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≠勇者  作者: 単参院 涼
22/24

#21 作戦会議


 太陽が西に落ち始め空が赤と青の混ざった色をして子供達を家に誘い出した頃、城内にある書庫の一階にに煉紅郎を筆頭にシャルル、ラシュナート、ジョジュ、アリステリア、デリュー、エルミシリア、ミリアの八人が各々自由な体勢で話し合いをしている。

 その話の内容は、明日の御前試合の出場者についてであった。


「あたしが出るわ!!」

「あぶないわ。アリス」

「そうです姫様」

「いいえ、出るわ!話が大きくなったけど元々はあたしの所為なんだからあたしが出るのが道理よ」

「おおぉ」


 アリステリアの言葉に関心した様に声を上げる煉紅郎に当のアリステリアは、キッ!っと睨んだ。


「何よ!何か文句でもあるの!?」

「う~ん。アリスが言ってる事は正しいし立派な心がけだと思うが・・・」

「思うが、何よ」

「出場者はもう決めてある」

「「「「ええっ!」」」」


 その場に居た者達から驚きの声が上がる。しかし、その声の主達の表情は様々であった。

一人は、自分を選ぶであろう自身に溢れ。一人は、自分の立場も考え苦い顔をし。一人は、覚悟を決めたのか決意の表情を煉紅郎に見せていた。など、一人一人が様々な感情を表に出しながら煉紅郎の次の言葉を待っていた。


「先鋒ジョジュ」

「はいっす!」

「中堅ラスト」

「・・・分かった」

「大将は・・・シャルルお前だ」

「はいニャ!頑張りますニャ!」


 煉紅郎に名を呼ばれた者は一応にある種の覚悟が決まった表情をし、煉紅郎の声に応えた。しかし、不満の声が上がった。


「なんであたしが出ないのよ!」

「ん?不満か?」

「ええぇ、その通り大不満よ!」

「ちょっとアリス。レンクロウ様にそんな・・・」

「お姉ちゃんは黙ってて、レンクロウ。さっきも言ったけど、コレはあたしの問題なの!あたしが決着を着けるの!」

「その心意気は立派だが、これはもう決めた事だ。アリス、君を選ばなかったのには二つ理由がある」

「理由?どんな理由よ!」


 煉紅郎は、アリステリアをジッと見つめ彼女を選ばなかった理由わけを話し始めた。


「・・・一つは、言い訳を作らせ無い為だ」

「言い訳?」

「どういうことっすか?」

「あいつ等騎士団は、国に仕えてる。そんな奴らがたとえ訓練試合であっても一国の姫を相手に本気を出せる訳も無い。それに怪我でもさせたら大変だ。・・・なんて事を負けた時の言い訳にするに違いない」

「そんな・・・」

「王国騎士団はそんな言い訳等するものか!?」


 騎士団の師団長であるデリューは、自分の事を非難されているように思い、煉紅郎に非難の声を上げジッと睨んだ。


「いやするよ。さっき騎士団長とのやり取りで何と無くだが分かる。あの男は、自分の目的の達成の為だったら大抵の事はやる奴だよ」

「どうして・・・」

「分かるかって?ああいう手合いの奴を見てきたからさ。元居たの世界で、何年もね・・・」

「・・・・・・」


 煉紅郎は、苦々しい過去を思い出し、顔を背け苦虫を噛んだような表情で自分の中に生まれた過去の苛立ちを消すのに専念した。

 そんな煉紅郎の態度を見てデリューは言い返す言葉が無かった。煉紅郎自身、若いとは言っても血気盛んな少年ではなく、冷静な思考を持つ青年なのだ。それまでの人生が有り、それ相応の挫折や苦難があったのだろう。デリューは、自分の軽率な発言をした事に居た堪れなくなって下を向いてしまった。

