第百二話:再集結の隠れ里、ハルミナの風
雪解けの予感を感じさせる冷たい風が吹くハルミナ村。
結界に守られたこの静かな村は、いまや反攻の牙を研ぐ重要拠点へと変貌していた。
ギルド出身の荒くれ者や近隣から集まった志ある若者たちは、ガリウスの苛烈な訓練によって、即席の民兵とは思えぬ精悍さを身につけていた。さらにイザベラが組織した魔道部隊も、術式の調整を終え、あとは主であるアステリオの号令を待つのみとなっていた。
そんな中、村の入り口に白銀の甲冑を纏った一団が現れた。
「おう! 優男。死に損なったみたいだな」
ガリウスが、わざとらしく鼻を鳴らして悪態をつく。かつての戦友を待ちわびていた照れ隠しである。
「どうやらそのようだ。おかげでお前の嫌味がまた聞けて嬉しいよ」
ヴィンセントは涼しい顔で受け流すが、その瞳には再会の喜びが宿っていた。
「はいはい。そのくらいにして中で話しましょう」
呆れた様子のイザベラに促され、一行は拠点となっている屋敷へと入っていった。奥の広間では、ヴィンセントに同行してきたナユタや、精鋭のエルフたちの紹介が行われる。
「エルフってのは初めて見たが……文献にある通り、どいつもこいつもいい女だな」
ガリウスのデリカシーのない発言に、隣のイザベラの肘打ちが深々と突き刺さる。悶絶してうずくまるガリウスを無視して、イザベラはナユタに向き直った。
「こいつはバカだから気にしないでね。それより、ヴィンセントを助けてくれてありがとう。彼は私の大切な友人なの」
イザベラの柔らかな微笑みに、ナユタは神秘的な雰囲気を纏ったまま静かに答えた。
「……森が、彼を助けろと言ったの。それに、私たちが守るべきものは同じはずですから」
和やかな空気が一瞬流れたが、すぐにガリウスが腹をさすりながら立ち上がり、表情を引き締めた。
「ところで……俺たちの『大将』は、まだ来てねえのか?」
「そろそろ来る頃だと思うんだけどね……」
イザベラはそう言って、沈みゆく夕陽に染まる窓の外を見つめた。
かつて散り散りになった仲間たちが、いま再びハルミナ村に集結した。欠けているのは、ただ一人。この混沌とした世界の行末を担う、若き勇者のみであった。




