#22 御前試合・先鋒戦
お待たせしました。
気がつけば一ヶ月以上過ぎてしまいましてもし分けないっす。
太陽が顔を出し、ゆっくりとプシュケー国の中を照らし始め、日の光に誘われるように人々が家から顔を出し、各々の仕事に精を出し始めた頃、煉紅郎は豚幌亭でシャルル、ラシュナート、ジョジュと共に朝食をとっていた。
「食事は程々にな。試合で動けなくなる」
「はいっす!」
「はいニャ!ご主人様はいっぱい食べてくださいニャ!」
「いや、俺も、程々で良い」
「何かあるのか?」
「可能性はな・・・無きにしも非ずってヤツだ」
「そうか。無いと良いな」
「微妙なトコだ」
煉紅郎達が談話していると豚幌亭の女将のドミナが一仕事終えたのか、濡れた手をエプロンで拭きながらやって来た。
「あんた達、聞いたよ。今日、騎士団の連中とやり合うんだって?応援しに行ってあげるから頑張んなよ!」
「んにゃ!?女将さんがなんでそのこと知ってるニャ?」
「市場に買出しに行ったら、今日、騎士団の御前試合があるってんで大騒ぎさ。それもそのはずだよねぇ。レンクロウ、お前さん勇者様だったんだねぇ」
「「「えっ!!」」」
「ドミナさん。その呼び名は好きじゃないんだ」
「そうかい?良いと思うけどねぇ~」
「女将さん!他にはどんな事聞きましたかニャ?」
「そうだねぇ、騎士団の連中と勇者様のレンクロウ様率いる冒険者達の御前試合三本勝負って聞いたけどねぇ」
「間違っちゃいないな」
「そうっすね。ですけど、師匠、どうして今日の事が知られたんっすかね?」
「大方、騎士団の連中が俺達を貶める為に触れ回ったんだろう」
「いや、俺がバル爺に頼んで広めて貰ったんだ」
「どうしてですニャ?」
「う~ん。イカサマ防止ってトコだな。大勢の群集の眼があればイカサマだ何だもそうは出来ないだろうしな」
「なるほどっす」
「なるほどニャ」
ジョジュとシャルルが感心している所で煉紅郎は席を立ち上がり、シャルル達に各々準備を整えて玄関に集合と伝えると一人ポンキーの居る厩舎へ立ち去っていった。
煉紅郎が厩舎に着いた時には既にポンキーの側で豚幌亭の主人であるカポファがせっせと寝藁を取り替えていた。煉紅郎は、ポンキーを優しく撫でたり、カポファとポンキーの出産時期や産後の話をして、暫くしてカポファと共に豚幌亭に戻った。
煉紅郎が豚幌亭に戻るとロビーには既に仕度を済ませた三人が居た。シャルルは、いつものお仕着せを。ラシュナートは、黒装束を。ジョジュは煉紅郎と初めて出会った時にしていた革張りの防具を身に着けていた。
「準備万端の様だな」
「ハイっす!」
「ハイニャ!」
「・・ああ」
「っかしまぁ、いつもと変わらないな」
「そりゃあそうっすよ師匠。オイラにはこの格好が一番しっくりくるんすから」
「シャルもですニャ!」
「ラストもか?」
「まぁな、・・・それにこれ以外に着ていくような物が無いだけだがな・・・」
ラシュナートが独りごちながら豚幌亭から出て行く煉紅郎達の後を追い外に出ると其処には、前日、書庫にやって来たローブの男が立っていた。
「皆様、お揃いの様ですね。では、会場までご案内いたします。参りましょう」
男の先導で煉紅郎達は御前試合の会場にやって来た。
試合会場は、城から少しはなれた所にある闘技場であった。この闘技場は、古い時から、王都に住む者の娯楽として剣闘奴隷や猛獣、冒険者のクランなど様々な戦いを観客に見せていたが、現国王ルアンス・ファルシムが血生臭いものを嫌った為、闘技場の使用は騎士団の訓練や祭りの会場などに制限された。
闘技場を試合会場に選んだのは、煉紅郎がバルボドッサに頼んだモノの一つであった。もう一つは、既に王都中に流布された今日の御前試合の情報であった。両方とも騎士団を牽制する意味を含んでいた。
