表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『俺のオヤジが最強すぎて勇者を廃業したんだが ~最強の魔王を育て上げ、俺をバカにした世界に復讐しようと思う~』  作者: autofocus


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

116/194

第五十七話:精神の深淵、白き孤独

「おい!! 一体どうすりゃいいんだよッ!」


ガリウスの怒声と共に、近くにあった木製の椅子が凄まじい音を立てて砕け散った。壁まで吹き飛んだ破片を横目に、神官たちは顔を引きつらせる。


「落ち着いてくれよ旦那! 暴れたって状況は変わらねぇ!」


慌てて詰め寄るガリウスを、数人の神官が必死になだめる。荒い息を吐きながら、ガリウスは血走った目で彼らを睨みつけた。


「……手がないわけじゃないんだろ。だったら早く言いやがれ!」

「……彼女が自分でこちらの世界に来るのを拒んでいる以上、ただ待っていたって、やがて器……つまり身体の方が死んじまう。心と身体が完全に切り離される前になんとかするなら……」


神官はゴクリと唾を飲み込み、覚悟を決めたように言った。


「誰かが彼女の『精神世界』に飛び込むしかない」

「じゃあ俺が行く。今すぐやれ」


ガリウスは、迷いの一片すら見せずに即答した。そのあまりの決断の速さに、神官のほうが面食らった。


「簡単に言うなよ! 精神世界に入るってことは、あんた自身の魂も身体から引き離すってことだ。下手をすれば彼女と一緒に、あんたまで帰ってこれなくなるんだぜ?」

「……構わんと言ってるだろ。早くしろ」


ガリウスの揺るぎない双眸そうぼうに見据えられ、神官の顔から金への卑しさが消えた。彼は感銘を受けたように、深く頷いた。


「……旦那、あんたは男の中の男だ。商売抜きで、あんたというおとこに惚れたぜ。……準備しろ!」


神官たちがイザベラの寝台を囲み、古の言語で重厚な詠唱を開始した。部屋の中に、現実の理をねじ曲げるような紫光の奔流が渦巻く。


「いいか旦那、精神世界に入ったらすぐにイザベラさんを探すんだ。そして何としても彼女を……口説き落として連れ戻せ。時間はないぞ、主を失った身体は長くはもたねぇ!」

「……わかった」


ガリウスは短く応じ、重い瞼を閉じた。


瞬間、暗闇の中で、幼い頃の記憶から今に至るまでの光景が、走馬灯のように脳裏を駆け巡った。

 ――身体が熱い。

 血管を溶岩が流れているかのような、灼熱の感覚。自分の存在が希釈され、世界の境界線が溶けていく。


(……これが、魂が抜ける感覚か……!)


意識が遠のき、視界が眩い白一色に染まった。

 全ての音が消え、ただ耳元で微かな「風のささやき」だけが聞こえる。


ガリウスは、ゆっくりと目を開いた。


「……ここは……」


そこには、天地の境目すら定かではない、どこまでも続く「白い世界」が広がっていた。

 冷たく、何もかもが欠落した空間。

 それが、他人に囲まれながらも、誰にも心を開かずに生きてきたイザベラの孤独の深淵だった。


だが、ガリウスの「瞳」は、その虚無の中にある「違和感」を逃さなかった。

 幻術の通じない彼の視界には、白い世界の奥に揺らめく、微かな、けれど確かな「赤い影」が映っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