#23 御前試合・中堅戦
闘技場は観客席の端、騎士団とは反対側、席には座らずに先鋒戦を立ってみていた人影が二つ。その影は、王国騎士団第一師団団長のバルザム・リードと第四師団団長のデズモンド・リードの兄弟であった。
「デズモンド。先の戦いお前ならどう見る?」
「うーん、そうですね。流石と選ばれただけはあるかと・・・」
「本当にそう思うか?」
「はい」
「あの騎士、ルイードは、お前の部下だったな」
「はい兄上」
「明日から鍛えなおせ」
「何故です兄上!」
「スタミナが無さ過ぎる。見てみろ、あの様を・・・勝鬨を上げた者が敗者の様に戦いの場を去り、一敗地に塗れたかと思われた者は何事も無かったかのように友の元に戻り治療を受けている。コレを見てもまだお前は何も思わないのか?」
「・・・・・・」
「ルイードは強くなる。それだけの可能性を秘めている。デズモンド、お前がそれを積むなよ」
「はい。兄上・・・」
デズモンドは何も言い返せず兄であるバルザムの言葉を心の中で復唱しながら静かに腹をたてた。しかしそれは、兄ではなく兄の様な慧眼が無い自分にであった。
彼の中で兄は、尊敬と目標とする存在であり、それは今も変わらない。
「おい、デズモンド」
デズモンドが一人思案をめぐらせているとバルザムの声で現実に戻った。
「すいません兄上。何でしょう?」
「見ろ。団長が試合の段取りを止めたぞ」
ダリオンが中堅戦の進行を止めていた。
「何じゃ?ダリオン騎士団長」
「いや、次の中堅戦。一つ提案があるのですがよろしいかな?」
「提案?してその内容は?」
「次の中堅戦。魔法の使用を許可しませんか!?」
「魔法の許可!?」
「そう!先の先鋒戦、我等騎士団の勝利となり、次の一戦は勇者達には踏ん張り所。ならば次の試合だけでも魔法の使用を許可してはいただけないでしょうか!?」
「うむ・・・マダラメ。お主はどうじゃ?」
「ん?俺は別に構わないが・・・」
煉紅郎はラシュナートの方に視線を向けるとラシュナートは何も言わず頷きを煉紅郎に返した。
「あぁ、出る奴からも許可が出た。こっちはそれで構わない」
「そうか・・・では、ダリオン騎士団長の意見を許可し、次の中堅戦のみ魔法の使用を許可する!結界を張るので暫し試合を中断する」
バルボドッサの指示でローブを着た四人の男女が自分の身の丈を超える大きさの杖を持って試合会場の四方に立つと杖の飾りを試合会場に向けて立てると試合会場に薄青色の結界を作り出した。
結界が出来上がった事を確認するとバルボドッサは試合の進行を再開した。
「対魔法結界が完成した為、中堅戦を再開する。中堅前へ!」
バルボドッサの号令で西軍からはラシュナートが黒塗りの木製の小太刀を二振りを手に、東軍からはトルコ・マイヤースが木製の長弓を手に鏃が布玉に変えられた矢が空穂を背と腰に着け緩やかに前に出た。
「王国騎士団第一師団の副団長を務めるトルコ・マイヤースだ。以後お見知りおきを」
「ラシュナート。俺の事は覚えなくても良い」
「ラシュナート・・・何処かで聞いたような・・・」
「・・・・・・」
「両者、構え!」
ふと考えに耽っていたトルコであったがバルボドッサの声で現実に戻り、目の前で小太刀を構える女に標準を合わせ、一本の矢を空穂から引き抜き矢柄を弦に番えた。
「始め!」
バルボドッサの合図を切っ掛けにトルコは矢を放ったが、旋回しながら前進するラシュナートは軽く弾いた。
ラシュナートの得物が他のもと違って黒いのはただの偶然であった。
