第百十六話:隠れ里の聖戦、最前線のライブ配信
ハルミナ村の古びた集会所。イザベラは村の結界を維持してきた神官たちを緊急招集した。かつては王国から逃れた者たちを隠し続けてきた彼らだが、その顔には平和ボケした戸惑いが色濃く滲んでいる。
「説明の前に、これを見て」
イザベラが差し出した魔導水晶には、陽炎のように揺らめきながら、一糸乱れぬ動きで進軍する「黒い影」の軍勢が映し出されていた。
「なんだ、こいつらは……。生きた人間の動きじゃないぞ」
「この集団、まっすぐにハルミナへ向かっているわ。隠匿の結界なんて、まるでないかのようにね」
「そんなはずはない! 我らの一族が守り続けてきたこの結界は、今まで一度だって破られたことはないんだ!」
年嵩の神官が顔を真っ赤にして食ってかかるが、イザベラは冷ややかな視線でそれを一蹴した。
「なら、画面に映ってるこの『現実』をどう説明するのよ。理論がどうあれ、奴らはすぐそこまで来ているの」
室内を重苦しい沈黙が支配する。神官たちは互いに顔を見合わせ、最後に一人が震える声でイザベラを覗き込んだ。
「……どうする? 我々に、戦えと言うのか?」
「どうするって、決まってるじゃない。敵が来るなら迎え撃つ。それ以外に道があるの?」
「ま……ああ、そうだよな……。だが、俺たちは隠れて過ごすことしかしてこなかったからなぁ……」
情けない言葉を並べる神官たちに、イザベラは大きく、深い溜息を吐いた。
「あーもう! 本当に役に立たない男ばっかりね。いいわ、直接の戦闘は私がやる。あんたたちは後ろで隠れながら、私の援護をして頂戴。攻撃を当てる必要はないわ。私の姿を敵から見えにくくする……隠蔽魔法の重ね掛け、それだけでいいわ。できる?」
「おお、それなら任せてくれ! 隠れるのと隠すのだけは、俺たちの得意分野だ!」
現金なことに、神官は胸を張って答えた。イザベラは呆れ果てた表情で天井を仰いだが、すぐにその瞳にプロフェッショナルの輝きが戻る。彼女は懐から、特注の配信機能付き魔導端末を取り出した。
「さあさあ、久しぶりの配信よ。世界中の皆さんに、イザベラ様の大活躍と、教団が送り込んできた『人造の化け物』の真実をお送りしてあげるわ」
イザベラは唇の端を吊り上げ、妖艶な笑みを浮かべた。
それは、後方を守る魔道師としてのプライドと、親友アステリオの帰る場所を守り抜くという、女の意地だった。




