#18 弟子入り志願者
煉紅郎がベアケンタウロスとの死闘を繰り広げた日から数日が経った。
冒険者ギルド:マリンシュカ支部では、久しぶりに大きな賑わいをみせていた。
ココ最近、王都周辺では大型の猛獣やモンスターの出現が無く、大型を狙う冒険者の多くは王都を出て地方の都市や街へ行ってしまった。
それが、突然の大型猛獣ベアケンタウロスの出現。そして、そのベアケンタウロスを討伐したのが新人の冒険者というのだから、ギルドの内外問わず大騒ぎになった。
当初、ギルドにいた全員がベアケンタウロスを討伐したのは、バローナ達がやったのだろうと思っていたが、話を聞くと新人が一人でやったというのだ。真偽を図るべく魔道具『ギャダンの水晶球』を使った。
『ギャダンの水晶球』とは、水晶球を見ることによって目を通してその者が猛獣やモンスターを倒した瞬間を見ることが出来る代物である。通常ギルドでは、モンスターや猛獣の討伐の依頼達成と申し出る者が虚偽をしていないか審議する為に使っている。
その魔道具によって、煉紅郎のベアケンタウロスを討伐した瞬間を水晶球が映し出された事により、煉紅郎への疑いが消え去り、煉紅郎は一躍、ギルドで知る人ぞ知る有名人になった。
連日、煉紅郎を自分のパーティーやクランに勧誘しようと大勢の人が集まりギルドの職員はその対応に手を焼いて、その事をなぜかあの日以来、煉紅郎を師匠と呼び、ついてまわるジョジュに聞いた煉紅郎は暫くはギルドに向かうの止めた。
ギルドから三件の依頼達成の報酬と緊急依頼案件であるベアケンタウロスの討伐報酬を受け取っていたので煉紅郎には当分の間、金銭的問題は無い。
当の煉紅郎は、骨折した左腕や身体中の傷や怪我をアルドラの魔法によって治してもらったが、アルドラ曰く「完全に治癒したわけでは無いので安静に・・・」っらしい。
なので、数日の間、煉紅郎は左腕を三角巾で吊るして訓練に参加せずに監督する事をシャルルとあの日の翌日、城に行った時、訓練場に行く道中で偶然出会い、事情を知ったエルミシリアに強く懇願され、煉紅郎も嫌とは言えず、監督をする事になった。
そんなこんなあって煉紅郎達は現在、城の訓練場にて訓練中である。
シャルル達は走り込みが済んで腕立てなどの筋力トレーニングをしている。
煉紅郎はというと、木製の小さい背もたれの無い椅子に座り、日向ぼっこでたゆたうポンキーに背を預けシャルル達の事を見ていたが・・・
「・・・んで、なんでお前はココに居るんだ?」
「師匠、酷いっす。おいら、師匠に弟子入りしたいんっす!お願いしまっす!」
「・・・やだよ」
「えー!なんでっすか!なんで駄目なんすか!女性にしか教えないんっすか!?」
「五月蠅い・・・分かったよ。弟子でも何でも好きになれ」
「やったっす!やったっす!」
「でも、基本的に俺は彼女達に教える事の方を優先する。ジョジュ、お前は・・・」
「何すか、何すか!?」
「お前は冒険者として活動してるからあいつ等とスタートが違う。だからお前は、ある程度まで彼女達が上達するまで、俺が話してる事や動きを盗め。勝手にな」
「はいっす!」
めんどくさそうにジョジュに応対し、ジョジュの熱意に負けて煉紅郎は彼を弟子にすることにした。別段、ジョジュを指導する事に何ら抵抗も無い。ただ、指導する奴が一人増えるのが面倒というだけであった。
しかし、一緒にベアケンタウロスと対峙した日から煉紅郎に付きまとい、どこから聞きつけたのか豚幌亭に宿をとっていたのを知った時、煉紅郎は心底ジョジュが怖いと思った。
煉紅郎は、シャルル達(現在訓練に参加しているのはシャルルとアリステリア姫、それと女騎士マリオン)が筋力トレーニングが一段落した所を見計らって近づくとシャルルが煉紅郎に気がつき近寄ってくる。
「ご主人様、どうしましたニャ?」
「そろそろ実践訓練に入ろうかと思ってな。集まってくれ」
煉紅郎のもとへ、シャルルの後を追う様にアリステリアとマリオンが集まった。二人とも少し息を上げ肩で息をしている。
「なんのようよ。私はまだやれるわよ」
「姫様。勇者よ。次は何をすれば良い?」
「うん。これからは走り込みと筋力トレーニングを済ませたら実践訓練に入るぞ。っと、その前に」
「ん?」
「お前達に話しておく事がある」
「何よ!?」
「何ですかニャ?」
一呼吸、間をあけて煉紅郎は話し始めた。
「これから俺が教えるの『武術』つまり、武によって相手を打ち倒す。または、殺す為の術だ。女子供が大男を殺すのに力はいらない、やり方を覚えて実践する覚悟があれば、一国の姫であろうが、貧村の農家の子供でもできる事だ。いいな」