闘技場で貸し出しされる得物は基本、過去に闘技場や模擬試合で使われた物を御前試合の準備班がかき集めた物であった。事前に使いたい物を両陣営から聞いていた為、サイズや重量など様々な拵えの物を集められ、闘技場の中にある武器庫の中で血を吸い黒ずんだ物も例に漏れず集められた。
人は好きな物を取って良いと言われた時、大抵は綺麗な物を選ぶものである。しかし、ラシュナートは運ばれた得物の中で木肌を黒ずんだ血で隠した物を二つ選んだ。全身黒尽くめの衣を纏っているラシュナートの姿に黒い小太刀はトルコや外野からは一体化している様に見えていた。
次々と迫り来る矢をかわし時には弾きながらラシュナートはトルコに迫った。
その様子を客席で見ていた騎士団員はざわつき始めた。
「おい、大丈夫なのか!?」
「何がだよ?」
「何がって、トルコ第一副団長の矢が一発も当たってないじゃないか。俺が知ってるトルコ第一副団長の矢はは絶対必中だった筈だ!」
「副団長が魔法を使えば絶対必中なんだ。外すっていう事は・・・」
「まだトルコ第一副団長は魔法を使ってない?」
「そういうことだ」
騎士団員の言葉は真であり、確かにトルコの魔法の一つは、発動するとかわす事は困難になる魔法である。
突然、観客席で歓声が上がった。矢を捌ききれなくなったラシュナートがトルコの矢を左肩に受けたところだった。
トルコの矢は、模擬戦用に鏃を布玉に変えられた物ではあったが、布玉の中に粘土の団子が入っており、例え矢が刺さる事は無くても当たれば鈍痛がはしる代物だった。
「・・・ふぅ、やっと当たったか・・・」
(しかし、アレだけ放ってたった一矢しか当たらないとは、使うしかないか。そよ風の小道発動)
弓に矢を番え、引き放つと矢は、ラシュナートの顔目掛けて飛んでいった。が、瞬時にラシュナートはそれに対応し小太刀で払い落としトルコに視線を向けると既にトルコは次の矢を番えていた。
ラシュナートはそんなトルコからあえて距離を取るように後退した。
(・・・多少痛むがそれだけだ。全て捌けば良いだけ・・・それにしてもコイツ何か考えてるな)
ラシュナートがトルコから十分に距離を取って、態勢を整えようかと思った瞬間。眼前にトルコの放った矢が迫ってきていた。瞬時に右に転がって回避したが、矢はラシュナートに向かって緩やかなカーブを描いて追尾するように軌道を曲げた。
(・・・ん!?)
「んにゃ!矢が曲がったニャ!ご主人様」
「うん。曲がるような作りなのか・・・いや、あんな軌道は描かない。っとなると・・・」
「魔法ですね・・・」
「その通りってアルドラか、ジョジュは?」
「もう大丈夫です。ですが、暫くは安静にしてもらう為にそこで寝てもらっています・・・」
煉紅郎が後ろに目を向けるとジョジュが壁際で横になってこちらを見ていた。煉紅郎が声を掛けると「オイラは大丈夫っす」っとあっけらかんとした返事を返した。
「ご主人様!ラシュさんが!」
シャルルの言葉で視線を戻すと左腕をダラリと垂らし肩で息をしていた。
「・・・ふむ。厄介な魔法だな」
「そんなになんですかニャ!?」
「あぁ、多分、あの男が使った魔法は矢の軌道を操る系統のものだ。俺が後ろを向いてる間も何回か矢が急に曲がったろ?」
「そうですニャ!」
「やっぱりな。そんなのが出来るのは・・・」
「矢その物を操る異種属性か矢の軌道を風で操る風属性・・・」
「後者だろうな」
「私もそう思います・・・」
「ニャ!それなら早くラシュさんに教えるニャ!ラシもがっ!」
