第九十八話:神域の介入、崩れ去る勝利
極光の奔流に焼かれ、神の魔力で編まれた肉体が内側から爆ぜる。ゼニスは白濁する意識の淵で、二度目の死を覚悟した。もはや再生の速度は破壊に追いつかず、灰となって雪原に消えるのを待つのみ――。
その刹那、熱に浮かされた右腕を、何者かが強く掴んだ。
閉じかけた目を見開くと、そこには地獄の光を浴びながら、信じられないほど涼しい顔をした少年が立っていた。
「……ゼノス」
新魔王は、無造作に右手を天に突き刺さる光束へとかざした。数多の命を喰らい、英雄の肉体を削り取ったはずの『神罰の瞳』の光が、彼の指先に触れた瞬間、まるで霧が晴れるように霧散して消えていく。
「よく頑張ったね、ゼニス。君にはまだ死んでもらっては困るんだ。城でゆっくり休んでな」
ゼノスは右手で絶対的な破壊を防ぎながら、空いた左手でゼニスを包み込む漆黒の光を放った。次の瞬間、ボロボロになった勇者の身体は掻き消えるようにその場から転移した。
ふっと、戦場から光が消える。
モニター越しにその光景を見ていたヴェナールは、もうもうと立ち込める土煙の中にゼニスの姿がないことに歓喜し、絶叫した。
「大教主! やりましたぞ! ついに、ついにあの忌々しいゼニスを葬り去りました!」
だが、モルガウスとリナは、勝利の美酒に酔うヴェナールとは対照的に、冷徹な目でモニターを注視し続けていた。
「待って……誰かいるわ」
リナの鋭い指摘に、ヴェナールが「なに……っ!」と血相を変えて画面にかじりつく。
土煙がゆっくりと収まった雪原の中央。そこには、ゼニスを消し去ったはずのクレーターの底に、悠然と佇む一人の少年の姿があった。
「何者だ……。あれほどの光を受けて、無傷だと……?」
ヴェナールとモルガウスが困惑に目を見開く中、モニターの中のゼノスが、まるで数百キロ離れた王宮にいる三人の視線が見えているかのように、ゆっくりと顔を上げた。
「なかなか面倒くさいものを作ってくれるね。人間はこれだから嫌いだよ」
ゼノスは嘲笑うように人差し指を天高く掲げた。
指先に一点、極小の球体が生み出される。刹那、そこから放たれた一筋の漆黒の光が、ヴァルガ砦の最高峰に鎮座していた『神罰の瞳』を、紙細工を破るかのように容易く粉砕した。
爆発音すら届かぬほどの超越的な破壊。ゼノスの姿が画面から消えたかと思うと、次の瞬間、モニターいっぱいに彼の顔が映し出された。
ゼノスは、教団が兵士に紛れ込ませていた「人造魔導兵」の頭を鷲掴みにし、その『眼』に向かって語りかけていた。
「あまり神を冒涜しないほうがいいよ。――すぐにそっちに行くから、待っててね」
冷たい宣告と共に、ゼノスが指先に力を込める。
ぐしゃり、という嫌な音が響くと同時に、モニターの画面は鮮血で赤く染まり、映像は砂嵐となって途絶えた。
教団の本部に、重苦しい沈黙が落ちる。
モルガウス、ヴェナール、そしてリナ。三人は言葉を失ったまま、暗転した画面の前で立ち尽くしていた。




