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9話 パンが無ければ

こんな序盤に二話連続で主人公不在はちょっと嫌だったので、王国関連の話は少しだけです。

頃合いを見て、また主人公不在の話をまた書くかと思います。

「なんだと!?よ、よもやまた悪魔だということはないのだろうなっ。【鑑定(チェック)】は済ませておるのだろうな!?」


「は、はい。術士様をお呼び立てして、【鑑定(チェック)】は行って頂いております!とにかく王様に確認していただきたい、と!」


「わ、わかった!すぐに向かうっ」


 ヨハンは、周りで次から次へと色々なことが最近起こっていることについて辟易していたが、今回のことに関しては内心小躍りしそうな勢いであった。

 実際に確認するまでは浮かれてはいられないが、現れたのが先日の悪魔などではなく、あの伝承のとおりの転生者ならば、今の自分を取り巻くこの状況を打開できる!と思ったのだ。

 それは希望でも何でもなく、ほとんど確証に近かった。

 何故なら、この世界にやってくる転生者は皆、どのような形であれ絶対(・・)に、極めて強い力を持ってやってくるのだから。


 これで帝国なんぞに力を借りなくて済む。そう思うと、笑いださずにはいられないヨハンだった。隣で並んで広間へ向かっていたリオティスがそれを見てぎょっとしていたことにも気づかず、逸る気持ちを抑えながら広間への道を進んでいったのだった。



 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「腹減った…」

『まだそこの洞窟を出て間もないじゃないか』


 ジャックとの会話を終え、"帰れる"という希望を得られた。そして、そのためにどうすべきかも一応知ることができた。というわけで、じっとしている暇も理由もないので、さっさと洞窟を後にしたんだが…


 腹が減った。本当に。

 思えば最後に食べたのってバナナだったもんなぁ。それにあの時は昼間に起きて、時間がもったいないとかで朝も昼も何も食べてないわけだし、そりゃ腹減って当然だわな。


「俺も色々あったんだよ。わかるだろ?」


『まぁ分かるが、生憎と私は空腹とは無縁なものでね…いまいち君の辛さが理解できないんだ。申し訳ない』


「なにィ!?」


 ジャックってば腹減ったことないってのか!?って、腹減るような奴が封印されてたらとっくに死んじゃってるか。それにしても腹減らないのかぁ…。


『空腹になったことは無いが、顕現さえできれば食事はできる…と思う』


「思う、って…まぁ色々わすれてるんだもんな」


『そういうことだ』


 自分のことを忘れるってどういう感じなんだろうか。きっと色々と、俺の知らないような苦労や悩みやらが、ジャックにはあるんだろうな。

 俺はジャックのおかげで色々と救われたところがあるし、ジャックにはできるだけ力になってやりたい。まぁ大体は俺が力になってもらう側になるんだけど。運命共同体ってやつだし多少はね。


「んじゃあ、顕現できるようになったら飯おごるよ」


『おおっ。感謝するヨシキ。顕現したときの楽しみができたな』


 あ、多分にやにやしてんだろうな、今。

 ちなみに、ジャックは俺と契約を交わした後、どういう原理かはよく分からんが、俺の魂にくっついて存在している。

 だからこうして会話して見えるようでも、実際に喋ってるのは俺だけで、ジャックの声は"念話"というのを使って脳内に直接語り掛けられているものだ。今の俺は傍から見たらただの変人なんだが、ここは幸いにも僻地だし人目を気にするなんてことはしなくていい。

 俺も練習すれば念話はできるみたいだし、人に会うまでにやり方覚えないとなぁ。


『左足の調子はどうだね』


「あぁ、全然問題ないみたいだ。むしろ左足だけ調子よくて何か変な感じだ」


 俺は谷底へ突き落されたときに左足を怪我していたが、それは洞窟から出るときにジャックに治してもらった。

 封印されているのに何で魔法とか色々使えるんだ?とか思ったんだが、ジャック曰く「封印されているのは大体が攻撃するための力で、他は結構抜け目がある」ということらしかった。封印、実は色々と雑いよな…。まぁそれでもジャックは身動きできなかったし、記憶も失ってる。タチが悪かったことに変わりはないか。


