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『俺のオヤジが最強すぎて勇者を廃業したんだが ~最強の魔王を育て上げ、俺をバカにした世界に復讐しようと思う~』  作者: autofocus


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第六十四話:翡翠の揺り籠、刻まれた誓い

エルフの女は、自らを「ナユタ」と名乗った。

 俺は彼女の導きに従い、さらに深く、森の深奥へと足を踏み入れた。道中、ナユタが静かに古の詩を口ずさむたび、目の前の虚空が波紋のように揺れ、透明な入口が口を開く。


「……なるほど。これじゃあ、迷い込んだ人間は二度と出られないわけだ」


この森は、単なる樹木の集まりではない。ナユタたちの意思に応え、侵入者を拒み、道を作り替える「生きた防壁」なのだ。彼女たちの案内なしにここを抜けることは、神の奇跡を待つよりも難しいだろう。


やがて視界が開け、柔らかな陽光が降り注ぐ平地が現れた。

 さらさらと流れる小川には古風な水車が回り、緩やかな丘の上には風車がゆっくりと羽を休めている。戦火に焼かれた外界とはあまりにかけ離れた、まるで時が止まったかのような景色に、俺は思わず魂を奪われそうになった。


ナユタに案内されたのは、村の奥に建つひときわ立派な屋敷だった。

 彼女はこの村の長の娘だという。俺は逸る気持ちを抑え、ヴィンセントが眠るという奥の部屋へと通された。


扉を開けた瞬間、そこにいた人物を見て、俺は足が止まった。


「ヴィンセント……! 無事だったのか、本当に……っ!」


俺は枕元へ駆け寄った。

 ヴィンセントは全身を白い包帯で巻かれ、痛々しい姿で横たわっていた。だが、俺の声に反応してゆっくりと顔を向けると、死線を越えてきた者だけが浮かべられる、微かな笑みを口元に刻んだ。


「アステリオ……。どうやら俺は、死に損なってしまったよ」


掠れた、けれど確かに聞き覚えのある皮肉げな声。

 俺はその一言を聞けただけで、重く沈んでいた心が嘘のように軽くなるのを感じた。


【命を繋いだ奇跡】

その後、別室でナユタから振る舞われた清らかな茶を啜りながら、彼女たちがヴィンセントを見つけた時の状況を聞かされた。


あの日、俺の親父――ゼニスとの戦いに敗れた後、ヴィンセントの心臓は確かに止まっていたのだという。

 だが、魔軍が去り、静寂が戦場を覆ったその時。彼の胸元に下げられたネックレスから、眩いばかりの蘇生魔法が溢れ出し、逃げようとする彼の魂をこの世に繋ぎ止めた。


「……リリスか」


おそらく、それはリリスが彼に贈った護身の魔具だったのだろう。ナユタの話では、それは膨大な魔力と歳月をかけて編み込まれた、禁忌に近い高等魔法だったようだ。


瀕死の状態で横たわっていたヴィンセントを偶然見つけたのは、戦局の偵察に出ていたエルフの女だった。本来、彼女たちは人間界の争いには干渉しない。

 だが、その女はヴィンセントの顔を見た瞬間に目を奪われ、彼を放っておけなくなったらしい。


(……あの二枚目め。こんな時まで、女に助けられるとはな)


生死の境にいた友に対し、不謹慎にも少しだけ腹が立った。だが、それがヴィンセントという男の「運」なのだと、今は笑って受け入れるしかなかった。


「彼の傷が癒え、再び剣を握れるようになるのは、来年の春頃でしょう」


ナユタの言葉に、俺は頷いた。

 それまではここ、外界の争いが届かない翡翠の揺り籠で身体を休めるのが、彼にとって最善の選択だろう。


その晩、俺はエルフの村に一泊させてもらうことにした。

 見上げる夜空には、今まで見たこともないほど澄んだ星々が散りばめられていた。

 俺たちが住む王都から見る空とは、色の深さも、瞬きの鋭さも違う。


吸い込まれそうなほど美しい星空を仰ぎながら、俺は静かに覚悟を決めた。

 ヴィンセントは生き残った。ガリウスたちも、きっとどこかで足掻いている。


「親父……。次は、俺が一人で行くぜ」


春が来れば、ヴィンセントは立ち上がるだろう。だが俺は、それを待つわけにはいかない。

 聖剣の重みを掌に感じながら、俺は一人、静かに明日への闘志を燃やした。

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