11話 森の少女
俺、樋川義輝、ひょんなことから召喚魔法が使えるようになった、DFが大好きな一般転生大学生。
さっき、遂に召喚魔法(初歩も初歩)が使えるようになって、これでやっと今後の目処が立ったぞー!とか喜び勇みながらりんごかじってたんだが...
「何者なんですか、あなた」
何だこの...おなごは。
『すごい言い方をするんだねヨシキ』
『いや、なんか急なことでびっくりして口調がおかしくなったっていうか。あるだろそういうの』
そういうことにしといてくれ。な。
しかしこの子、絶賛迷子してるような俺が言うのもなんだが、1人でこんな森彷徨いてるなんてどういうことだ?
フードのついた、少し大回りな外套に身を包んでいて、この距離だとどんな見た目かはわからない。
外套の中に日差しが差し込んだ時、うっすらと赤の色が光ったから、多分赤髪なんだろうな。
『どう思うジャック』
『まあ少し怪しさは感じるね。ただ、敵意の類は特には。単純に森の中で1人彷徨うヨシキのことを怪訝に思っているだけのようだ。我々と同じだね』
『まぁ俺は1人じゃなくてジャックもいるけどな』
『『はははは』』
オチがついたところで、これ以上怪しくならない程度に探りを入れてみる。俺としては、辺り構わず誰かと敵対するなんて面倒だ。出来ることなら利用できるものは利用していきたい。
「その前に、まず君が何者なのか教えてほしい。そしたら俺も言う」
「......聞いているのは、私です」
「人に尋ねる時は自分からっていうのが礼儀というものなんじゃないか?少なくとも俺はそう教わったぞ」
1種の決まり文句で、先に相手の情報を引き出す作戦に出る。
「む、それは確かに......私はアルマ。この辺りに住んでいる者です」
「ありがとう。俺はヨシキ。気づいたら、この森で迷ってしまっていて......」
『彼女、この辺りに住んでいると言っていたね。もしかしたら村か何か、この近くにあるのやも知れない。ひとつ聞いてみてはどうだろう』
『名案だなジャック。助かるよ』
「......迷ってしまって、何なんですか?」
あっと、脳内会議のせいで変な間が空いてしまったみたいだ。
「すまない。この近くに住んでいるって言ったっけ?近くに村でもあるのなら、教えてもらえないか?ここ数日ロクな飯にありつけてないんだ」
「そういうことですか。なるほど......」
少女の方で勝手に合点がいってくれた。何だかわからんけど、話が進んでくれるならそれはそれでいい。
「......村はありませんが、私が住んでる場所なら近くにあります。大したものは出せませんが」
おおっ!?それはありがたい!りんごじゃそんなに腹はふくれないからな......
「本当か......!? 助かる!!」
「はい。それでは少しこちらに来ていただけますか」
そう言って、少女は自分の方に手招いてくる。なんだ?
言われた通り、彼女に近づいていく。二人の距離が1mくらいのところまでなったところで、
「その辺で大丈夫です」
「えっと......これは一体?」
疑問をそのまま言葉にする俺。それに対して、
『ほう、この魔力の流れ......なるほど素晴らしい』
『なにが?何の話!?』
『見ていれば分かるさ。ああ、やはり君といると出来事が多くて飽きない』
そうしてあたふたしていると、ゆっくりと彼女は呟いた。
「じっとしていてください。......【記録転移】:家」
そう言うと、丁度俺と少女を囲む程度の大きさの魔法陣が浮かび上がった!かと思うと......
「うっ!? ......ここは......?」
胃や腸やらの内蔵が不自然な重力に引っ張られたような感覚に、若干嘔吐いていると......辺りが一瞬にして見知らぬ風景に変わっていた。
大きな広間に、これまた大きな長いテーブルが中央に位置してあり......左右に幾つもの椅子が備え付けられている。
壁や天井の色は赤黒いレンガのような感じで、装飾と相まって暗く怪しい雰囲気だ。
古びて埃っぽさはあるんだが、あのヒゲの城に負けるとも劣らない威圧感があって......まぁ、一言で言えば「スゲェ」って感じだ。
ジャックも『これが強力な移動魔法か......いい体験ができた』
とか何とか言ってるし。知ってたならまじで教えてほしかった。今も吐き気が定期的にやってくるし......おぇ。
「ようこそ。ここが我が家です」
「あ、どうも。ここが......我が家......?」
これが自分ちかよ。アルマってすごい子なんだな......俺、何か変なこととかしてない、よな?こんなところで「目障りなので死刑」とかまたされたら嫌だぞ。神様を呪い殺してやる。
「適当に座って寛いでいて下さい。祖父を呼んできます」
「あ、どうも......って、祖父?」
「はい。あなたの話を聞きたいです。祖父も、関心を示すと思います」
はぁ......でも何で俺の話をアルマのおじいさんが?
俺ってばDFが大好きで転生してきたと思ったら悪魔認定されて殺されかけてさっきまで森の中で彷徨ってて餓死寸前だった一般大学生だぞ。
......自分で言ってて全然普通でも何でもねぇなこれ。悲しくなってきた......
