6話 この世界の魔法のこと
説明回ってことになると思います
「まずは魔法について、基本的なところから語ればいいかな?」
「いや待て待て、それはありがたいが、あんた記憶が無いんじゃないのか?教えるもクソもないだろ」
さも当然のように語りだそうとする魔人に待ったをかける。別に信用していない訳では無いが、当てずっぽうや適当こかれてまたこんがらがってしまうのはごめんだ。
「それなら問題無い。実はこう見えても私、自分のことについては何の記憶も持ち合わせていないが......こと魔法や、この世界の力なんかについてはそれなりに学があるみたいなんだ」
「すげぇ偏りのある記憶だな!?」
「昔は私も困惑してねー。何故こんな知識だけを?と思ったものだ」
魔人自身もよく分かっていないが、とりあえず魔法等に関する知識は持ち合わせているらしい。それなら有効活用させてもらうとしよう。
これから俺自身どうなるかはわからない。だが、生きるためには少しでも情報が必要だと思う。あんなことがもう、起こらないためにも......
それに、こいつはさっき、意味深なことを言った。しかもそれは、俺のことに関する極めて重要な情報のはず。
この魔人の話から、何か今後生きていくための鍵が掴めそうな気がする。
確信は無く、直感での判断だったが、俺はもうこの魔人のことをただの会話相手以上の存在に置いていた。
「あんたの話しやすいようにしてくれ。俺は転生者で、この世界のことについては右も左も本当に何も分からない。だから、あんたが言ったとおり、基礎的な部分から話してくれると、多分助かる」
「結構。では僭越ながら、私の知り得る範囲で......この世界の魔法について、ひとまず話すとしよう」
魔人はそう言うと、俺にゆっくりと改まって向き直る。
「まず、この世界において魔法は、魔素というエネルギーを用いて発現される。魔素はこの世界特有のエネルギーであり、大地、空、海......あらゆる自然の中に満ち溢れている。獣、人、魔物......それらはみな魔素をあらゆる形で利用し、今日まで生きてきている。その利用法の一つが、魔法であるというわけだ」
「魔素ね......俺も持ってたりするの?」
「人はその体に魔素を宿すことは出来ない。大地や大気に宿る魔素は、それを扱える生き物が取り込むと魔力という純度・効率の良いエネルギーに変換される。この、自分の中で変換された魔力をベースに、魔法を構築する」
「ふーん。それで、その魔力とやらは俺にもあるの?」
「ある」
「おお!あるのか!」
一番懸念というか何というか、本当に力が何も無いとか、魔法の一つも使えないとかいう事態ではなくて本当によかった。
「ただ、恐らくそこまで強大な魔力を持っているというわけでもない、と思う。過去にここまでやってきた人間と比べても同じかそれより少なく感じるから、平均といったところなんだろう」
「へ、平均......」
やっぱ普通ってことじゃん!くそう!
「そう落胆することはない。人間という枠に収まり続ける限り、その身に内包できる魔力には幾らか上限がある。種の限界とでもいうのかな。だからそう悲観することでもない。これからだよこれから」
はっはっはと笑いながら、優しく俺に語りかける魔人。
慰めてんのかそれで!?
「話を戻そう。魔法には魔力が必要ということだったが......君、学問に関して疎かったりするだろうか?」
「?学問......?こっちの世界で学問が何のことを指すのか知らないけど、元いた世界では学生やってたぞ」
「ふむ?学徒だったのかね。それはそれは......」
「何に感心してるのか知らねぇけど話。続き。頼む」
「わかった。まぁ、種を明かすと......この世界でいう魔法とは、用途に応じた体系やセオリーといったものが存在する、学問のようなものだということが言いたかったわけだよ」
「魔法ごとに方程式みたいなものとか、言ってしまえば答えがあるってことか?」
「理解が早くて助かる。その通り。そして、ここまで言えば分かるかもしれないが...“魔法”という技術体系ともいうべきそれを生み出したのは人間だ」
「魔物やら何やらは魔法使えないのか?」
「正しい意味での魔法を使えない、といった方が正しいだろう。魔力を用いた力の行使は可能だが、それは学問的には最適解でなかったり、結果にムラが出たりする。それを無くすための“魔法”とでも言うべきかな?人間達の生きるための知恵みたいなものさ」
「はぇー......」
魔法っていえば、覚えたらそのまま唱えてドン!みたいなもんだと思ってた。ゲームとかの知識でしかないから無理ないか。
「話を戻そう。魔法は学問であり、用途に応じた体系が存在している。ここまでは分かるね」