 いやしかし、本当に腹が減ったぞ。一応言っておくと今俺たちがいるのは谷を抜けたところの森の中だ。ジャックが昔、洞窟の中にやってきた人間の一人が、森の奥の方へ抜けていったところを見たという。

 事実、森の中には微かに獣道のような、誰かが何度も通った跡のようなものが通っており、俺たちはそれを頼りにこうして歩いているというわけだ。

 だから、ここを抜ければ村や民家なんかが見つかるんじゃ?なんて思っている。

 反対側?川になってるし、谷だしでこっちの森の方しか進む場所無いんだよ!!


 ん?待てよ。食べるものが見つからないなら生み出してしまえばいいじゃない。

 召喚って、何も人やら魔物やらだけを呼び出す魔法ってだけじゃないと思うんだ。

 早速ジャックに確認してみる。


「なぁジャック。召喚魔法のことなんだけど」


『うん?なにかね』


「召喚魔法で食べ物を呼び出すとかってできる?」


『さぁ…私は実際の召喚魔法は知らないからな…でも多分やろうと思えばできるだろう』


「ん?何でそんな曖昧なんだ?」


『言ったろう。召喚魔法は失われた魔法だぞ?私も使えるわけではないし、だから、こう答えざるを得ない』


「ちょっ!おま!言ってること違うじゃねぇか!?力になるって言ったじゃねぇかよ!」


『別に嘘を言ったわけではないさ。私は実際ヨシキの力になりたいと思ってるし、私しかヨシキの、というか召喚魔法について手助けできる者はいないと思う、多分』


「多分かよ!」


『記憶が…』


「うっ…」


 くそ、どうしても記憶なくしてる関連の話になると強く言えなくなるな…ジャックのやつ、顕現したら一発殴ってやる。

 とにかくどんな形でも情報が欲しい。自分のこの才能について。ジャックも言ったとおり、それはジャックにしかできないことだろう。俺もそう思う。じゃなかったら、あのヒゲジジイの対応も違ってただろうしな。くそ、あのジジイのせいで…

 何で俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ!


 愚痴っていても仕方がないので、取りあえずジャックに続きを聞いてみるか。


「はぁ、で、何で多分できるなんて言い方したんだよ?」


『ふむ。魔法のことはこの間話したろう?学問が如く体系化されているというものだ』


 うん。言ってたな。だからこそ、俺は体系化されていない、失われた魔法である召喚魔法を、人からは教われないんだってことも聞いた。


『なに、簡単な話だ。無ければ作ればいい。君の空腹事情と同じだな、ははは』


 …は?


「いやいやいや、お前、何?何言ってるの?作る?何を?」


『おや、今のでピンとくると思ったんだが、君にしては珍しい。作るとは勿論、召喚魔法の体系だよ。ルーリングやら概念やらを、君の方で決めてしまうのさ』


 いやほんとコイツ何言ってるか全然分からん。誰か分かるなら俺に説明してほしい。

 だって、考えてもみろ、世の中の色んなえらくてすごくてつよーい魔法使いが、何年も何十年も何百年も必至こいて作り上げてきたのがこの世界の魔法体系だろ?

 それを、お前、俺一人で「ちょっと召喚魔法の体系なくて誰からも教われねーからつくるわ(笑)」とか無理ゲーってレベルじゃないだろ!何考えてんだよ!?


『一人で何を盛り上がっているんだい?私も混ぜてくれたまえ、水臭い』


「うるせぇ!お前のせいだ!!」


『ジャックと呼んでくれ』


「どんだけ気に入ってんだよ!」


『素敵な名前を本当にありがとう』


「どういたしまして!!畜生!!」


 調子狂うわ!ほんとに長い間封印されてきたのかこいつ!キレッキレじゃねーか!

 いやそんなことはどうでもいいんだよ、くそ!


