#16 バローナ遊撃隊
キマの村へ向かう大型馬車の中はバローナ遊撃隊の面々とシャルルとラシュナートの二人を加え大所帯となり一層騒がしくなった。まぁ、ラシュナートはただ馬車に揺られているだけで騒がしいのはシャルルなのだが・・・
「どうぞ・・・」
「うニャ紅茶ですニャ!?いただきますニャ」
「賑やかな子だねぇ」
「すいません」
紅茶を出してもらい嬉しそうに受け取るシャルルに微笑ましそうに眺めながめるバローナから出た言葉に申し訳なくなったラシュナートが謝罪の言葉をあげた。
「いや、あたしらも賑やかなのは嫌いじゃないから気にしなくて良いよ」
「どうぞ・・・」
「ありがとうございます」
「そういや、自己紹介がまだだったね。あたしはバローナってんだ」
「俺はラシュナート、あっちの猫はシャルル」
「ラシュナートとシャルルだね。さっきお茶を出したのはアルドラ、其処のでっかいのはポチョット、ちっこい方はバンダだ。今、御者をしてくれてるのはミョウジンって名だよ」
バローナが簡単に仲間を紹介するとバンダが自分の紹介が気に入らなかった様でバローナに対して抗議の声を上げた。
「バローちゃん!バンダちっこくないぞ!里じゃあおっきい方なんだぞ!」
「自分は大きいですなッ」
「ポチーちゃんは黙ってて!」
「アンタもだよ。バンダ」
「ぐぬぅ・・・」
バンダを黙らせた所で気を取り直すようにバローナはラシュナートに向きなおし会話の続きを始める様に話を切り出した。
「・・・それで?」
「えっ?」
「あんたらが会いたい人ってのはどんな奴なんだい?子猫族(あの子)はご主人様って言ってたけど、あんたら、お貴族様に仕えてるのかい?」
「いいえ、それはアイツだけで・・・それに貴族でもないです。子猫族は貧民や貴族関係なく主従関係を結びます」
「そういやそうだったねぇ。で、アンタはなんで?」
「・・・俺は別に・・・猫が行くって喧しいから、それに猫は馬に乗れないから無理して怪我でもされたら後でアイツになんて言われるか・・・」
「そのアイツってのが、あの子のご主人様って事かい?」
「はい、そうです」
「ふーん。・・・大分仲良くなったようだねぇ」
「・・・えぇ・・・」
バローナとラシュナートの二人の視線の先にはポチョットの膝の上に乗るバンダの膝の上に乗るシャルルがいた。
「うニャ」
「ニャーニャー可愛いニャー」
「お茶が飲めませんなッ」
自分の膝の上でシャルルをモフモフと弄るバンダが邪魔で紅茶が飲めずに文句を上げるポチョットだが、彼の言葉を聞き入れるバンダではなかった。
バンダは翼に一本だけある指を器用に使いシャルルを抱きしめながら紅茶を鼻歌交じりで飲んでいる。
シャルルも抵抗する事を諦めたのか大人しくバンダに抱かれながら紅茶を飲んでいた。
「ニャーニャーはお名前はなんていうの?」
「んニャ?」
「バローナさん達のお話を聞いてなかったんですね」
「ん?なんか離してたのー?」
「シャルはシャルルですニャ!?」
「シャーちゃんだねー可愛いねー」
「んニャ~♪何だか恥ずかしいですニャ~♪」
人鳥族と呼ばれる種族は、成人でも子供の様な身体をしている種族であり趣味趣向なども子供に近い感覚をもっている。食べ物の好き嫌いや光り物の収集、フワフワ、モコモコしたヌイグルミや生き物を寵愛する傾向が強い。
身体が小さいのには理由があり、自身の腕が翼になっていて、その翼を使って飛行する為には小さい身体の方が都合が良い為で、人鳥族に似た種族で鳥人族は背中に大きな翼が生えている為、身体が大きくても問題は無い。
「可愛いねー可愛いねーウフフ」
「皆さん空いたカップを・・・」
「すまないね」
「ご馳走様でしたニャ、美味しかったですニャ」
「ありがとう」
「美味でしたなッ」
アルドラは皆からの賛辞を会釈で返し、受け取ったカップを洗い物用の桶に入れて、桶に杖を翳し、魔法を使い水を生み出し桶の中を満たした。
それを見ていたシャルルは「凄いニャ凄いニャ」と目をキラキラさせてアルドラを見ていたが、ラシュナートは驚いたように目の見開きアルドラを見つめていた。そんなラシュナートを見て苦笑いをしながらバローナはラシュナートに話しかけた。
「大丈夫かい?」
「あぁ、あの白耳長族の魔法は・・・」
「アルドラの魔法は全部戦闘用だよ」
「なっ・・・」
「まぁ、あたしも初めて見たときはあんたと同じ反応したよ。皆もね。まぁ、今はもう慣れちまったけど」
「すごい・・・」
ラシュナートが驚くのも無理は無い、通常、魔法というモノの威力を操るのは出来ない事は無いが難易度の高い技術である。威力を上げる事は制約を増やし段階を踏む事で威力を上げる事が出来る。しかし、下げる事は違う、制約を減らせばと言われる事があるが、それでは元の威力にするだけで下げると言う事ではない。魔法の威力を下げるには魔力の放出量を加減しなければならず、通常の魔法の行使よりも集中し気力を使いコントロールが難しい為、難易度が高いとされている。