「わっ分かったわよ。で、何をするのよ?」
「先ずはナイフ術だ。ラスト、アレを・・・」
「・・・コレか?」
いつの間にか煉紅郎の後ろに立っていたラシュナートが木製の短刀を五本、煉紅郎に差し出した。煉紅郎はそれを受け取ってシャルルにアリステリア、マリオンとラシュナートに一本づつ手渡し、そばでジッとモノ欲しそうにコッチを見ていたジョジュを呼び、一本放り投げた。
「じゃあ、先ずは構えてみろ」
「えっ・・・」
「良いから自分なりで良いから構える」
煉紅郎の言葉にジョジュを含む五人が思い思いの構えをとった。
シャルルは、大股を開き前屈みの前傾姿勢をとっている。アリステリアは、腰の引けた正眼の構えを取り、マリオンは、確りとした正眼の構えをとった。ラシュナートの構えは、身体を斜にして短刀を水平に構えた。ジョジュは・・・ただ立っていた。
「ん?ジョジュ。お前は構えないのか?」
「いや、そういう訳じゃないっすけど・・・おいら、こういう短いのは構えたためしがないんすよ」
「うん。そうか・・・皆、構えを止めて良いぞ。シャルル、木剣を貸してくれ」
「はいですニャ」
煉紅郎はシャルルから木剣を受け取るとジョジュからある程度の距離を取った場所に立った。木剣は右手に持ち、身体はジョジュに対し真反身し、空いた左腕は腰に置き、木剣の一直線上に身体を隠す様に構えた。
「ジョジュ・・・」
「はいっす。師匠」
「斬り込んでこい」
「えっ・・・はいっす!」
ジョジュは、一瞬たじろいたもののすぐさま煉紅郎に斬りかかった。
だが、煉紅郎は木剣でジョジュの木剣を持つ手を弾き、そのまま木剣を喉元に寸止めした。
「はい、終わり」
「「「「・・・・・・」」」」
煉紅郎はそう言いながらジョジュから離れ、シャルルに木剣を手渡したが、シャルルはボーっとしながらも木剣を受け取った。
煉紅郎はそのままシャルル達の前に立った。ジョジュもシャルル達に混ざって立った。
「・・・で、さっきのがナイフ術の構えとそれに連動した動きの見本だ。・・・どうした?お前ら?」
「いえ、あっという間の事だったので・・・」
「まぁ、なんだ・・・構えはナイフや短剣は片手、利き手に持つ、立ち方は相手に対して真反身、つまり真横にしてナイフの一直線上に身体を身体を隠して使わない手は腰に置く。コレが基本的な構えだ」
「はいニャ!」
「何だ?シャルル」
「なんで、横にするんですかニャ?」
「うん、それは正中線を隠すためだ」
「正中線?」
「ん?なんだそれは?」
「正中線とは、人の正面から見て真っ直ぐに引いた線の事だ」
そう言いながら煉紅郎は自分の額の上から顎の先まで人差し指でなぞってみせた。
「正中線上には急所が集中している。色々あるが代表的なのは、上から眉間、人中、顎、咽喉、心臓、水月、金的・・・っといったトコか」
「はぁ・・・」
「ん~分かりづらいか・・・ジョジュ、ちょっと来い」
「えっ、何か嫌な予感が・・・」
「いいから来い」
「・・・ハイっす」
観念したのかジョジュはトボトボと煉紅郎のもとへ歩いていった。
煉紅郎はジョジュをシャルル達の方へ向かせ横に立ち説明し始めた。
「先ずは眉間、ココは、亜人かどうか人種にもよるが基本的に、骨の継ぎ目だ。骨がずれると激痛が走る。それにココは、脳ににも近いだから、ココを刃物で突き刺せば簡単に死ぬ」
そう言いながら煉紅郎は、ジョジュの眉間を指差しながら説明した。ジョジュの方は、一筋の汗を流していた。
「次に人中、人中はココ、鼻の下の窪みの所だ。ココは幾つかの神経の交差する場所で更に口唇部だからそれを護る為の筋肉が無いんだ。だから、殴りつければ激痛が走る。それに、頚椎や延髄にダメージを与える事が可能だし、そうじゃなくても前歯を折る事が出来るから、それで相手の戦意を削ぐ事が出来る」
煉紅郎はジョジュの人中を指差しそう語った。ジョジュは先程よりも多く汗を流して立っていた。
「んで、次は顎。顎は脳と頭蓋骨で真反の位置にある。其処を強打すれば脳が揺れて脳震盪を起こす」
「のうしんとう?」
「まぁ、簡単に言うと頭を激しく動かすと脳味噌がそれを抑えようとする。だが、その所為で頭痛やめまいを起こしたり、ひどけりゃ意識や記憶をなくす」
「へぇー」
「だから、軽くでもこう」
「ぐぇ!」
説明の流れで煉紅郎がジョジュの顎を軽く小突くと潰された蛙の様な声を出しよろめきながら二、三歩後退し、顎を押さえながら煉紅郎に対し非難の声を上げた。
「しっ師匠、酷いっすよ」
「あぁ、すまん。つい・・・まぁ、やられるとこうなる。分かったか?」
「「はい」」
「ハイニャ」
