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7話 魔人 ジャック

「ところで、君のことは何と呼べばいいかな。いい加減、"君"だとか"御客人"だとか言うのは……落ち着かなくってね」


 急だなおい。

 相変わらず器用に肩をすくめたかのように影をゆらめかせる魔人に、思わず調子を狂わされそうになる。

 おい!ここにきてそんなこと言うか普通!?まぁいいけどさ!


「義輝。樋川義輝って名前だ。呼びやすいように呼んでくれていいよ」


「ヒカワヨシキ……不思議な名前なのだね」


「一応言っとくと樋川は名字……あー、何ていうんだっけ」


「家名かね?とすると、貴族出身なのかな?」


「そう、家名だ。あぁ、俺んとこの世界は皆誰でも家名を持ってるんだ。だから特別偉いとかそういうのはないな」


「ほう……君の世界、実に面白そうだ」


 何度も噛みしめるように頷いて見せる魔人に、何となく気持ちが軽やかになってくる。

 会話ができるということがこれほど楽しいことだとは。


「で?俺はあんたのこと何て呼んだらいいんだ」


「魔人でいいのではないかね」


「それじゃ味気ないだろ。それにあんた自身を指してるわけじゃないし……俺も落ち着かないんだよ!」


「これは失敬。しかし、先ほども申し上げた通り……生憎名乗る名前が無くてね……」


 そういやそうだった。


「名前も覚えてないんだっけか」


「いかにも。全く、面倒なことだよ。これからは忘れてもいいように手記の類を残しておくべきだな……教訓だったと考えるようにしよう」


 いつのことかも覚えていない時の失態を、ついさっき起きたことのように語る魔人が何だか滑稽に見えて、思わず吹き出してしまう。


「フフフ。笑ったね?実はこれは持ちネタの一つでね。今日のような来るべき会話の日のために考えていたんだよ」


「いつの話を言ってんだよ…変なヤツだなあんた」


「私からすれば君も十分に不思議な存在さ……そして面白い」


 別に戦ってるわけではないが、何か負けた気がしてくるのは気のせいなんだろうか


「そうだ。君、私に名前を付けてくれないか」


「……俺が?いいのか?」


「名前が無いのは何かと不便だと気づいてね……さ、遠慮せず」


 会話が弾乱したと思えばすごいグイグイくるんだなこの魔人は!

 まぁ変にかしこまらずに済むから、気が楽でいいんだけどもさ。


「うーん。といってもなぁ……」


「雰囲気で構わないさ。あ、君の世界特有の名前だと光栄だね!」


 俺の世界の名前でねー…イメージだと外国人だけど…そんな外国人あるあるな名前知らないしなぁ俺。


「ジャック……とか?」


「……ほう」


 安直すぎたかねぇ?でも何となくイメージに沿ってる気がする。


「ジャック……うむ。私はこれからジャックだ!魔人、ジャックだ!」


「すっごいイメージだけでぱっと考えちゃったけど……気に入ってくれたか?」


「素晴らしい。実に良い名だと思う。ありがとう、ヨシキ」


「お、おう……」


 すごい目がキラキラしてそうな感じだなジャック。影だから目は無いんだけども……

 まぁそんな嬉しそうなジャックはさておくとして。

 俺は、もしかするとジャックなら、という一縷の希望を抱いて、ある質問を投げかける。


「ジャック」


「いかにも、私がジャックだ。どうしたのかな?」


 ほんとに気に入ったんだな......


「あー、ひとつ聞きたいことがあるんだ。アンタなら知ってるかもしれない」


「ふむ。期待に添えられるよう努力しよう。何かね」


「俺は、この異世界へ転生してやってきた余所者だ。だから王国のことみたいに、また面倒事に巻き込まれるかもしれない。そんなのはごめんだ」


「道理だね。続きを聞こう」


「ああ。あんたは俺に、召喚魔法の才能があるって言った。ということは、やりようによっては、俺はその召喚魔法を使えるようになるってことだよな?」


「その認識で相違ない」


 よかった。けど、次が肝心だ。

 意を決して質問を投げかける。


「無いはずの失われた魔法とかって言ってたけど、俺が習得するのは本当に可能か?」


 これだ。さっきジャックが魔法のことについて色々と説明をしてくれた上で俺が思ったことは、


 “魔法が学術体系という前提の元成立する技術であるとするなら、魔法は、使い手の誰かからその理論や概念を教わらなければ使えるようにならないのではないか?”