『さっきの話の続きだがね。何も難しいことを言っているわけではないんだよ。魔法の才能があるということは、その魔法に関する適性があるのもそうだが…その魔法で大成できるということでもある。それはつまりその魔法の極意に一番近いということだ。特有の魔法が元から使えるのと、才能があるのとでは全く意味が違う。前者は既に存在しているものしか扱えないが、後者は自らの欲するがまま、半ば体感的にその魔法を扱えるようになる。これは召喚魔法においても例外ではないはずだ。才能を持っているとはそういうことだよ』


「つまり、俺は才能を持っているから、召喚魔法を一から自分で構築できるって、そう言いたいのか?」


『その認識で大体相違ない。やはり君は物分かりがいいね。話していて実に清々しい』


 あんま納得できてないけどな。


「とはいっても俺召喚魔法どころか魔法すらどうやったらいいのかわからんぞ?それって致命的じゃね?」


『うーむ。才能のある者は基本的に感覚的に魔法を扱える、と記憶にはあるんだが…何か、"召喚"に関して、強烈なイメージは無いかね?魔法とは根本的に、イメージを魔力や魔素といったエネルギーでこの世界に顕現させる力だ。だから、"召喚"について君が強く、具体的にイメージすることができれば…それを元に体系化できると思う』


 なるほど。つまり、取りあえずどんな形でもいいから強烈なイメージを使って強引に魔法を発生させて、そこから召喚魔法の肉付けをしていく、と。

 ジャックって喋り方的にもすごい知的なイメージだったけど、結構強引な方法を取るんだな…

 って、洞窟抜け出すのも考えたら結構強引なやり方だったな。もしかすると俺が分かってないだけで脳筋なのかもしれない。


『今ちょっと失礼なことを考えていなかったかい?』


「はははまさかー。それより、イメージだよな。ほんとにそれだけで魔法出るのか?」


『普通ならこうはいかないだろうが君は才能持ちだからね。断言できないのは許してほしいが…恐らくできるはずだ』


「そっか」


 ま、ジャックが言うんだったらそうなんだろう。他の奴が言ってたら鵜呑みにはしなかっただろうけど、ジャックの言うことは不思議と飲み込めるんだよな。何でだろう。話し方が上手いっていうのもあるんかね。


 とりあえず集中しよう。えーっと、イメージだ。イメージしろ、俺。

 何のイメージだっけ?そう、召喚だよ、召喚。

 えっと、とりあえず食い物…りんごとかでいいか。それを召喚するイメージ。イメージだ。

 召喚…召喚…召喚…りんご…召喚…



 召喚…





 …やべぇ、DF(デュエル・フロンティア)のことしか思い浮かばねぇわ。





『!?こ、これはッ!』


「え、何!?」


 次の瞬間、俺の手元から強く閃光が飛び出した。魔法をよく知らない異世界初心者の俺でも確かに分かるほど強大な力を持ったその閃光は細く、だがしっかりと、はるか天空に向けて一筋の光の柱を作り出していた。

 あまりに突拍子もない出来事に、状況が呑み込めない俺。

 脳内から必死になって応援を求める。


『何!?何!?今何が起きてるの!?ジャック!ジャック教えて!!』


『おや!念話を使えるようになったのかね!おめでとう!』


『そんなことはどうでもいいよ!それよりどうなってんのこれ!?』


『…分からないが…この溢れんばかりの力の奔流は紛れもなく魔法によるものだ』


 …数秒の後、光は消え、ようやく俺は意識を現実に戻す。何となくさっきまでは生きた心地がしなかった。めちゃくちゃだったなさっきの…


 そういえば、さっきから両手に違和感を感じるんだよな。光がやばすぎて全然気にしてなかったんだけど、今はすごい違和感だ。


 俺はひとまず上空の方から、自分の手元に視線を戻す。


「…ん?」


『ほう…これは』


 まず、俺の右手には、一つの綺麗な赤色をしたりんごが握られていた。これは割と予想通りだった。何かすごい光だったから、多分魔法が出たんだろうなとは思っていた。

 だが、そんなりんごよりも、もっと気になる物が左手に握られていた。

 それは、


「DFの…カード、だよな…?」


 元いた世界で大好きだったカードゲーム、デュエルフロンティア。

 紛れもなく、そのDFと全く同じデザインの一枚のカードだった。

苦節9話目にしてやっとこさ主人公が力を使えるようになりました。サクサク展開とはいったい…


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