第九十話:沈黙の玉座、生贄の騎士団
「ガルガンチュア公……討ち死に……」
最終防壁から届いた凄惨な急報に、王宮の広間は凍りついたような静寂に包まれた。だが、その静寂はすぐに、己の身の安全を案じる貴族たちの醜い怒号へと塗り替えられた。
「教団の新兵器とやらはどうしたのだ! このような事態のために、お前たちは重用されているのだろう!」
かつては騎士の誇りを口にしていた貴族たちが、今は血の気の引いた顔で教団を糾弾し、ざわめきだす。その喧騒を裂くように、一人の男が静かに歩み出た。
「静まりたまえ」
モルガウスの声は、低いが広間の隅々にまで不気味に響き渡った。彼は狼狽える貴族たちを冷徹な一瞥で制すと、玉座の王に向かって深々と跪く。
「この度の失態、誠に申し訳ございません。ですが、新兵器のデータも十分に揃いました。奴らがここまで至る間に修正を加えますので、どうぞご安心を。……つきましては」
モルガウスは顔を上げ、唇の端に歪な笑みを浮かべた。
「兵器の調整が済むまでの時間稼ぎに、勇ましい貴族の皆様方にゼニスの足止めをしていただきたいのですが」
その言葉が落ちた瞬間、先ほどまで騒いでいた広間が嘘のように静まり返った。貴族の一人が、震える声で口を開く。
「何を言うか! この度の失態は、おぬしら教団の不手際であろう! そなたらが行けばよいのだ!」
そうだそうだ、と他の貴族たちが後方から囃し立てる。責任をなすりつけ合い、誰一人として前線へ赴こうとする者はいない。モルガウスは芝居がかった溜息をついて見せた。
「確かに、元より我ら教団は命を惜しんではおりませんので、私自らが出向いてもよいのですが……。そうなると、肝心の魔道兵器の調整ができなくなります。……王よ、いかがいたしましょうか?」
モルガウスの視線が、玉座に座る王を射抜く。もはや教団の傀儡と化した王は、広間に居並ぶ諸侯を虚ろな目で見渡し、無感情に命じた。
「……そちの言うことはもっともである。貴族を中心とした騎士団を編成し、迎撃に当たらせよ」
「ははーっ」
モルガウスは満足げに頭を垂れ、絶望に顔を白くした諸侯の方に向き直った。その瞳には、彼らを「神」への生贄としか見ていない冷酷な光が宿っている。
「聞かれたか、諸侯よ。さあ、出陣の準備をされなされ。……王のため、神のために」
教団の罠に嵌まり、使い捨ての盾として最前線へ押し出される貴族たち。
王都の華やかな繁栄の裏側で、古い王国が音を立てて崩壊していく。その混沌の影で、教団の真の狙いが着々と形を成そうとしていた。




