第六十三話:翠緑の監視者、再会の灯火
森の奥深くから、さざ波のような声が響いてきた。それは聞き慣れた王国の言葉ではなく、風や木の葉が擦れ合う音に近い、古の響きを宿した言語だった。アステリオにはその意味を解することはできない。
「俺はアステリオ。……敵意はない!」
俺の声が木霊する。だが、その言葉が終わらぬうちに、返答の代わりに数本の矢が虚空を切り裂いて飛来した。
――ッ!
俺は反射的に再誕した聖剣を抜き放ち、鋭い金属音と共にそれらを叩き落とした。切っ先を構え、森の闇を見据える。
一帯を刺すような緊張が支配した。流れる風の音だけが、この一触即発の空気に干渉することなく、ただ漫然と吹き抜けていく。
やがて、静かに森の帳が開き、一人の女が姿を現した。
息を呑むほどに美しい。長く尖った耳、神秘的な佇まい。古の伝承に語られる「エルフ」の民に相違なかった。
「……あなたは敵ではないようですね。仲間の無礼をお許しください」
女は静かに頭を下げた。驚いたことに、彼女はこちらの言葉を流暢に操っていた。
「……俺はアステリオ。友を探してここまで来た」
俺は剣を納め、藁にもすがる思いで切り出した。
「名は、ヴィンセントというんだ」
俺はあいつの特徴を細かく、記憶を絞り出すようにして伝えた。逆立った髪、鋭い眼光、そして何より、あの戦場で誰よりも気高く戦っていたはずの男の姿を。
女は表情を変えずに俺の話を聞いていた。その瞳は、万物を吸い込みそうなほどに青く、深い。
やがて、彼女は静かに口を開いた。
「……その御方なら、私たちの村で匿っています」
「――ッ!!」
俺の心臓が跳ね上がった。
「今はまだ深い傷を負い、動くことは叶いません。ですが、じきに良くなるでしょう。森の癒やしが、彼の命を繋ぎ止めています」
「本当か……! 本当に、ヴィンセントが生きているんだな……!!」
膝の力が抜けそうになるほどの安堵。
この地獄のような戦場を駆け抜け、死体の山を越えてきた旅路が、ようやく一つの「光」に辿り着いた。
俺は溢れ出す喜びを抑えきれず、天を仰いだ。
ヴィンセント。あいつはやっぱり、あんなところで終わるような奴じゃなかったんだ。