「それじゃあ、次は咽喉。位置が違うだけで与えるダメージが違う。喉は鍛える事の出来ない部位の一つだ。絞めれば窒息で昏倒させ、突けば激痛と呼吸が一瞬止まるから次の技へ繋げ易い、それ自体でも一撃必殺に近い、肉食の動物は先ず獲物の喉元に喰らいついて鳴かない様にする。攻撃の手段としては本能に近いのかもな」
「やらないで下さいっす!」
「やらないよ。次にいくぞ。次は心臓。まぁ、心臓は人が生きる上で要になる臓器だ。だから、胸骨で護られているが、打撃による振動で止まりもするし動き出す事もある。骨の隙間を縫うか骨を断ち割る程の威力を持っていれば剣や矢でも心臓に到達する。次は、水月。水月は鳩尾つまりココだ」
煉紅郎は自分の心臓の位置を指差し説明するとその指をジョジュの水月の位置を指差し説明を続けた。ジョジュは、先程の一撃が効いたのか脂汗を滲ませている。
「ココにダメージを受けると呼吸器の一つ横隔膜が一瞬止まり、呼吸困難に陥り戦闘不能になりやすい。最後の金的だが、言わずもがなかな?だが、これは男性だけの急所では無く女性でも激痛が走る。それはすぐそばに膀胱があるからだ。膀胱には神経の束があるから、其処を少しでも刺すと激痛が走る。・・・っとまぁ、駆け足で説明したが、理解は出来たか?」
煉紅郎の問いにシャルル達は頷いて答えた。
まぁ、理解するのにも時間が掛かる事は煉紅郎自身、分かっていた事なので、おいおい少しずつ理解出来れば良しと考えていた。
「うん。それじゃあ、話が脱線したが構えろ」
「「「はい」」」
「ハイニャ!」
「はいっす!」
シャルル達は、煉紅郎から言われた通り構えを取った。
煉紅郎は、シャルル達の周りを歩きながら腕の位置や足の開き、腰の高さなど指示し訂正させいった。
そのままの流れでシャルルとアリステリア、ラシュナートとマリオンで組んで組み手を始めさせた。組み合わせの理由は、身長と経験であった。
残ったジョジュは、煉紅郎に手加減してもらいながらの組み手になった。だが、それでも歯が立たない自分の実力に打ちのめされていた。
「今日はココまで!」
日が暮れ始めた頃、煉紅郎の号令で今日の訓練が終わった。
一言二言文句を言うとアリステリアは迎えに来たミリアとマリオンと共に城へと戻っていった。
思った以上にジョジュの憔悴が酷くポンキーに背負われ帰る事になった。
「申しわけないっす・・・」
「気にするな。始めは皆こうだ」
「その言葉だけで救われるっす・・・」
「そりゃあ、よかった。飯、食えるか?」
「ちょっと、厳しいっす・・・」
「分かった。シャルル」
「何ですかニャ!?」
「幌豚亭に着いたら俺はコイツを部屋に連れて行くから女将さんにコイツが食えるような物、作ってもらう様に頼めるか?」
「ハイですニャ!任せて欲しいですニャ!」
「ありがとう」
「ありがとうっす・・・」
「気にしなくて良いですニャ、ジョジュさん。困ったときはお互い様ですニャ」
「ハハハ・・・面目ない・・・」
「疲れるだけだ、もう休め」
「ハイっす・・・」
グッタリとポンキーに身体を預けジョジュは目を瞑り休んだ。
すかさずラシュナートが煉紅郎に話しかけた。
「おい、レンクロウ」
「ん?なんだ?」
「ソイツを弟子にしたようだが大丈夫なのか?」
「ん~。素質はあると思う。ただ使い方が解らないだけだ。教えれば中々のモノになるかもな。何か問題でもあるのか?」
「いや、お前が良いなら別に文句は無い、俺も猫もレンクロウ、お前の決定に文句は無いよ」
「そうか・・・」
「そうですニャ!」
そう賑やかに家路に着く一行であった。
その後もジョジュは、煉紅郎達の訓練に参加しながらも冒険者としての仕事もこなし、ギルド内で短期間で頭角を現したのであった。
そんな生活がひと月程経ったある日、ちょっとした事件が起きた。
急所の場所とか漫画やテレビで知っていたのですが、どこがどうなって痛いのかって言う急所の説明・・・難しいっす。
ジョジュ君が仲間入りの話は構想の時からあったのですが、こういう入り方させるつもりは無かったんですけど・・・
シャルルの事もそうですが、書いている内に話が変わる変わる。
1話が書き終わる頃には『えっなんでこうなった?』って思う事が多いんですよ。
でも、それも含め自分の作品なのかなっと思います。
今回で今年最後の更新となります。
次話は来年の第二週目の火曜日、正午に更新いたします。
楽しみにしてくださっている読者の方がいれば申し訳ありません。
ストックが・・・ストックが・・・無いんです・・・
本当に申し訳ないっす。
では、少し早いですが、良いお年を




