第四十二話:再誕の胎動
強烈な白光が収まり、ゆっくりと目を開ける。
視界に映ったのは、無限の銀河ではなく、湿り気を帯びた岩肌と、魔道石の松明が放つ淡い青光だった。
「……戻ったのか」
重い身体をどうにか起こし、自分の右手を見つめる。
そこには、夢で見た通り、銀河を閉じ込めたような逆五角形の紋章が刻まれていた。熱を持って脈動するその紋章は、俺が「人間」としての安寧を捨て、過酷な運命と契約した証だった。
視線を祭壇へと向ける。
そこには、先ほどまで鎮座していた星核鋼の原石の姿はなかった。代わりに、粉々に砕けていた聖剣の破片たちが、目に見えない力で引き寄せられ、淡い光の膜に包まれながら一振りの剣の形を成して浮遊していた。
「これが……今の俺の力か」
俺が手を伸ばすと、その「剣の形をした光」は吸い込まれるように俺の手の中に収まった。
まだ完全な実体ではない。刃は継ぎ接ぎだらけで、所々が欠けている。だが、以前の死んだ石くれのような冷たさは微塵もなかった。剣の鼓動が、俺の心臓と共鳴しているのがわかる。
俺はふらつく足取りで、来た道を戻り始めた。
地中深くへ逃げ帰ったヒュドラの気配はない。地下河川を渡り、急斜面を登り、かつての父の足跡を逆に辿っていく。
***
数時間後。俺は坑道の出口から、ようやくイグニールの待つ工房へと辿り着いた。
入り口で胡坐をかき、煙草を吹かしていたイグニールが、俺の姿を見るなり目を見開いて立ち上がった。
「……生きて戻ったか。しかも、その手にあるのは……」
イグニールの視線が、俺の右手の紋章と、ぼんやりと光り輝く継ぎ接ぎの剣に釘付けになる。
「星核鋼の精霊と……契約したのか? あのゼニスでさえ、完全には御せなかったあの力と……」
「ああ。親父を止めるために必要な力だ。……おっさん、約束通り、こいつを打ち直してくれ」
俺は限界寸前の身体を支え、手にした光の剣をイグニールに差し出した。
イグニールは震える手でその剣を受け取ろうとしたが、一瞬、畏怖するように手を止めた。だが、すぐに職人の顔に戻ると、不敵な笑みを浮かべて鼻を鳴らした。
「ハッ……! 親父を超えようってか。いいだろう、小僧。ドワーフの意地、見せてやる」
イグニールは煙草を地面に捨て、迷いのない足取りで炉の前へと進んだ。
彼は大きな蛇口を回し、炉の温度を一気に引き上げる。ゴーッという爆音と共に、工房内が灼熱の空気に支配された。
「アステリオ、そこに座れ! その剣に、お前の全魔力を流し込み続けろ! これからやるのはただの修理じゃねぇ……魂の再鋳造だ!」
俺は言われるままに炉の傍らに腰を下ろし、剣の柄を握りしめた。
イグニールが巨大な鎚を振り上げる。
「行くぞ! 世界を救うか壊すか……その答え、この鋼に刻み込んでやる!」
――キンッ!!
重厚な金属音が、灰塵の顎に響き渡った。
伝説の職人の槌打と、俺の魔力が激突し、新たな「聖剣」が産声を上げようとしていた。