煉紅郎達は、闘技場の控え室に男の案内でやって来た。
「こちらにて今しばらくお待ちください。試合で使用する武器を選んで置いてください。時間になりましたらお呼びに参ります」
「あぁ、解った」
「それでは失礼致します」
そう言うと男は控え室を後にした。
時を同じくして煉紅郎達の居る控え室と反対側に位置する控え室には、ダリオン以下三名の騎士達がやって来ていた。この四人以外の騎士団員も闘技場に着ていたが、控え室の大きさなどもあり控え室ではなく、観客席に移っていた。
両者の控え室では、作戦会議などをしているとドアを叩く音がした。ノックに応えるとドアが開きローブの男が立っていた。
「お待たせいたしました。準備が整いましたので会場までお連れしますので着いて来て下さい」
ローブの男の後を追うと、その先には、満員の観客と歓声があった。
特別に作られた王族貴族用の貴賓席には国王に王妃、エルミシリアとアリステリアの二人の王女、その側には執事やメイドが数人立っていた。王族席の両隣は貴族席になっており其処も貴族で席が埋まっていた。
王族席の下方、観客席を何席か潰した実況席の様な場所にバルボドッサとマクガインが居た。
観客席の方には、老若男女様々な人が席を埋めていた。よく見るとバローナ達や冒険者の姿や鍛冶屋のジャシュガン、商人のパウルマン達の姿もあった。騎士団側には騎士団員が殆どの席を埋めていた。
煉紅郎達が姿を現した事で起きた歓声が落ち着くのを待ってバルボドッサは拡声器の魔道具を使い、観客や煉紅郎達に向けて話し始めた。
「本日、コレより東軍・騎士団と西軍・勇者、レンクロウ・マダラメ率いる冒険者の御前試合を執り行う。両軍、国王様の御前での試合である。卑怯なマネはしないよう注意するように。国王様からの挨拶があります」
「国王のルアンス・ファルシムである。今日は両軍、持ちうる力を全てだし素晴らしい試合を見せてくれる事を期待している」
「国王様、ありがとう御座います。それでは一戦目を開始する。先鋒前へ!!」
バルボッサの号令で西軍からはジョジュが木製の丸盾と片手剣を手に、東軍からはルイード・アルティコネが木製の両手持ちの長剣を手に前に躍り出た。
「王国騎士団第四師団団員、ルイード・アルティコネ」
「冒険者のジョジュっす」
「ふん。冒険者風情がこの俺に敵うとでも思っているのか!?」
「オイラはやる事をするだけっす」
「両者、構え!」
ジョジュとルイードは武器を構え・・・
「始め!!」
バルボドッサの合図を切っ掛けにルイードはジョジュへと走り出した。
ジョジュは、ルイードの速攻にすかさず丸盾と片手剣を持ち変え、その勢いのままルイード目掛けて丸盾を円盤投げの投擲の如く投げ放った。
「なっ!」
ルイードはジョジュの奇襲に面食らいつつも迫る丸盾を長剣で捌きジョジュを居た所に視線を送るが其処にはジョジュの姿は無かった。
殺気に気付きルイードが顔を向けると既に片手剣を降り始めたジョジュが居た。が、ルイードもそれにすばやく反応し長剣でそれを防いだ。
ジョジュは攻撃が防がれるとすぐさまルイードから距離を取り、以前に煉紅郎から訓えられたとおりの短刀術の構えをとり、迫るルイードを迎え撃った。
観客席に居る者達から歓声や檄が飛ぶ中、何人かの騎士や冒険者は闘技場で戦う二人を静観している者の中にバローナ達も居た。
「面白いねぇ~アイツ。さすがレンクロウの弟子と言い張るだけはあるねぇ」
「そうなの?ねぉねぉバローちゃんバローちゃん。バンダ良く分かんないよ?」
「そうかい?じゃあ、ポチョットに聞いてご覧よ」
「ポチーちゃんに?」
「あぁ、ポチョット。アンタはあの子をどう見るね?」
「そうですなッ。自分も盾と片手武器を使いますが、あんな使い方は考えた事もありませんなッ」
「そうかい?」