「あぁ、とりあえずは頭に入った」
「結構。ここで、【鑑定】という魔法について改めて触れる。この魔法は、先程も言ったが......自分が既に知識として知っているものや要素についしか、情報の開示を行えない。あくまで方程式の存在する、結果が変わり得ない技術体系たる魔法だから、これは絶対だ」
「うん」
「と、いうことはだ。未知の力......何か特殊なものや、その人固有のもの。そういったことに関しては、【鑑定】は何の結果ももたらさないことになる」
「未知の力......」
あのジジイ共、そういうことがあるかも知れないってのに、人の話を一つも聞かずに俺を悪魔だって決めつけてたのか!?くそっ!!イライラしてきた。
「......話を続けても、大丈夫かな?」
「悪い......」
「構わない。君にも事情が色々とあった訳だから。さて、君は【鑑定】を受けて、力を持っていないと判断された。そうだね」
「ああ。王の部下にいつの間にか使われていたみたいだ」
「【鑑定】はその性質上、宝石商のような知識を求められる職業に重宝されるような魔法だ。紛い物を見分けなければならないからね......そしてその、紛い物であるかどうか、価値が高いかどうかの判断は、結局は自分の知識や見聞から作用される」
「うん」
「人に対して行う場合も全く同じだ。君の場合、魔法や武術等に関して、いかに才能があるかどうか、といったところを見られていたのだろう。そして、【鑑定】を君にかけたが、君の内には秘めたる力は見当たらないようだった。......術者が知り得る範囲では、ね」
ここまではさっき言ったことのおさらいだ。何となくだが、反復して聞いているうちに分かってきた。
つまり、【鑑定】という魔法は、辞書なんかと同じなんだ。言葉の意味を調べようとした時に、その言葉が辞書に載っていれば、意味や類義語、反対語なんかも含めて調べることが出来るけど、そもそも載ってなければ知りようがない。人によっては、その辞書の厚みが、「学生自作の英単語帳」程度だったり、あるいは「最新版広辞苑」並だったりするってことなんだろう。多分だけど!
「で、あんたの辞書は分厚かったってわけか?」
「辞書?また君は面白い表現をするんだな?君といると飽きがこなくて素晴らしい。話を戻そう。そうだね。君が言うところの“辞書”が......その王国お抱えの術師より分厚いものだったというのは、そうなのだと思うよ」
この魔人、色々俺に教えてくれているが、さっきから思ってたことだけど実は相当すごいやつなんじゃ?この世界のこととか、物事のスケールについてはからっきしだからどれくらいの程なのかは分からないけど。
ま、俺にとったらもう魔人というか気のいいおっさんて感じなんだけど。
「えー......続けても?」
「あ、うん、すまん」
ついつい自分の中で色々考え込んじゃって、話を止めちゃうことがあるな......気をつけなければ。
「で、だね。私も君の力のことが気になったものだから、こっそり調べてみた」
「俺を目の前にしてこっそりもくそも無いと思うんだが」
「君には確かに目に見えて魔法や戦闘能力といったものの才能が見られなかった」
「酷い!もうちょっとオブラートに包んでくれてもいいじゃねぇか!!くそ!!」
「しかし尋常ならざる力の片鱗......強大な力を秘めていたのも事実だよ」
本当か?ちょっと怪しくなってきたぞ。
「君にも分かるように示そう......そうだな、こんなところか。【共有辞書】」
魔人がそう言った瞬間、魔人と俺との間に淡く細い光が迸り、それが消えたと思うと、目の前に“俺の”情報が映し出された!
名前:桶川義輝
種族:人間
状態:普通
技能:無し
魔法:無し
能力:無し
才能:召喚
「1度に色々と見せても分からないだろうから私の方で共有する情報は区分させてもらったよ」
うわぁ......ほんと何もねぇ......我ながら目も当てられん......悲しくなってきた......
ん?ちょっと待てよ?
「才能......って何だ?」
「その名の通り、その人に適正のある力の使い方や技能のことだ。職業を示すことも出来るが今回は割愛させてもらったよ」
「召喚......召喚って、魔法か?」
「そう!それだ!聞いて驚くなかれ!この召喚魔法なのだがね」
さっきより明らかに興奮した感じで語り始める魔人。
「この召喚魔法は、もはや存在するはずのない、失われた力なのだ」
「......はい?」
義輝の秘められた力、それは召喚魔法の才能でした。
もう少しさくさく進めてこのあたりもぱっと終わらせるはずだったのが、気づけば何かすごいだらだらと会話させてしまっていた...なんでや...