煉紅郎は、ラシュナートに助言し様としたシャルルの口を手で塞ぐとシャルルの身体を抱き上げ地面に座り込むとゆっくりと諭すようにシャルルに語りかけた。
「シャルル。それはラストが聞いてきたら応えよう。俺は、ラストを信頼してこの場に立たせたんだ。助言なんかしたら俺がラストを信頼して無い事になる。アイツはきっと自分で気付くだろうし打開策も考え付くさ」
「そうですかニャ~?」
「そうだ。だから、お前はココで応援してろ。分かったな?」
「はいニャ!?シャル、ココで応援しますニャ!?」
シャルルは元気に応えると煉紅郎の胡坐の上にちょこんと座り、ギュッと握り締めた拳を膝の上に乗せジッとラシュナートの動向に眼を向けた。
(・・・邪魔くさい魔法だ。矢の勢いが無くなるまで逃げても矢を払い落としても二の矢が飛んでくる。・・・一人かくれんぼ)
トルコの矢がラシュナート目掛けて飛ぶが、矢は空を飛び勢いが無くなりヘナヘナと地面に落ちた。
「なに!」
何処からとも無くそんな声が聞こえざわつきとなっていった。観客やトルコの視線は地面にズブズブと沈んでゆくラシュナートに釘付けになっていた。しかし、正確には地面ではなく、足元の影に沈んでいるのだ。
『一人かくれんぼ』は、影に侵入し移動する事が出来る魔法だ。煉紅郎を襲った時もこの魔法を使い背後まで迫ったのだ。しかし、それだけの能力、影に潜み影を這いずり奇襲する為の手段。別の影にはワープする様には移動できず、移動するには少しでも影同士が接触する事が条件である。
それを見せる事は、さぁ攻撃してくださいと言っているようなものである。しかし、ココでラシュナートは煉紅郎にも教えていない魔法を使う。
ラシュナートの這入った後の影は真ん丸な形をしていた。不思議な事に影になるような物は何も無いのに・・・トルコが影に向かって弓矢をを向けると丸影はウネウネと動き出し四つの犬の影にわかれて四方に散った。
「なっ!これがあの女の魔法。影の魔法か・・・」
(どれかに入ってる影があるのか?それとも誘導が目的で本人は別の何処かに隠れて居る?いや、それは無い魔法結界の外に出るのは不可能のはずだ)
四方に散った犬影は徐々にトルコとの間合いを詰めるが、近づくものから次々とトルコの矢が地面を打ち土を抉り土ぼこりを上げるが、影はそんな事は無かったかの様にスイスイと地面を泳ぎ、トルコにまとわりつこうと足下に近づくが危険を察知したのかトルコは影が足に触れる前に其処から飛び退き影から距離を取ったが、一瞬ではあるが自分の影に犬の影が触れていた事にトルコは気がつかなかった。
グルグルとトルコの周りを旋回しながら距離を詰め始めていた。
「くっ、一つ一つじゃ意味が無いのか?仕方ない・・・」
そう言うとトルコは矢を空穂に戻し弓を地面に突き刺すと両手を左右に大きく広げ一言。
「台風の目・・・」
すると、トルコの両手を広げた直径の幅で風が巻き起こり、風の壁を作り出し砂や砂利、地面に落ちた矢を巻き上げトルコの姿を隠した。犬影は突風の様な風の壁に地面ごと掻き消された。
「なんニャ!!凄い風ニャ!」
「あんな魔法も使えるのか・・・まぁ、次で終わりだろう」
「うニャ!?」
そんな煉紅郎の言葉にシャルルの頭に?が浮かべているとトルコを中心に巻き起こった風が徐々に収まり始め、トルコの姿が見え始める。
ダリオン達からはトルコの背中が見えたが不思議なモノを見つけた。それは、黒い点であった。その黒点は徐々に大きくなり其処からラシュナートが姿を現した。
「トルコ!!」
ダリオンの声が響き渡り、トルコがその声に振り向くと小太刀を振りを下ろすラシュナートの姿があった。