それをアルドラは顔色一つ変えず難なくこなしているのである。それ故にラシュナートの驚きは計り知れなかった。
「アルドラは天才なんだよ。・・・まぁ、あたしらと会うまでは一人だったらしいけどね」
「一人?」
「あの子、自分の里を出てからずっと一人でやってたんだよ。なまじ力があるから仲良くなろうとするのは利用しようと近づく奴ばかりでウンザリしてたんだと」
白耳長族は大きく分けて森林に住まう森人と草原に住まう草人の二つの部族がある。黒耳長族も同じく砂漠に住まう砂人と渓谷に住まう谷人の二つの部族がある。
白耳長族と黒耳長族はその見目麗しい姿も然ることながら魔法と武に優れている事もあり、護衛や愛玩用にと需要も高く、人攫いに遭い奴隷に身を窶す者も少なくない。故に仲間から離れて生きてゆくと言う事は、余程の理由が無い限りはしない事であった。
アルドラは、子供の頃から魔法の才に優れた森人であった。いや、優れ過ぎていた。同年代の子供を持つ親は自分の子供に「何故、自分の子がアルドラじゃないのか」「アルドラの様に出来ないのか」と常々言い、言われ続けた子供達は、自分が親に怒られ、愛されないのは全てアルドラの所為だと決め付け、何かにつけて突っかかる様になり徐々にエスカレートして行き、アルドラは命の危険を感じた時、集落から一人で旅立ったのだった。
それからの彼女の人生は波乱万丈と言っても差し支えないほどであった。
彼女は自分の容姿が優れている事を知っていた。だが、それは同時に危険なものである事も知っていた。その為、彼女は冒険者の道を歩んだ。独学で魔法を学び、数種の魔法を作り出したのであった。
そんな才能溢れる呪文士を放っておく者など少なく引く手数多であったが、結局は彼女の魔法に頼る者が多く、最初は彼女も頼られるのが嬉しく一緒に行動していたが、次第に一人で依頼をこなす様になった。そして、ある日、バローナとであったのであった。
「っとこのような感じです」
「あっありがとう。アルドラ・・・」
「はい、では・・・」
「「「・・・・・・」」」
突然、自分の過去を話し始めたアルドラにのまれた様に聞いていたバローナ達であった。
「・・・俺、何か悪い事した気がします」
「良いんだよ。いつもの事だから、ハハハ」
「そう、ですか・・・」
「バローナ殿!」
バローナの乾いた笑いが馬車の中を包む中、それを切り裂くように御者をしていたミョウジンの声が馬車の中に響きバローナは御者台の方に顔を出した。
「なんだい?ミョウジン」
「バローナ殿、前方にグレートハウンドの群れとウィリーウィリーの群れが目視で確認しました。このままだと馬車が襲われます。いかがしますか?」
「そうだねぇ・・・よし!このまま行きなあいつ等はあたしらが如何にかするよ」
「了解しました」
バローナはそう言うと中に顔を戻すとアルドラとバンダに視線を向けた。
グレートハウンドは大型犬の様な猛獣でウィリーウィリーは旋風を起こす羽を持つ鳥のモンスターであった。
「アルドラ、バンダ。聞いてたね」
「アイアイ♪」
「はい・・・」
「バンダはグレートハウンド。アルドラはウィリーウィリーを頼むよ」
「はい・・・」
「殺しちゃうの?」
「いや、追い払えれば良い。今は一刻も早くキマの村に向かわなくちゃ行けないんだからね」
「はーい!・・・んじゃ、行って来まーす!」
そう言うとバンダは馬車から飛び降り地面ですれすれで飛び上がり、スピードを上げ馬車を追い抜いてグレートハウンドの群れがいる場所まで飛んで行った。
「一人で行かせて大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。心配なら特等席で見せてやるよ。ミョウジン、席を空けてくれるかい?」
「某の隣でよければ」
「ほら、ラシュナート」
「あぁ・・・」
「シャルも見たいニャ!」
「んじゃラシュナートの膝の上だね」
「えっ・・・」
「分かったニャ、ラシュさん失礼しますニャ」
御者をするミョウジンの隣にラシュナートが腰掛けると膝の上にちょこんとシャルルが腰を下ろすと前方を優雅に飛ぶバンダの姿を発見した。
バンダはグレートハウンドの群れの上空を暫く旋回すると左足で右足に取り付けてある矢筒から一本の鏑矢を取り出し器用に空中で右足に矢を受け渡しそのまま左足に取り付けてある弓を展開させて矢を番えると群れの中で一番大きいグレートハウンドに向けて矢を射った。
