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4話 心の声

 ここは......どこだろう?体が動かない......それに暗い。何も見えない。


 あぁ、そうか。死んだんだな、俺......

 これが、死ぬってことなんだ。また転生したのかな、とか思ったけど全然違った......


 暗くて、寒くて......動くのが辛い。もう何もかもどうでもいい、と思っていたけど、神様は死んでも俺に考えることを放棄させてはくれないらしい。


 俺はもう死んでしまって、これ以上怖いことなど無いはずなのに、何も見えないことが強烈に不安になって仕方がない。


 おまけにこの寒さ。死んでるっていうのに凍え死にそうな程だ。もしかしてここは地獄なのか?無限に寒さを感じるというような罰を受けなければならないとか、そういうことなのか?そんなに悪いことしたかな俺。

 ......いや、したんだろうな。何せ悪魔だ。悪魔じゃないけど。この世界の神様は俺のことが大層嫌いなんだろうなぁ。


「俺は......違う......」


 あれ?喋れる。あの世でも喋ることは出来るのか?何が何だかよく分からんな。死ぬのは初めてだしな。ってこんなことを前にも考えたような気がするな?デジャヴってやつか?


「......あれ?」


 ここで、違和感を感じる。先程から感じていた、暗い、寒い、体が動かない。

 身体の感覚がちゃんとあるということだ。死んだはずなのに?


 どうやら、暗いのは、自分が目を閉じていたからだった。なので、ゆっくりと瞼を開く。

 やはり視界はぼやけ、よく見えないが、それでも徐々に目が慣れていく。


「ここは......?」


 周りは岩に次ぐ岩だったが、自分の身体......その腰から下あたりからは水に浸かっていた。川だろうか?だいぶ緩やかな流れだ。

 寒かったのは、全身水浸しになっていたからのようで、身体が重いのも、どうやら全身を至るところで打撲していたからだった。意識が覚醒した今、その痛みが緩やかに主張を始めてきている。


 俺は死んでなどいなかった。


「はは......生きてんじゃん...生きてるよ、俺」


 生きているということによる安心感からか、はたまた虚無感からか、寒さと痛みと、肉体と精神の疲労によって、身体がより一層重くなっていく。

 このまま瞼を閉じれば、次こそ本当に自分は死んでしまうだろう。


 それでもいいんじゃないだろうか?この世界ではきっと、俺は生きていけないんだ。人間として扱ってもらえなかった。話を聞いてもらえなかった。信じてもらえなかった。


 全てが理不尽で、ただただショックだった。


「でも......死にたくないなぁ」


 自分でも何を未練がましいことを、と思ったが、それでも何となく、死ぬのは嫌だった。感覚として、死ぬことはいけないことというものが何となくあったし、死ぬことに対して、何となく怖かった。


 重いながらも、どうにか匍匐前進の要領で、地道に川から這いずり上がる。何やら左足の感覚がおかしいようで、どこか骨折か何かしてるかもしれない。寒さで麻痺したのか、痛みをあまり感じていないのはせめてもの救いだ。


 額に汗をたらしながらも、ようやく川から脱出することに成功する。


「上陸したは......いいけど......ここからどうしよう......」


 ひとまず第一段階は乗り越えたといったところだが、自分は水浸しだ。これをどうにかしなければ、どちらにせよ凍え死んでしまうだろう。

 それに、ここはどうやら岩山のようだが、奥の方には森が見える。森には獣がいるだろう。いや、ここは異世界だし、それこそ魔物や、悪魔なんかも出てくるかもしれない。


「身を守れる場所......逃げ込める場所を探さないと」


 そう思い、辺りをぐるりと一瞥する。奥に見える森以外は、岩、岩、岩......


「ん?あれは......」


 自分がいる場所の、更に少し進んだ先、森に入る手前あたりに、横穴のようなものが開いている。


「洞窟か!?」


 やった!それなら何とかなるかもしれない!


 まだ四つん這いの状態だったので、違和感がある左足をどうにか庇いながら、何とか直立する。


「よし、壁を支えにすれば歩けなくはないな」


 目の前の困難を打開する一つ一つの小さな希望を前に、少しずつ前向きな気分になる。

 自分の中の「生きたい」という気持ちが、より増した気がした。


 やはり左足はどこか折れてしまっているようで、変に衝撃が走ると、途端に重い痛みが上ってくる。


「こらえろ、俺......洞窟は目の前だぞ......」


 少しずつ、だが確実に進んでいく。段々と洞窟が近くなってくるのが目に見えてわかる。一直線に駆け込みたかったが、左足が折れているので我慢する。

 そして、


「つ、着いた!」


 その横穴は、入口の高さが2m程のものだったが、奥は暗くなっていて何も見えない。そこそこの深さはありそうだ。


「よし、これなら何とかなりそうだ」


 少なくとも、その辺で寝転がっているよりはマシに過ごせるはず。

 そう思い、壁を支えに、洞窟の中に入っていく。


 洞窟の中に身体が完全に入った瞬間、


「あれ?」


 先程まで感じていた寒気が一気に引いていく。それどころか、暖かさを感じる。


「洞窟の中だから暖かい、のか?」


 よく分からないが、それならそれで都合がいい。

 ひとまず服が濡れたままだとよくないので、下着だけを残して全て脱ぎ、水気を切るべく絞っていく。


「かた......はは、貧弱だな俺......」


 ジーンズを絞る腕をぷるぷる震えさせながら、そうぼやく。

 あのジジイ...クソジジイに言われたこと。自分が、転生者であるのに関わらず何の力も持たない非力な存在であったということ。

 それが思い返された。


 別に転生したかったわけでもなければ、そういう力が欲しかったというわけでもなかった。しかしそれでも、非力であるとけなされたことには変わりはなく、今更だが、どことなく悔しさがこみ上げてくるのだった。


 ーー落とされる前なんか、誰かに助けを求めていたし。最後の最後は人頼み、か......格好悪いにも程があるよな......。


「ふむ。私の見立てでは、君はそこまで貧弱ではないとは思うのだがね」


「そんなことない。俺はひとりで何も出来なかった。今だって。生きていけるかわからない」


 心の声だろうか?それにしては何やらクリアな、そして聞いたことのない声が俺に語りかけてくる。

 疲れてるんだな。いよいよ俺も焼きが回ったんだろうか。


「しかし生きるために必死になっている。いやはや、その姿勢は実に素晴らしい。そして面白い」


「......そりゃどうも」


 心の声だからなのか、俺に対する評価がえらく高い。悪い気はしないが、何となく乗せられているような気がしてならない。


「フフ、これは本心だよ。人の賛辞は、世辞であろうと何であろうと、快く受け入れるべきだ。後々になって中身がひねくれかねない」


「心の声のくせに、俺に説教するのかよ!」


 いよいよおかしくなったのか俺!?もういい、さっさと服を乾かして休もう......


「心の声?君は冗談も言うのかね。なかなか面白いが......私は心の声などではない」


「は?」


 何?なんだ?


 先程より明らかにはっきりと声が聞こえる。そして、その声の発生源は、洞窟の奥の方からだった。


 ゆっくりと、その声の主の正体を確かめる。

 そこにいたのは......




「私は名も無き魔人。御来客、心より歓迎する」


 赤くゆらめく、一つの影だった。

ようやくキーキャラクター登場です。

行き当たりばったりですがそれがまた楽しいですね。

誤字脱字、その他何かありましたらよろしくお願いします。

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