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『俺のオヤジが最強すぎて勇者を廃業したんだが ~最強の魔王を育て上げ、俺をバカにした世界に復讐しようと思う~』  作者: autofocus


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第百十二話:蠢く魔樹、湿原の呪縛

湿地の空気が、一際冷たく重く沈み込んだ。リリスへの怒鳴り声が霧に吸い込まれた直後、どこからともなく、細く、粘りつくような詠唱が聞こえ始めたのだ。


「……ア、イ……エ……オ……ル……」


それは人の言葉というより、濡れた布を擦り合わせるような不快な反響音だった。アステリオが周囲を鋭く睨むと、先ほどまで静止していた周囲の大木たちが、苦悶に満ちた声を上げるようにミシミシと身をよじり始めた。


「ヴェイル様、下がってください! 地面が……!」


グリルの叫びと同時に、泥濘から蛇のような太い根が飛び出し、アステリオの足首に絡みつこうとする。

 この湿地そのものが、教団の呪詛によって巨大な捕食生物へと変えられていたのだ。


「フン、ただの木材が色気づきおって! 焼き払ってやりますわ!」


リリスが両手を広げると、彼女の周囲にどす黒い魔炎が渦巻いた。

「紅蓮の抱擁ヘル・ブレイズ!」

 放たれた炎が周囲の魔樹を焼き尽くそうとするが、魔樹は焼かれながらも異常な速度で再生し、さらにその枝を槍のように鋭く変えて襲い来る。


「死なぬなら、粉々に砕くまでだ!」

 グリルが愛用の戦斧を横一文字に薙ぎ払った。一振りで数本の巨木が圧壊し、泥の中に沈む。しかし、斬っても斬っても霧の向こうから無限に新たな「腕」が伸びてくる。魔軍の兵士たちも必死に応戦するが、足場の悪さと視界の悪さに徐々に翻弄され始めていた。


アステリオは目を閉じ、魔力の源泉を探った。

 この異常な再生力、そして空間の歪み。これらすべては、一点から供給される膨大な魔力によって維持されている。


「……そこか」


アステリオが目を見開くと同時に、漆黒の剣を抜き放った。彼は跳躍し、襲いくる根を空中で足場にしてさらに高く舞う。

「退け、木端こっぱども」

 彼が剣を振り下ろすと、純粋な魔力の波動が衝撃波となって湿地を駆け抜けた。アステリオを中心に円状に広がる破壊の波動が、再生の暇すら与えず魔樹を根こそぎ消滅させる。


刹那、周囲を包んでいた濃霧が、何者かに切り裂かれるように左右に割れた。

 

 静寂が戻った湿地の奥から、拍手をするような音が響く。

「パチ……パチ……パチ……。流石はアステリオ様。いえ、今は魔王軍総統ヴェイル様とお呼びすべきでしたかな?」


霧の向こうから姿を現したのは、扇で口元を隠し、下衆な悦びに瞳を細めたヴェナールだった。彼の背後には、教団の魔道師たちが数名、不気味な呪具を掲げて控えている。


「手間をかけさせてくれましたね。おかげで良いデータが取れましたよ。人間の命を、この土地の精霊力に無理やり変換してぶつけてみたのですが……やはり、貴方には少々火力が足りなかったようだ」


ヴェナールの足元を見ると、そこには先ほどまで「魔樹」の核となっていたであろう、数名の無残な死体が転がっていた。それは王都から連れてこられた捕虜か、あるいは用済みとなった教団の末端兵のなれの果てだった。


「ヴェナール……貴様、また人の命を……!」

 アステリオの剣が、怒りに呼応して黒い電光を帯びる。


「くくく、怒らないでください。これは聖戦なのですから。さて、次は『神罰の瞳』を越える、とっておきの余興をご用意しております。逃げようとしても無駄ですよ。この湿地は、もはや教団の『胃袋』の中なのですからね」


ヴェナールが扇を広げると、周囲の景色が再び歪み始め、今度は泥水そのものが巨大な人型へと盛り上がっていった。

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