『どうするジャック』
『別に話せるだけ話せばいいんじゃなかろうか?ただ、まあ、召喚魔法や君が異世界からやってきたことについては伏せておいた方がいいだろう。大概はそもそも信じてもらえないだろうが、相手が相手では面倒なことになりかねない。君も面倒事は御免だろうしな』
『話が分かるなジャック。んじゃあそのあたり以外のことを適当に話せばいいか』
脳内会議も終わったところでアルマに返事をする。
「俺の話?別にいいけど、何で......」
そこまで言いかけた俺の顔めがけて、ものすごい勢いで黒い何かが飛んでくる。は!?ちょっと待って!なに!?
びびりすぎてぎゅっと目を瞑る俺。だが、衝撃はいつまでたってもこなかった。恐る恐る目を開けてみると、黒い拳状の何かが紙一重で止められていたのだ。
「先程から少々、無礼が過ぎると思いますが? 人間」
「やめなさいバロン。彼は我々の客人です。聞きたいこともあります。控えなさい」
「失礼致しましたお嬢様」
そう言って、バロンと呼ばれた黒い何かは、スルスルとその黒い拳状の物を、側の燭台に収めた。
「彼は我が家で執事をしている、シャドーマンのバロンです。非礼を詫びます」
アルマが俺に説明してくれる。が、シャドーマンってなんだ?
『そういう種族があるんだ。彼らは文字通り影の中に潜んでいるんだ』
へー。さすが異世界、いろんな種族がいるんだな......
「俺は気にしてない。それより、話し言葉とか変えた方がいいんだろうか?」
「あなたが話しやすいようにしてくれればそれで構いません。重要なのは話の内容ですし、それに......」
ちら、と燭台の方に目をやってから、アルマは言う。
「協力的でなかったり、あなたが我々に害ある存在だと分かれば、その時は止めません。勿論この家でのことは他言無用で。いいですか?」
「あっはい」
飯にありつけると思ったらものすごい厄介な話になってきた。とりあえず話ちゃんとすればその場で切り捨てられるとかはないみたいだ......
何で俺ばっかりこんなにビクビクしなきゃなんないんだよ......
『前途多難だな、我々は。とにかく話せばわかる人種のようだ。ここは座して見るしかあるまい』
『そうだな。ジャックも助言、頼んだ』
『心得た』
手短に脳内会議を終わらせ、アルマと共にアルマのおじいさんが来るのを待つ。
ジャックがいるのも心強いが、直前に念話が出来るようになっていて本当に助かった。念話できなきゃこうやって脳内会議もできないもんな......
少しして、バロンが「お嬢様。お見えになられたようです」と言う。
こんな家のこんなやばそうな執事のいる地主(?)か......一体どんなやつなんだろうか。
そして、アルマの祖父なる存在は、次の一言と共に、俺達がいる広間にやってきた。
「やっほー。ワシじゃよ」
「誰!?」
「人間!口を慎め!」
脊髄反射でつい突っ込みを入れてしまう俺に、当然ブチ切れるバロン。
いや、だって「ワシじゃよ」とか言われても俺知らんもん!俺は悪くねぇ!
「構わんてバロン。落ち着きんしゃい」
「し、しかし...ヘル家当主たるウルロフ様にこのような......」
「気にせん気にせん。ワシもピッチピチの2000代くらいの頃なら一瞬で消し炭にしとったやも知れんが、もう1万と...幾つだったかの?まあそんくらいの歳のジジイじゃ。分別はついとる。それに彼は孫娘の連れてきたお客さんだそうじゃないか。もてなさんでどうする?違うか?ん?」
「いえ、その......はい......」
ウルロフという老人に詰られたじたじになるバロン。それを見て微妙な顔をしているアルマ。俺はとりあえず許されたらしい。良かった......
この老人、少し年季の入ったローブを羽織り、眼鏡をかけている。顔にはシワが幾重にも刻まれており、過ごしてきた年月の重みのようなものを感じる。
はっきり言って俺はこの老人から、言いようのない「凄味」のようなものを感じていた。
そういえばさっき、あのおじいさん自分が1万歳を越えてるみたいな事言ってなかったか?気になったので聞いてみるか。
『ヨシキ。まずは自己紹介してからだぞ』
『わかってる』
「アルマさん、に招待されてやってきたヨシキと言います。森で彷徨っていたところ声をかけてもらって......お孫さんには感謝しています。ところで、あの、1万歳っていうのはどういう?」
「おお、あの森でな。それは災難じゃったのう。昼間で見つかったから良かったものの、あそこは夜になると住み着いた魔物が凶暴化しよる。人間であるお前さんでは危なかったじゃろうて」
ヒエッ、まじかよ!あの森こえぇ......洞窟出発したのが日が出てる内でほんとよかったな。
「ところで歳の話しじゃったな?それは勿論、ワシがこの辺りを統べておる“魔王”だからじゃよ」
なるほどねぇ、魔王。だから道理で......
......は?
「ま、魔王!? えぇ!?」
「ワシそんな変なこと言ったかのー?」
「い、いえ、そんなことは! 決して!!」
「おじいちゃん。人間が魔王見たら普通驚く」
「あ、そういえばそうだのう。こりゃ失敬した。ガハハ」
ガハハじゃねーよ!
