第九十七話:生贄の光束、崩壊する勇者
ヴァルガ砦の最上階、櫓の屋根が不気味な音を立てて左右に開いた。
中からせり出してきたのは、巨大な眼球を思わせる、異様な造形の魔導装置――『神罰の瞳』。
その出現に呼応するように、城壁一面の魔導回路が猛烈な勢いで共鳴を始めた。凄まじい光が壁全体を包み込み、そこへ配備されていた王国兵たちに襲いかかる。
「な、なんだこれは……身体が、熱いッ!?」
「助けてくれ! 力が、抜けて……」
兵士たちから悲鳴が上がる。光に触れた彼らの肉体は、見る間に水分と生命力を奪われ、急激にやせ細っていった。鎧だけを残し、中身はカサカサに乾いたミイラとなって崩れ落ちる。一斉に逃げ出そうとするが、魔導回路の檻からは逃れられない。城壁にいた数百の王国兵は、断末魔すら上げる間もなく、その命を装置の糧へと捧げられた。
吸い取られた人間の精気は、血のように赤黒い脈動となって回路を駆け巡り、櫓の装置へと集束していく。装置は溢れんばかりの光を放ち、空を焦がした。
雪原で片膝をついていたゼニスは、無機質な瞳でその惨状を眺めていた。負傷した箇所からは緑色の液体が漏れていたが、神の修復機能によって傷口が徐々に塞がっていく。
ゼニスは再び立ち上がり、漆黒の剣を構えた。
「愚かな。私にその魔道兵器が効かぬことは、王都での戦いで分かったであろうに」
だが、その言葉を聞くヴェナールの口元には、かつてない愉悦の笑みが浮かんでいた。
「魔力が溜まったようですな。人間そのものを純粋なエネルギーへと変換するのは初の試みゆえ不安もありましたが……どうやら問題なさそうです」
モルガウスが冷酷に頷く。
「うむ。さあ、ゼニスに我らの『技術力』を見せつけてやれ」
「はは――っ! 勇者ゼニスよ、神の裁きをその身に刻むがいい! 『神罰の瞳』、起動!!」
ヴェナールが漆黒のスイッチを叩き込んだ。
その瞬間、装置は大地を揺らす轟音を上げながら浮上し、高速回転を始めて空高くへと舞い上がった。ヴァルガ砦一帯が、夜を昼に変えるほどの眩い光に包まれる。
一瞬の静寂。
天に浮かぶ『瞳』にすべての光が凝縮され、次の刹那、太い極光の筋が一直線にゼニスを貫いた。
「ぬぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
ゼニスの口から、初めて苦悶の絶叫が漏れた。
王都での「魔力による砲撃」とは次元が違う。数多の命を直接変換した「生そのもの」の質量が、神の魔力で編まれた彼の身体構造を内側から食い破っていく。
「ぐあぁぁあああああああああああああ!!」
光の奔流に呑まれたゼニスの肉体が、ボロボロと剥がれ落ち、灰となって雪原に散っていく。
モニター越しに、英雄が消滅していく様を眺めながら、ヴェナールは狂気的な勝利を確信していた。