 ということだ。

 俺が持っているこの召喚魔法の才能。程度は分からないが、話しぶりからして強い力であることは間違いないんだろう。

 けど、いくら強い力でも、使えるようにならなければ意味が無い。

 俺の一番の不安は、宝の持ち腐れになるのではないか?ということだ。


「あぁ、心配ない、使えるようになるとも」


「えっちょマジ!?」


「まじ......?」


「あぁ、本当に?とかそういう意味だよ......」


「ほほう、面白いな。私も使おう。マジだ」


 結構重大な問題だったような気がするけど軽いな!この魔人、さてはこれがデフォか?わからん。読めねぇ。


「使えるようになるだろうが......何故?」


「どういうことだ?」


「私の知る限り召喚魔法はどのような形であれ強大なものになる。使い方を誤まれば、その身を滅ぼすやもしれない」


「心配してくれてんのか?」


「封印されてより初めての話し相手なんだ。それに素晴らしい名前もくれた。身の心配の一つや二つ、したくもなるものさ」


「そういうもんかね」


「さあ?世間のことに関してはほら、私は疎いからね」


「そりゃそうだ」


 ははは、と二人して笑う。


「俺は、元いた世界に帰りたい。異世界転生、結構憧れてたんだけどなぁ......、この世界の心象ははっきり言って最悪だ。だから帰りたい。どれだけ時間がかかるか分からないけどさ」


「ふむ。召喚魔法を極めれば、召喚のいわば逆...送還も習得できる。つまり、それを用いて元の世界に自分を送還出来るのではないか?ということかね」


「先言われて何かしっくりこないけど......そういうことだ。ていうか出来るのか?それも聞きたかったんだが」


 察しがいいと言うか何というか、先読みでもしてんのか?


「出来るとも」


「マジかよ」


「マジだとも」


 ノリいいなジャック。早速マジて使ってるし。


「時に、ヨシキ。ものは相談なのだが」


「? どうした?」


 急になんだ?


「私と契約を交わす気はないだろうか?」


「は?」


 どういう意味だ?


「ヨシキ。君は元の世界に帰りたい。そのために召喚魔法を極めるのだろう。だが、その習得方法如何について、君には知識が無い。私なら、力を貸せる」


 なるほど。それは確かにそうだ。というか、召喚魔法は失われた力らしいし、ジャック以外のこの世界の誰かが教えてくれるとはあまり思えない。

 だから、俺もジャックに力のことについてもっと教わろうと思っていたし、そのための交渉やらをしようと思ってたんだが......


 何か、向こうから振ってきたからえらく手間が省けたな。

 まぁ一応色々と確認だけしておこう。


「ただの親切ってわけじゃないんだろ。勿体ぶらないでどういうつもりか言え」


「素晴らしい、見抜かれていたか......正直な話をしよう。君という話し相手が惜しい。君がここを去り、私だけがまた残されて......訪れるのは孤独だけではなく、圧倒的な喪失感だろう。きっと、どんな客がこの先訪れようとも、ヨシキのような話し相手が見つかるとは思えない。そもそも、客人が本当にやってくるかどうかも、分からない」


 なるほどな。つまりこういうことだろう。俺はここに、処刑ということで谷から突き落とされ、運良く流れ着いた。辺りはそりたった岩、奥には深い森が続いている。ここは僻地も僻地だろう。