鏑矢はピィィィイっと音を鳴らしながらグレートハウンドの顔の近くを掠めて地面に落ちた。グレートハウンドは矢に驚き、何者かと上空の見つめバンダを発見し唸り上げるが、バンダがクルクルと上空を飛んでいるの見ると群れのリーダーのグレートハウンドは一度吠えると群れを連れて何処かに行ってしまった。
「何が起こった?」
「グレートハウンドは凶暴な獣、でも、獣は獣。相手出来ないものは相手しない。バンダ殿が邪魔になったが、飛んでて手が出せないから他所に行くことにした。っといった所です」
「なるほどニャ」
「・・・では、私も・・・」
御者台に座る三人の後ろからアルドラの声が聞こえたかと思ったら、ミョウジンとラシュナートの間にニュウっとロッドが出て来た。
ロッドは空を舞うに飛ぶウィリーウィリーの群れに向けられ、アルドラは深呼吸をすると一言
「爆竜の口付け(バレッテーゼフレア)」
そう唱えるとウィリーウィリーの群れからほんの少し離れた馬車側の空中に幾つもの赤い火の玉が出現したと思った次の瞬間、その火の玉が次々と膨れ上がり爆発しだしたのだ。
爆発に驚いたウィリーウィリーは遙か彼方の空へ飛び去り、それを見ていたシャルルは「凄いニャ凄いニャ」と拍手しながらはしゃいでいた。
アルドラもシャルルの反応に気を許したのか、少し胸を張って見せた。
「お見事です」
「見事ですなッ」
「いえ、私は出来る事をしたまでです」
「謙遜なんてお止し、アンタは凄いんだから」
「はい・・・」
「ただいま~近くで爆発したからビックリした~」
「そういやそうだったねぇ」
「ひどい!バローちゃん。それはひどいよ!バンダ頑張ったんだよ!」
「ああ、ヨシヨシ。頑張ったね」
バローナは少し乱暴にガシガシとバンダの頭を撫でた。彼女も気持ちが良いのか目尻を下げてそれを受けていた。
「バローちゃん。さっきお空飛んだときに見たんだけど村まで後ちょっとだったよ」
「そうかい。ミョウジン」
「はい。その様で、もうじきキマの村に到着します」
「そうかい。皆、準備を忘れるんじゃないよ。分かったね!」
「「「おう!」」」
「ラシュナート、シャルル、あんた達二人は村に着いても安全がわかるまであたし等から離れるんじゃないよ。分かったね?」
「はい」
「はいニャ!」
黙々と仕度を済ませる遊撃隊の面々とは違い、シャルルはラシュナートの膝に座りながら彼女のドキドキと早鐘を打つ様な心臓の音を聞きながら自分の胸の鼓動を抑えるようにギュッと手を握り締め胸を押さえた。
「ご主人様・・・うニャ・・・」
「猫・・・」
「不仕付けで申し訳ないのですが、そのご主人様?と言う人物はどのような方でしょうか?」
「うニャ!?えぇっと・・・」
「ミョウジンです」
「そうニャ。ミョウジンさんニャ。ご主人様はかっこ良くて素敵な方ですニャ!」
「そうですか。無事だと良いですね」
「はいニャ!ミョウジンさんは良い人ですニャ」
「良い人・・・ですか・・・」
「そうニャ!」
「そうですか。ありがとう御座います。・・・どうやら村に到着したようです」
そうミョウジンが告げると程なくして馬車はキマの村の住人達が集まる丘に到着した。
馬車が村人達の前に緩やかに止まると馬車からバローナ達が村人達の前に躍り出ると村長が村人を掻き分けバローナ達の前にやって来た。
「皆様は冒険者様で御座いますか?」
「あぁ、ギルドにこの村の若いのが駆け込んできてね。ベアケンタウロスの話を聞いてあたし達が来たのさ。で、奴は?」
「ココから反対側の森のそばですじゃ」
「それじゃ、ポチョット、バンダ。あんた達はココの残りな」
「あいあーい!」
「了解なんですなッ!」
ポチョットはバローナに敬礼し、バンダは少し胸を張ってバローナの命令に答えた。
そんな二人に一抹の不安を覚え、頭に手をやりながらもバローナは他の四人に視線を向けた。
「・・・ハァ、残りはあたしに着いて来な。わかったかい?」
「承知・・・」
「・・・はい」
「はいニャ!」
「大丈夫です」
「んじゃ。行くよ!」
バローナを筆頭にミョウジン、ラシュナート、シャルルと続きアルドラが殿を務め、目的地まで道程を走り出した。
五人は無人になったキマの村の中を走り抜けて角を曲がると其処には、腰を抜かせて地面にへたり込んでいるジョジュとその視線の先には、傷だらけで至るところから血を流しながらも四本の脚で立つベアケンタウロス。
そして、ベアケンタウロスの側でボロボロになって地面に仰向けで倒れている煉紅郎がいた。
一週間お待ち頂き申し訳ありませんでした。
次話は・・・来週の火曜日の正午・・・には間に合う様に書き上げます。
戦闘シーンってやっぱり難しいっす。
書くのに慣れるまで結構掛かるかも・・・
戦闘シーンを難なく書ける方、尊敬します。
では




