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8話 王国と帝国

今回、主人公不在です。すみません…

あと若干説明回です。

「全く、どうしたものか」

 一国を統治する絶対の王、ヨハン・スコラリオ二世は、自慢の髭をもみくちゃにさせながら、誰に聞かせるでもなく頭を抱え込んでいた。


 彼が統べているここ、"トラスト王国"は、大陸の中央から南西にかけて領土を持つ、巨大かつ強大な一大王国であり、この世界で王国と言えばトラスト王国のことを指すといっても過言ではないほどだった。


 そんな一大国家の頂点に立つ存在であるヨハンが何故、こうも見苦しく頭を抱えているかと言えば、それは領土問題である。


 しかも、国内における領土問題ではなく、未だどの国家も所有していない土地…トラスト王国の北東部に位置する未開拓地において、極めて有用な資源、魔鉱石(魔素を内に含んだ鉱石)が産出されるだろうことが判明したのだ。

 ヨハンとしても当然、その土地を何としても自国の領地にして囲い込み、自国の新たな資金源としたかった。

 だが、そこに待ったがかかった。王国以外にも、その土地の所有権を主張する国家が現れたのである。

 トラスト王国にとって犬猿の仲ともいうべき、アステリオ帝国だ。


 アステリオ帝国は王国側から見ると東側に位置する、大陸において王国と対を為す巨大国家で、問題の土地は丁度王国と帝国の間に存在していた。故の、王国に対する待ったなのである。


 トラスト王国は、他国と友好的であることでも知られている国家だが、アステリオ帝国はその唯一の例外ともいえる国家である。

 多くの役職を世襲制とし、伝統や血筋を重く見るトラスト王国とは異なり、アステリオ帝国は絶対なる実力主義国家だ。

 対して、帝国の方針は実力主義であり、現在の皇帝ギラゴン・ブルードも、自身の力でその地位まで登りつめた実力者だ。


 真逆の方針である両国家が相容れるはずもなく、何かあるごとにこうして度々もめ事を繰り返しているのだが、両国内の領民や周辺国家にとってはいい迷惑であり、悩みの種であった。


 そんなトラスト王国とアステリオ帝国だが、政治や経済ならばトラスト王国、軍事であればアステリオ帝国、と、これまた面白いように得手不得手がはっきりとしていた。


「あのハゲ頭め…。どうせ要らぬことを考えておるのに、決まっておるのだ…」


 ハゲとは皇帝ギラゴン・ブルードのことである。


「リオティス!改めて状況を説明してくれるか…」


 ヨハンにリオティスと呼ばれた男は、このトラスト王国の政治を担う宰相であった。

 リオティスは恭しくヨハンに向き直ると、堂々とした口調で話し始めた。


「はい。現在我が国が欲している未開拓地ですが、既に開拓のための設備や準備は整っております」


「うむ、それは結構なことである。続けよ」


「はい。土地周辺に関する調査も、快調とまでは言えないながらも、進んでおります。現在までの調査の結果、やはり周辺には大量の"魔物"が生息していると思われる、かと」


「やはりそうであるか…」


 トラスト王国、いやアステリオ帝国も含めて喉から手が出るほど欲しいその土地は、当然その他の周辺国家も隣接していないわけではなかった。だが、それでも持ち手が今までいなかったというのにはやはり理由があるわけで、それが"魔物"の存在であった。


 魔物は、普通の獣とは異なり、この世界特有のエネルギー魔素によって突然変異、あるいは突然発生し、基本的に好戦的であり人に害をなす自然災害のような物、というのがこの世界における一般的な常識だ。

 そしてこの魔族だが、生命力攻撃力ともに並の獣とは桁違いに高く、冒険者などのような特殊な経験や訓練を積んだものでなければ対処できない場合も多かった。


 王国もそれは例外ではない。勿論、有事の際に備えるため、威厳を保つため、兵士や騎士団などの軍事力は持ち合わせているが、魔物相手となると門外漢である。

 なので、冒険者ギルドの方にでも相談しようかと考えていたところに、帝国側から一つの提案があったのである。


「"うちの兵力を貸してやるから帝国にも土地の所有権を認めろ"じゃとぉ…?そんなふざけた話が認められるものか…っ!」


 実力主義ということもあり、帝国の軍人や役人には、傭兵や冒険者上がりの者、現役の者も多い。だからこそ帝国の軍事力は高いのである。

 実際問題、王国側としては、その軍事力提供の話はかなりありがたい話ではあった。


 冒険者ギルドに話を持ち掛けるといっても、ギルドはどの国にも所属しない(故に大陸中に存在している)独立した存在であるため、国家内にギルドが存在していても、有事の際は国家側がギルド側に常時より倍以上の相場で"依頼"という形を取らなければならない。例え王国がどれだけ力を持っていてどれだけ周辺国家から畏怖されている巨大国家と言っても、ギルドは「そんなことは知らん」と多大な金額を要求するだろう。


 だから帝国にその軍事力を貸してもらえるというのは非常にありがたい話なのである。

 だが、


「あのハゲのことだ、どうせふっかけてくるに決まっておるのだ!ならぬ!ならぬぅ!」


 恐らく帝国の力を借りれば、未開拓地の制圧は難しくはないだろう。だが、制圧後、その土地を自分たちが満足に利用できないではお話にならない。ヨハンは、事が済んだ後、帝国側が王国の足元を見て過剰に土地を要求してくるだろうと考えていた。


「ですが、そうなると冒険者ギルドに頼ることになります…恐らくその報酬は今年度予算を大きく上回ることでしょう。赤字ですよ」


 ため息混じりにヨハンをなだめようとするリオティス。ヨハンもそのことは承知しているのか、


「わかっておる!だが、これが言わずにはいられいでか!」


 と怒鳴り散らす。


「…仕方あるまいか。背に腹は、代えられぬというもの…。外務の大臣をここへ呼ぶのだ」


 やがて落ち着きを取り戻したヨハンが、意を決する。


「…ということは、帝国と?」


「うむ。あのハゲとその国に頭を下げることになるのは何とも癪であるが、この際仕方あるまい。さて、ここへ大臣を…」


 そう言いかけたその時であった。


「国王!会議の途中に失礼いたします!」


 扉を開け、ひどく慌てた様子で一人の兵士が転がり込んでくる。


「何事だ?」


「は、それが、その、あの」


「なんだ?それでは話が分からぬ。落ち着いて話すのだ」


 そして兵士が言った一言は、この部屋にいる者全員を驚かせるものだった。


「大広間に転生者様が!転生者様が現れました!」

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