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『俺のオヤジが最強すぎて勇者を廃業したんだが ~最強の魔王を育て上げ、俺をバカにした世界に復讐しようと思う~』  作者: autofocus


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第六十五話:凍土の絶界、蝕まれる聖域

物語の針を少しばかり巻き戻そう。

 魔王の血を継ぐ真の主、ゼノスが率いる魔軍が王国へと牙を剥き、その配下となった勇者ゼニスが地上に混沌をもたらしていた、その頃。


北方の最果て、万年雪に閉ざされた凍土にそびえ立つ魔族の牙城――**「絶界宮ぜっかいきゅう」**もまた、かつてない危急の時に立たされていた。


【凍てつく包囲網】

絶界宮を取り囲むのは、雪原を真っ黒に染め上げる数万の魔軍。

 だが、それは同胞であるはずの魔族たちの軍勢であった。吹き荒れる猛吹雪に紛れ、強力な魔力を持つ兵団や、北方の過酷な環境に適応した魔獣たちが、イザベラの聖域を根絶やしにせんと執拗な波状攻撃を繰り返している。


「……くっ、結界の維持が……! 寒さで魔力の循環が追いつかないわ……!」


魔族の女、リリスは城内の回廊を走り回り、壁面に刻まれた魔法陣へ必死に手をかざしていた。

 宮殿を覆うのは、イザベラが展開した最高位の結界。本来、外敵を一切寄せ付けない「絶対の盾」だが、数万の魔軍による熾烈な攻撃と極北の冷気が、その強度を確実に削り取っていた。


リリスの吐く息は白く、その指先は魔力の酷使で赤く腫れ上がっている。

 愛するヴィンセントも、頼れるパパ(アステリオ)も不在の今、この広大な城塞を一人で守り抜くのは、彼女にとっても限界に近い重労働だった。


(なぜ……なぜ同胞たちが、ここを攻めるの……!? それに、この嫌な気配は……)


リリスは疲労に霞む目をこすり、祈るように次の術式を編み上げる。包囲軍の背後に潜む、圧倒的な格上の魔族の気配。かつて知っていたはずの、けれど今は冷酷な殺意に満ちたその何かに、彼女は言いようのない戦慄を覚えていた。


【魔王の子、ノインの目覚め】

一方、城の最奥。冷え切った自室のベッドの上で、少年ノインは膝を抱えていた。

 彼は先代魔王の忘れ形見。いつの日か立派な魔王として立つために、アステリオが「パパ」として慈しみ、大切に育ててきた希望の種だ。


石造りの壁を隔ててもなお、外からは魔物たちの咆哮や、結界が軋む嫌な振動が伝わってくる。


「……いったい、何が起こってるんだろう。リリスは『部屋から出ちゃダメ』って言うし……」


パパ(アステリオ)は帰ってこない。いつもそばにいてくれたイザベラも、そして大好きなヴィンセントも、いつの間にか姿を消してしまった。

 静まり返った部屋の中で、ノインは自分を抱きしめるようにして震えていた。だが、彼を震わせているのは、北方の寒さだけではない。


「……それに、やっぱり聞こえる。頭の中に、誰かが入ってくるみたい。……とっても嫌な奴が」


それは、ただの不安が見せる幻聴ではない。

 自身の精神の奥底を、冷たく湿った「何か」が執拗に撫で回し、自分を観察しているような、吐き気を催す不快感。

 それは、魔王の血を引く彼にしか感じ取れない、血脈を介した禍々しい「共鳴」のようでもあった。


「…………よし!」


突然、ノインは決然と立ち上がった。

 恐怖を振り払うように勢いよく床を蹴り、重厚な木製のドアの前まで歩み寄る。


「みんなが本当のことを教えてくれないなら、僕が自分で勝手に調べるもんね」


少年の小さな手が、冷たいドアノブにかけられた。

 彼はまだ知らない。自分と同じ血を継ぐ「王」が王国へ迫っていることを。そして、この一歩が魔族の宿命を大きく動かすことになることを。


ゆっくりとノブを回すと、廊下の奥から、凍てつく風と共に「焦燥と死の匂い」が流れ込んできた。

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