 そんな空気に耐えられ鳴くなったのか煉紅郎はデリューに謝りながらも話を続けた。


「少し脱線したな。話を戻そう。まぁ、相手に言い訳を作らせたくないってのが理由の一つだ。選んだ三人がベストなんだ。それと・・・」

「それと?」

「アリス・・・お前は、この三人より弱い」

「そんな!?あたしが弱いって言うの!」

「あぁ、弱い。体力はもとより、技術面でもお前は三人に劣る。それが、二つ目の理由だ」

「そんな・・・」

「レンクロウ様。そんなにもアリスは弱いのでしょうか?」

「体力は、生まれや育った環境もあるが、体捌きや歩法の覚えは誰よりも悪い。仮にアリスが誰よりも強かったとしても、さっき言った理由で選びはしなかった」

「・・・そんな・・・」

「アリス。お前は、今回の事は自分の不手際で起きた事だと思ってないか?」

「えっ?違うの?」

「あぁ、違う。俺は騎士団の連中に良くは思われてはいない、ちょっとした事でも問題視するつもりだったんだろう。今回は、偶々アリスとシャルルの事が持ち上がったが、怪我じゃなくて、体調を少し崩しても奴らは問題視しただろう。だから、気にするな」


 今迄は切羽詰まった表情をしてたアリステリアだったが、煉紅郎の言葉に少しは救われたのだろう、大分表情を落ち着かせていた。

 側にいたデリューやエルミシリアもそんなアリステリアの表情を見てホッとした様であった。


「さて、どうすかな・・・」

「師匠、如何するって何をっすか?」

「んー。有り体で言えば戦法かな?」

「戦法ニャ?・・・」

「あぁ、相手がどんな奴が相手でも良いように考えとかないとな」

「さすが師匠っす!」

「さすがご主人様だニャ!」

「お前らなぁ・・・」


 煉紅郎の言葉を遮るように書庫の扉が開かれる。

 その場の全員の視線が扉の方に向くと其処にはローブを着た男が立っていた。


「誰だ?」

「勇者様。わたくし、バルボドッサ様の使いで来た者で御座います。実は・・・騎士団長のダリオン様から一つ申し出が御座いまして、バルボドッサ様から聞いてくるように申し付けられまして・・・」

「申し出っすか?」

「何よ!」

「はい、ダリオン様からは、明日の出場者の装備は自由にしたいと申しておりまして、ダリオン様の言い分としては、徒手空拳ではそちらに分が有り過ぎる為、公平を期す為にそうしたいと・・・バルボッサ様は、身に着ける物は自由にし、武器は木製の物を我々が用意する事を勇者様方が了承すれば、っと申していまして、わたくしがご意見を聞きに参った所存で御座います。それで勇者様・・・」

「解った。別に構わない」

「了解しました。それではわたくしは・・・」

「それと、ちょっと」

「はい?」


 煉紅郎は男に近寄り、少し耳打ちすると離れた。


「頼むぞ」

「了解しました。バルボドッサ様にお伝えしてご希望が叶う様に致します」

「あぁ・・・」


 男は煉紅郎達に一度礼をすると出て行った。

 シャルルやジョジュは煉紅郎の側に寄って先程の会話を説明してもらおうとしたが、煉紅郎は「明日になったらわかる」っと言ってシャルルの頭を撫で、アリス達の輪に戻り明日の作戦会議をし始めた。


 時間は少し遡り、場所は騎士団詰め所

 詰め所の中は、騎士でいっぱいになり、騎士団長ダリオンの前に騎士達はすし詰め状態で並んでいた。

 ダリオンは、明日の試合の選手の選考に難儀していた。それもその筈、騎士団には数多くの騎士が所属している。その為、ダリオン自身も誰を選出するのが正解か解らなくなっていた。

 ただ強い者を揃えようとすれば師団長を揃えれば良いのだが、第三師団師団長であるマリオン・デリューは勇者側の人間であり、第一師団師団長のバルザム・リードとその弟の第四師団師団長のデズモンド・リードの二人は、兄のバルザムが辞退した為、弟のデズモンドも兄に追随する様に辞退した。