『魔王!よもやこの目で見る日が来ようとは......感無量だ』
お前もお前で呑気なことを言ってるんじゃない!緊張感を持て!
ヒゲの王に悪魔認定されて殺されかけたと思ったら、お次は魔王とエンカウントだって?冗談じゃない!どんだけハードモードにしたら気が済むんだよこの異世界!!くそが!!
「立ち話もなんじゃし飯にでもせんか?迷っとったなら腹もすいておることじゃろう。これ、バロン。食事の用意を頼まれてくれるか」
「仰せのままに」
そう言って、影から影へ移動しながらスーッと広間から消えていくバロン。俺も出来ることならこの場から消えたい。
ん?待てよ?この魔王さんの孫娘ってことはアルマ、もしかして......?
「私も魔族ですが、何か?」
ですよね〜。
......気を落ち着かせるためにジャックとどうでもいい話でもしよ。
『なあジャック、魔族と魔人てどう違うんだ?』
『魔族とは魔素を用いて魔法のように力を扱うことの出来る者達の総称だ。高位存在や力のある者は人間の扱う魔法を扱うことも出来る。魔族独自の魔法体系も存在しているようだ。魔人とは魔力が常人の枠から越え、魔性が限界突破した存在のことだ。まぁ、人間だったものといったところかな』
『じゃあやっぱジャックってすごいやつってことか』
『うむ。私はすごいやつなんだ。多分』
自分ですごいって言っちゃってるところがジャックらしいというか、こいつも変わった奴だわなぁ。
「なんじゃアルマ。家の中で外套なんぞ羽織りよって、可愛い顔が台無しじゃぞ!ほれ、じぃじにその可愛いお顔を見せておくれ」
「客人の前で変なこと言わないでおじいちゃん」
あ、この魔王孫に首ったけなやつだ。
気づいた途端に何か畏怖もクソもなくなってしまった。
「ご飯の前には脱ぐつもりだった」
「えー!アルマの可愛い顔、じぃじ見たい!見たいんじゃー!」
本当に魔王なのかこのじいさんは。
「わ、わかったから......」
孫若干引いてんじゃねぇか。
そう言いながらフードを外し、外套を脱ぐアルマ。
中から出てきたのは......
「お、おぉ......」
「なんですか」
ショートボブの赤髪に、紫の妖艶な雰囲気を見せる瞳。
確かに魔王さんの言う通り、
「可愛い......」
「なっ......!あ、あなたまでそんなことを......!」
あ、恥ずかしがってるのも可愛い。
「じゃろ!? わかる〜」
こっちを指さしながら興奮する魔王さん。すごいノリの人だな......
「からかうのはやめてください」
睨まれたけどそんなんじゃ怖くないぞ。ははは。
そうしてる内に、机の上に料理が運ばれてくる。
名前とかはよくわからないが、俺がいた世界で見たような料理もあったりした。シチューのようなものや、ローストビーフみたいなやつとかだ。
久方ぶりのまともな食事の前に、りんごで抑えられていた食欲が再び掻き立てられる。本能が「食え!」と言ってきているようだ。
けど、理性が働いてぐっとこらえる。招かれた身分だし、人前でそんながっつくような真似はしたくない。俺は日本の人間なんだ。元の世界の感性は、戻るまであまり殺したくない。
「色々とあって疲れておるじゃろう。見て分かる。遠慮せんと食ってくれてええ。話は後からでも十分できるからの」
秒でがっついた。理性は死んだ。
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「ご馳走様でした」
乱暴に腹の中に料理をかきこみ、ようやく食欲を押さえ込む。
流石に手づかみで食べるとかそういうことはしなかったが、いつもと比べると食べ方は汚かったから、食べ終わってから少し恥ずかしさが込み上げてきた。
「食いっぷりのある若者はええのう。元気をもらえるかのようじゃ。うちの孫は何せ小食なものでなぁ」
「おじいちゃん。今は関係ないでしょ」
頬を少し赤らめながらむすっとしているアルマ。
あぁ、うん、そういう顔もあれな。可愛い。
『ヨシキ、さっきからにやついて変だぞ』
『お前に変とか言われたくないぞ!?』
『ははーん、さては君、あの少女のことが気になっているんだな』
『だったらなんだよ』
『いやいや、結構、結構』
何が結構、結構、だよ!またどうせニヤニヤしてんだろうなジャックのやつ。くそー、こいつこういうことがたまにあるからなぁ......
「さて、落ち着いたところで話に入ってもええかの」
「あ、はい。ご飯、ありがとうございました」
「気にせんでええ。飯を食うのに一人二人増えたところで変わりゃせん。......で、アルマよ。ワシを呼んだということは、何か理由があるのじゃろう」
「うん、おじいちゃん」
魔王にそう頷き、俺の方に向き直るアルマ。
そして、俺に一つの質問を投げかけてきた。それは、
「ヨシキさん。あなた、召喚魔法が使えます、よね?」
......おぉっと??
話が遅々として進みませんね…無駄話が多いんだろうか…