「えぇ、盾は自分と仲間を護る為のモノと自分は考えていましたからなッ。それを投擲武器にするなんて考えは思いつきませんですなッ。何より、盾の投擲が一連の攻撃の流れに確りと入ってるのには感服いたしますなッ」
「そうだねぇ、でも、それを考えたのはきっとレンクロウだろうね」
「そうですなッ。あの御仁は大変聡明な方のようですからなッ!」
「そうなの?ポチーちゃんバローちゃん?」
「そうさ。ただの力押しの馬鹿じゃあ、ベアケンタウロスは倒せないよ。バンダ、ほら、見てご覧」
「うにゅ?」
バローナに促されてバンダが視線を送るとジョジュがルイードの剣をかわして転がりながら落ちていた丸盾を回収しそれを構え体勢を整えた。
「はぁはぁはぁ・・・」
「軽業師みたいにちょこまかと逃げ回りやがって!」
ルイードは自分の攻撃をヒラリヒラリとかわすジョジュに苦し紛れに皮肉を言うがそれもジョジュはそれも軽くかわした。ルイードはジョジュの態度に苛立ちを覚えながらもジョジュが丸盾を拾い上げた事に考えが巡った。
(コイツ、今迄の間、攻撃を殆どせずに逃げに徹していたのは盾を拾うためだったのか・・・じゃあ、これからは盾で防御しながら剣を使う。そうすれば隙も出来るはずだ)
しかし、ルイードの思惑は外れ、ジョジュは丸盾をルイードの長剣をいなす事に使う事に徹底している。防御する合間に何度か片手剣を振るうがどれも空を切った。
ルイードが剣を振るい、ジョジュが盾でいなしてジョジュが剣を振るい、ルイードが避ける。そんなやり取りが暫く続いていった。
(くそっ!コイツ、亀みたいに防御に徹するかと思ったらちょこちょこ攻撃したかと思ったら亀になりやがって、隙らしい隙がねぇ、これ以上長引くのは不味い・・・仕方ない、こんな事で使いたくなかったが仕方ない)
(ん~やばいっすねぇ。師匠に教わった盾を使った“いなし”でなんとかなってるっすけど・・・)
度重なるジョジュの防御体勢に嫌気がさしたのかルイードは、ジョジュから数歩程距離を開けると、長剣を顔の横に水平に構えた。ジョジュもそんなルイードを見て丸盾に身を隠して防御を固めた。
ルイードは静かにしかしすばやくジョジュの前まで移動すると到底、木製武器のぶつかり合う音とは思えない衝撃音がしたかと思った次の瞬間、ジョジュの身体は空に舞っていた。
そんなジョジュの姿かルイードのの目にも留まらぬ剣技の所為か闘技場は静まり返っていたが、観客の中にルイードの剣技に息を呑んでいた。
ジョジュは空中で弧を描きながら地面に落ち勢いそのままに二転三転と転がった所で止まった。ルイードは追撃の姿勢を取ったその時、会場中にバルボドッサの声が響いた。
「それまで!勝者・・・東軍、ルイード!!」
バルボドッサの勝ち名乗りで会場が歓声に沸く。しかし、そんな中、冷静に試合会場を見下ろす冒険者が数人居た。
「ありゃー。ジョーちゃん負けちゃった。バローちゃん、負けちゃったよ。大丈夫なの?」
「ふむ・・・大丈夫なんじゃないかい?それにしても、あの騎士・・・小癪な剣術を覚えてやがるねぇ」
「何が?さっきのバチバチーン!ってやつ?バンダよくわかんない」
「だろうねぇ、アンタはそういうのには全く興味ないからねぇ、ミョウジン。アンタはどう見る?」
「・・・アウラ流剣術の三行ですね」
「アウラ流?みくだり?なにそれ?ミョーちゃん」
「アウラ流剣術は、何百年の昔、剣聖アウラの手によって作り出された剣術で三行は技の一つですよ」
「そーなんだーじゃあジョーちゃんが負けるのは仕方ないねぇ」
「そう思うかい?」
「ちがうの?」
「アウラ流剣術は、小柄な女性剣士だったアウラ本人が屈強な亜人の戦士や凶暴なモンスターにサシで戦い勝つ事を目的に作られたものなのさ。っつう事はだ・・・」
「技を使ったっていう事はあの剣士ちゃんはジョーちゃんに敵わないって思ったって事?でも、ジョーちゃん負けちゃったよ」