ラシュナートの振り下ろす小太刀に反応する事すら出来ずにトルコは、首に小太刀を受ける次の瞬間、大量の矢が二人に降り注ぎ、矢の雨が止むと倒れている二人の姿が、その二人に巻き上げられた小石や砂がパラパラと落ちた。
「それまで!両者戦闘不能!この戦いは引き分けとする!!」
バルボドッサの宣言に観客席から歓声が沸き、試合会場に張られた結界が消えローブの男女は杖を持って奥に消えていった。
戦っていた二人はフラフラと立ち上がった。トルコは首をさすり、ラシュナートは矢の当たった肩をさすりながら二人はお互いを見やった。
「今回は引き分けか・・・」
「いや、本物の矢を使っていたらあんたの勝ちだ。まだ打たれた所が痛い」
「そういう事にしておこう。それではまたな・・・」
そう言うとトルコは弓を引き抜き、近くに落ちていた矢を拾うと自分の陣営に戻っていった。
ラシュナートは、そんなトルコの背中を暫し眺めると頭を掻きながら煉紅郎達のもとへ戻った。
「ラシュさーん!ニャー!!」
ラシュナートが自分達に近づいて来た矢先、シャルルが煉紅郎の膝の上から飛び出し、ラシュナートの胸に飛び込んだ。
「アレ。オイラの時は無かったっす・・・」
「軽口が叩けるならもう大丈夫だな」
「そんな~師匠、そんな事言わないでくださいっすよ~」
煉紅郎とジョジュの会話を聞いていたアルドラが「仲が良いのですね・・・」と話しかけ、それに調子に乗ったジョジュが答え、煉紅郎が冷静に叱る。なんてやりとりをしているとシャルルを小脇に抱えたラシュナートがやって来た。煉紅郎の前までやって来るとポイっとシャルルを抛り渡して来た。
「烏、やる事はやったぞ」
「うん。おつかれ、身体の方は大丈夫か?」
「最後のがまだ残ってるかな」
「それじゃあ・・・」
「こちらへ・・・」
アルドラが煉紅郎の言葉を食い気味にラシュナートをジョジュの隣に座らせ治癒魔法を掛け始めた。
試合会場では、下男達が会場に散らばった矢を回収し、先の戦闘で所々窪んだ地面を均していた。矢の量はそれ程でもないのだが、トルコの魔法によって地面が抉れてしまいその抉れた地面のを埋める事に時間が掛かっていたが、暫くすると均し終わったのか試合会場から下男達が去っていった。
煉紅郎は自分の膝の上に乗っているシャルルをゆっくりと下ろし真剣な視線を向け口を開いた。
「・・・シャルル」
「何ですかニャ?ご主人様」
「今回の件。事の発端は別としてココまで大事にしたのは俺の責任だ。すまない・・・だが、相手はお前を目の敵にしている奴だ。シャルル、深い事は考えるな。勝って来い!」
「ハイですニャ!!」
元気に煉紅郎に答えるシャルルだったが、元気に答えたかと思ったらモジモジし始め煉紅郎にチラチラと目配せをしてきた。
「ん?どうした?」
「あのーご主人様。お願いがありますのニャ」
「お願い?」
「はいニャ、勝った御褒美にギュってして欲しいんですニャ~」
シャルルは、尻尾をシュルンっと自分の身体に巻きつけ、両手で顔を隠してイヤンイヤンと身体を左右に振っていた。
そんな彼女を愛おしく思いながら彼女の頭を撫でながら彼女の無事を願った。この愛らしい少女が無事に自分の所へ戻ってくれますように・・・っと。
太陽は丁度、競技場の真上に昇り、昼の時と大将戦開始の時を告げていた。
時間が掛かってしまいました。申し訳御座いません。
魔法を使った戦いがうまく書けなくて試行錯誤してました。
次は今回よりは早く上げれると思います。




