笑顔の少年と、凛とした美しさを湛えた女性、グラシャの姿があった。
「ノイン……!!」
少年の名はノイン。修行を終え、以前よりも増した魔力を全身から溢れさせていた。ノインは弾むような足取りで駆け寄ると、イザベラの腰に力一杯抱き着いた。
「イザベラ……大丈夫? 怪我してない?」
「……ええ、助かったわ。絶妙なタイミングだったわね」
イザベラがその小さな頭を撫でると、ノインは顔を上げ、再び包囲を固めようとする人造魔導兵たちを睨みつけた。その瞳に、魔王の血筋特有の鋭い光が宿る。
「僕の大切な人を傷つけるのは、誰だろうと許さない」
幼い宣言。だが、その直後、周辺の空気が物理的な圧力を持って凍り付いた。
見かねたようにグラシャが歩み寄り、ノインの肩にそっと手を置く。
「ダメでしょ、ノイン。怒りに支配されるのではなく、その力をコントロールするのだと言ったはずよ」
師の言葉に、ノインは一瞬で毒気を抜かれたように舌を出し、いたずらっ子のような笑顔を見せた。
「……あ、そうだった。ごめんなさい」
ノインは気を取り直すように、キラキラとした無邪気な瞳で人造魔導兵たちを見据え、小首を傾げて言い放った。
「じゃあ……優しく殺しちゃうよ」
その可愛らしい口から出たあまりに物騒な台詞に、イザベラは思わず「やっぱり魔王の子供ね」と苦笑した。
その光景は、イザベラの魔導端末を通じて世界中にリアルタイムで流されていた。
『ノイン君きたあああ!』『待って、今の登場かっこよすぎない!?』『かわいい……キュン死しちゃう……』
画面を埋め尽くすコメントの嵐が、ハルミナの夜を熱狂で彩っていく。