 それに第三師団の騎士達は、勇者達の訓練を多く目にし、接してきた為か副団長のガオ・ジャスミン以下第三師団全員が辞退を表明していた。

 その他にも貴族の護衛などの任務で数十名の騎士の辞退者が出た。

 それでも騎士団に所属している者は二百人をゆうに超えているが、詰め所の何処にも副団長のマクガインの姿が見当たらなかった。その事に気がついたグルールがざわつく


「ダリオン騎士団長!マクガイン副団長は何処でありますか?」

「マクガインの奴は今、バルボドッサの所に居る」

「・・・バルボドッサ様のところですか・・・どうして?」

「バルボドッサだけでは、明日の御前試合で偽勇者に有利に動くかもしれんからな。勝負を公平にする為に行かせたんだ」

「そうでありましたか!さすがダリオン騎士団長であります!」

「騎士団長!それで誰が明日の御前試合に出るのでしょうか?」

「・・・うむ。グルール」

「はい!」

「お前には大将を頼む」

「はい!騎士団長の頼みとあらば不肖の身でありますが騎士団長の期待に応えましょう!」

「良し!」


 良しとは言ったもののダリオンがグルールを選んだのには訳がある。それは・・・師団長が彼しか居なかったからである。単純にして明快な答えである。

しかし、問題はその後の残り二人の選出であった。

公平性を出すためダリオンは副師団長から一人、団員から一人選出する事にし、団員からは、ココ最近頭角を現している第四師団の団員ルイード・アルティコネが選ばれた。

副師団長は、第三師団の副師団長ガオ・ジャスミンを除く三人の中から選ぶことになったが、実力は拮抗し、団員達は「自分の所の副師団長が一番だ」と言って対立、当の本人達も自分が出るべきだと頑として譲らず、結局はダリオンが急遽作らせたくじ引きで決める事になった。


「いいか?お前達、このくじで明日の試合の出場者を決める。出場者が決まった後にごねる事は許さんからな」

「「「はい!」」」

「じゃあ、好きな紐を持て」


 ダリオンが作らせたくじは、三本の白い紐の先に一本だけ赤い印が付けられていて、それを選んだものが出場者になれる。そういう簡単な作りのものだった。

 が、それを選ぶのにも揉めに揉めた。

 一番早く紐を取ろうとすれば邪魔をして、取ったかと思えば、それは自分が取ろうとした奴だ!とか、先に取らないのが悪い!だの。罵り合いを始めたが、ダリオンの一喝によって三人は諌められ各々、一本ずつ紐を持ち、一斉に紐を引き剥くと第一師団副師団長トルコ・マイヤースの持つ紐に赤い印があった。


「最後の一人は、トルコか」

「はい。選ばれた限りは全力を出します」

「うん。次に順番だが・・・先鋒は、ルイード・アルティコネ。中堅は、トルコ・マイヤース。大将は、グルール・ビアンシム。以上だ」

「「「はい!」」」

「うむ。・・・もうそろそろか・・・」

「ダリオン騎士団長。何がそろそろなのでしょうか?」

「ん?バルボドッサの所に行く前にマクガインの奴に言伝を頼んでおいたんだが・・・」

「しつれい致します。バルボドッサ様から使いで参りました」


 声がする方に詰め所の中の騎士団員全員の視線が向くと其処にはローブを羽織った男が立っていた。

 男は、ツツッと騎士団員達をすり抜けダリオンの前までやって来た。


「丁度来たか。で、なんだ?」

「はい。ダリオン様。ダリオン様のお申し出、勇者様方から了承を得ました事をお伝えします」

「そうかそうか」

「身に着ける物は各々、自由に御準備ください。武器に関しましては木製の物を我々が準備しておきますので明日お受け取りください」

「わかった。下がって良いぞ」

「・・・はい。それと・・・」

「ん?」

「明日の御前試合の会場は現在思案している所で御座います。明朝、会場へお連れする為、また来ます。それでは、失礼致しました」


 そう告げるとそそくさとローブの男は詰め所を去っていった。

 男が去るとしたり顔をしたダリオンにグルール達が詰め寄った。


「騎士団長!少しよろしいですか?」

「ん?なんだ?」

「さっきの男の話はどう言う事なのでしょうか?」

「それはだな・・・素手での格闘ではあちらに分が有りすぎる。故に騎士団がいつも使っている装備を使った戦いにするようにとバルボドッサに進言するようにマクガインに言っておいたんだが、どうやら上手くいったみたいだな。ルイード、トルコ、グルール」