 こんなところにやってくるのは相当な物好きか、俺のように運が悪いやつだ。悪運は強いかもしれないけど。


 たまたま俺は話し相手を無意識に欲していて、ジャックがそうだった。だから今の何とも奇妙な関係が成り立っているんだと思うが、これは普通じゃ到底ありえないだろう。

 通常時なら、俺もジャックのことを怪しい化物だと思っていたと思うし、何よりビビって一目散にここから逃げ出してたような気がする。


 だけどそれは駄目だ。俺は学んだ。人を第一印象や上辺だけで決めつけてはいけないと。そして馬鹿正直に人を信じてもいけないとも学んだ。


 どちらもあのクソジジイから学んだ事だと思うとムシャクシャするが、八つ当たりをかましても仕方がない。

 この怒りは、俺がこれから生きるための糧としよう。

 どんな理不尽が来てもしぶとく生き残れるように、原動力にするんだ。


 絶対に忘れてはいけない。


 この異世界は俺に牙を剥いた。理不尽という名の暴力で、俺を殺そうとした。

 だから邪魔するやつは許さない。

 それが理不尽に対抗するための、唯一の方法だと思った。


「わかった。契約を交わそう。俺に力を貸してくれ、ジャック」


「ありがとう。本当に......ありがとう」


 ーーーーーーーーーーー


 ジャックによれば、封印はあくまで力を縛るためのもので、この地に縛り付けている効果はおまけのようなものらしい。

 だから、封印の効果より更に強力な“契約”を用いて、魂レベルで新たに俺に“縛り付ける”ことで、この洞窟から出ることが可能になるそうだ。


 契約は滞りなく行われた。

 赤と黒の魔法陣が鈍く地面に輝いたかと思うと、二つは俺とジャックを中心に重なり、溶け合うように干渉していった。

 そして、その度に大地が小刻みに振動していた。


 振動がやんだかと思うと、


「これで契約は交わされた。もう動いても大丈夫だ」


「契約って言ったけど、結局これって何したんだ?」


「ん?あぁ何、単純なことだ。一言で言えば、ヨシキの魂に、私の魂を隷属させたのだ。いわば使い魔状態だな」


「へー......って、はぁ!?そんな単純な話でもないと思うんだが!?つーか魂に隷属って何!?やばそうなんだけど!」


「やばそう?」


「危なそうとかすごそうとか、とにかくそんな感じでやばいって意味だよ!」


「ほう。ヨシキの世界の言葉は奥が深いな......」


 ほんととんでもないことを平気な顔で言うなこいつ!寿命が縮むわ!!

 ......そういえば、ジャックのやつ、自分のことを使い魔とか言ってたっけな。てことは......


「なぁ、もしかして、ジャックのこと召喚できたりするのか?」


「どうだろうな。自分がどういう存在かよく分かっていないが......いずれは可能になるかもしれない。ただ、封印の影響か、今の私には何の力も残されていない。ヨシキの魔力や召喚の力が伸びれば、あるいは封印から解放され、力を十全に使えるようになるやもしれない」


「なるほど。じゃあ当面はそれを目指すか」


「?元の世界に戻るのが先決ではないのか?」


「それはそうだけど、ジャックの力を解放させるくらいの力が無いと、多分元の世界に戻すことなんてできなさそうじゃないか?それに、解放されれば記憶が戻って、帰るための方法が分かるかもしれないだろ」


「君は知恵も回るようだな。素晴らしい」


 それに、


「まだ完全に信用し切れたわけじゃねーけど...俺もお前に出会えて良かったと思ってる。あのまま会えなかったら、帰る方法も分からずじまいだった。それに俺にとってもあんたは大事な話し相手だ。義理は果たすべきだと思うし」


「ヨシキ......ありがとう」


 気づけば、洞窟の入口に光が差し込んでいる。

 大分話し込んで、朝になっていたみたいだ。


「さて、じゃ行くか」


「心得た」


 借りは返す。筋は、通すべきだと思う。

 これが、この異世界に対する、俺の最大限の()だ。

ジャックがなかまに加わった!

やっと洞窟出ました......もっと早くに出るはずだったんですが...

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