「そうかい?ほら、戦った二人を見てご覧よ。勝った剣士の方は、顔中に脂汗を滲ませて木剣を杖代わりにするくらい憔悴してる。かたや負けたジョジュの奴は、平気そうだよ」
試合の終わった二人はバローナの言うとおり両極端であった。ルイードは、木剣を杖代わりに使っていたが倒れ掛かった所を客席から降りてきた同僚の騎士達に支えられてダリオン達のもとまで移動している。ジョジュはというと少し倒れていたが首をコキコキ鳴らすと「ふぅ」っと一呼吸してスタスタと転がっている丸盾と片手剣を拾い足早に煉紅郎達のもとへ移動した。
この二人の状態を見て国王のルアンスは首を傾げていた。
「ふむ・・・」
「あなた。どうかなさいましたか?」
「うん?どうも私には解らない事があってな・・・マリオン、いるのだろう」
「・・・はい」
国王の言葉に貴賓席の奥に居たデリューがおずおずと前に出て来た。
マリオンは、騎士団の騎士でありながら王女と共に煉紅郎の下で訓練をしていた。そんな彼女が今回の一件でどちらにも着く事が出来ず悩んでいた所をバルボドッサに声を掛けられ国王以下王族の警護にあたる事になったのであった。
「マリオン、聞きたいことがあるのだが」
「私でお答えできる事でありましたら何なりと」
「先の戦い、両者見事であった。しかし、なぜ勝者は息も絶え絶えで敗者が普通にしているのだ?」
「それは・・・」
マリオン・デリューは言葉に詰まった。少しの間であったが、煉紅郎と共に過ごした期間である程度、煉紅郎の考えがわかる様になっていた。故にデリューは分かってしまったのだ煉紅郎が使用としている事の断片が、しかし、これを国王の耳に入れて良いものかそれが問題であった。そんな事をすれば自分は勇者側だと言っているようなものである。
「それは、なんだ?」
「それは・・・・・・」
長い間があり、ゆっくりとデリューは自分の考えを国王達に話し出した。
騎士団長のダリオンは、初戦の結果に満足し自分の下へ戻って来たルイードの肩を掴み「良くやった」と言って待合室で休んでいる様にさせた。
ルイードに肩を貸している騎士団員もどこか誇らしげに奥に入って行くが、当の本人は何か信じられないモノでも見たような表情をしていた。
ジョジュが煉紅郎達の下へ戻ると気が抜けたのか、足が縺れて前のめりに倒れるが、煉紅郎がサッと抱きとめる。
「大丈夫か?」
「はいっす・・・っつう!」
「無理するな。最後のヤツで両手をやられたみたいだな」
「そんな状態で良く平気な顔をして戻れるな?」
「師匠にみっともない所は見せられないっすから」
「そんな事より早く治療しないとニャ!」
「あぁ、ジョジュ、其処に座れ」
「えっ!?師匠がしてくれるんすか?」
「切り傷や擦り傷ならまだしも筋肉と骨は如何し様にもない。だから治療の専門家に来てもらった」
「えっ?」
通路の奥から一人の自分物がやってきた。
「そういえばバローちゃん。アルーちゃんはどこ?」
「ん?アルドラならレンクロウの所だよ」
「ふえ、なんで?なんで?」
「怪我人が出た時に治療して欲しいって言って来たから一回だけ一緒に仕事するのを条件に貸した」
「貸したって物みたいに・・・」
「冗談だって冗談。ミョウジン、そんな怖い顔するんじゃないよ。まぁー似た様なもんだけどねぇ」
「そうですが・・・」
「ねぇねぇバンダも行って良い!?」
「「「駄目」」」
「にゃー皆してひどいよー」
「あんたが行っても邪魔になるだけだよ」
「ふぐぅー」
観客席でバンダがバローナ達に身柄を押さえられている頃、ジョジュはやって来たアルドラの魔法によって治療されていた。
先鋒ジョジュ対ルイード・アルティコネ戦の結果はルイード・アルティコネの勝利で終わった。
次回はもう少し早く投稿できるよう頑張ります。