「「「はい!」」」

「明日の試合は、鎧を着て来い」

「ダリオン騎士団長、了解しました!」

「コレにて会議は終了!各自持ち場に戻れ・・・まぁ、少し休んでからで良いだろう。解ったか!?」

「「「「はっ!」」」」


 話が終わるとグルール達三人は、同胞達からからかい混じりに明日の試合に向けて叱咤激励されていた。

 ダリオンは、部下達の喧騒を椅子の肘掛に頬杖をつきながら眺めていた。


(いよいよ明日だ。明日になればワシの思い描いた通りに事が進む、なに勇者の連れなど、どうせ冒険者崩れの奴らよ。ワシら王国騎士団に掛かれば子供の手を捻るより簡単なことだ。しかし、あのメイドは使えるな。まぁ、明日には始末せねばならんがな)



 煉紅郎達は日が暮れて夜の帳が王都を覆う頃、王女達に別れを告げ豚幌亭に帰る途中であった。

 シャルルは出産を控えたポンキーを心配しラシュナートを連れて一足先に帰ってしまい、現在は煉紅郎とジョジュの二人が肩を並べて歩いていた。しかし、ジョジュの表情は曇っていた。

 そんなジョジュの顔を見て煉紅郎が口を開いた。


「すまないな。変な事に巻き込んで・・・」

「えっ、そんな事無いっすよ。師匠!オイラ、自分を選んで貰えて嬉しかったっす!」

「・・・まぁ、裏を返せばそれしか選択肢が無かったんだが・・・」

「それでもっす!」

「そうか、じゃあなんで暗い顔をしてるんだ?」


 煉紅郎の言葉でジョジュは肩を落とし黙っていたが、暫くしてポツリポツリと話し始めた。


「・・・選ばれたのは嬉しかったっす。それは本当っす。・・・でもオイラ、自信が無いんっす。・・・師匠が教えてくれた作戦、オイラ上手く出来るか自信が無いんっす・・・」

「『思考』というものを四つに割ると 一つが『知恵』 あとの三つは・・・『臆病』なんだそうだ」

「えっ?」

「昔、俺の居た世界の戯曲作家が書いた作品の中の台詞なんだ。面白いだろ?人は皆、臆病でそれを少しばかりの知恵で補ってる。俺はそう理解している。なぁ、ジョジュ?」

「はいっす」

「今話したとおり、人は・・・いや、生き物というものは臆病なものだ。それを知恵で補い、勇気を作り出してそれをもって臆病な心を制して前に進む。ジョジュ、お前だけじゃない、俺やラスト、シャルルにポンキーや姫様達、それに騎士団の連中だって変わりはしない。心の奥底は皆同じなんだ。だから、気負う事は無いさ、明日の試合は出来る限り俺の作戦をやれば良い駄目なら駄目で考えるさ・・・」

「師匠!オイラは大丈夫っす!師匠の言葉で目が覚めたっす!明日はオイラ、師匠の作戦通りにがんばるっすよ!!」

「・・・そうか。頼もしいな」


 さっきまで曇った表情をしたのが嘘の様にジョジュは元気いっぱいに煉紅郎の言葉に答え。それを聞いた煉紅郎はそんなジョジュの意気込む姿を見て、元居た世界の学生達を思い出し、少し物悲しい気持ちになりつつも、微笑ましく自分の目の前で意気込むこの世界での最初の生徒を見ていた。


 夜の帳は世界を覆い尽くし、その世界に住まう者は闇を恐れ家路を急ぐ、心休まる家族と共に暖かな火を囲み、明るい日がくる事を願い両の眼を塞ぐ・・・



大分、お待たせいたしました。

今回は勇者・騎士団両陣営の作戦会議で御座いました。

次は御前試合になりますよ(たぶん)


それではまた次回

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