#14 初めての依頼
煉紅郎はジャシュガンの店で購入した得物を身に着け、幾つかの店を巡り、荷物をまとめ、ギルドで三つの依頼を受けた。
受けた依頼は・・・
・ホーンラビット四羽狩猟
依頼主:王都のレストラン
・魔力草十株採取
依頼主:王都医院
・ハントウルフ五頭討伐
依頼主:キマの村
以上である。三つの依頼を王都から少し離れた森林地帯「ビシュヌの森」で行なう事になり、現在、森の前に到着した所だ。
「さて、始めますか」
煉紅郎は森の中へ歩みを進めた。
森の中はうっそうと茂る緑が目に優しく、木々の葉の間から漏れる木漏れ日が優しく地面に降り注いでいる。
小鳥の囀る声、微かに香る草や花の香り、耳を澄ませば薄っすらと聞こえる獣の鳴き声、それら全てが煉紅郎の探究心に火を点け、様々な動植物の観察をし、観察内容を今朝方、街の商店で購入した白紙の本と羽ペンとインク壷を使って記録として残した。
コレは、煉紅郎自身の為というよりも自分の周りの人間に教える為の行為であった。何せ煉紅郎はバル爺に神からの加護を瞬間記憶能力と言っていて確かに今に到るまでの全ての見聞きした出来事は完全に憶えている。しかし、煉紅郎は自分の加護の解釈に少し疑問に思い思案を巡らせてもいた。
動物は側にそびえ立つ樹木の太い右一の枝に腰を下ろし上から観察し、植物は腰を下ろしたり折ったり、植物が目線の近くに来る様に姿勢を変えてじっくり観察した。
その観察の中で魔力草の採取は済んでしまった。
魔力草は見た目は本に書いてあった通りパセリに良く似ているだ。これが煉紅郎の第一印象であった。
煉紅郎は今日までの数日間の中で午後のエルミシリアとの座学の際、様々な図鑑や事典などを教材として使っていた。その中には植物や動物、モンスターの図鑑も有り、それをエルミシリアと話をしながら覚えていった。
故に初めてのギルドの仕事でも三つも請けるという新人ではありえない事をしたのだ。確かに、ギルドの職員は、依頼書を三つも持ってきた煉紅郎に驚き、再三の注意と警告をしていたが、煉紅郎はそんな事は何処吹く風と聞き流してはいたが。
採取した魔力草は十株一纏めで紐で縛り、袋に入れてからバックに仕舞った。
その後、探索を進めると突然、横から何かが煉紅郎の顔目掛けて飛んできた。が、煉紅郎はそれを上体を反らしてかわし視線は飛んで来たものの正体を見破ろうとそれを追った。
飛来物の正体はホーンラビットであった。
ホーンラビットはその名の通り鋭い一本角を頭に生やした兎である。草食ではあるが外敵を飛び跳ねた勢いを活かし頭の角で突き刺す攻撃をする。しかし、攻撃は単調で気を抜いて奇襲されない限り死んだり怪我をすることはないが、一般人では中々手を焼く存在である。
煉紅郎は突っ込んでくるホーンラビットをかわし首を掴むとあっという間に仕留めた。仕留めたホーンラビットはナイフで角を切り落として両耳を縄で縛って吊るして持ち運べるようにして角は袋に入れてバックへ
何故、煉紅郎は採取や狩猟した獲物をいちいち袋に入れてからバックの中へ入れているのかというと、ギルドの依頼の品を丁寧に扱うという事と採取や狩猟した獲物をの匂いでモンスターや獣を引き寄せないようにする為であった。特に肉や血の匂いは肉食のモンスターや獣を簡単に引き寄せる。
モンスターと猛獣の違いは魔力が扱えるか否かである。魔力自体は全ての生物無機物に存在する。モンスターは自身や周囲に存在するの魔力を使用する事が出来る猛獣の事を差す。それは炎の息吹であったり、異常な移動スピードであったり、自分の存在を隠す皮膚であったりと様々である。
ホーンラビットは猛獣の部類に入る。もう一つの依頼対象のハントウルフも同じく猛獣の部類である。
煉紅郎はホーンラビットの処理が終わると一息入れる為に近くの樹木の根本に腰を下ろしてバックから本と羽ペンとインク壷を取り出した。
「ふぅ~ちょっと疲れたな。流石にホーンラビットが出て来たときは驚いた。え~っと・・・こんなもんかな?後はホーンラビットが三羽とハントウルフが五頭か。ハントウルフってどんなんだったっけ?え~っと・・・」
ゆっくりと目を瞑り、自分の記憶を呼び起こす。すると直ぐさまハントウルフについての記憶が出て来た。
ハントウルフは、肉食で狼に良く似た獣。リーダーのオスを中心に五頭から六頭の群れで行動し、群れで狩りを行なう。群れの行動範囲はそう大きくは無い、群れ以外の生き物は敵と見なして攻撃してくるほど、気性は獰猛で攻撃的で鼻も良く効き、縄張りの中の離れた場所の獲物の位置を把握できるほどだ。攻撃手段は鋭い爪と牙である。
「ふむ。今まで遭遇してないとなると・・・この近くの集落は確か・・・キマの村だ。依頼もその村からだった。俺の位置がここら辺だとすると、北東の方角か・・・良し!」
そう言うと煉紅郎は瞑っていた眼を開き、準備を整えるとキマの村を目指し森の中を走り出した。
煉紅郎の居た位置は森の南東付近、北上する形でキマの村を目指すが、その道中で少し思案を巡らせていた。
(うーむ。図鑑によるとハントウルフの行動範囲は森の中心に近い所にあるはず、なのに何故、森の外に在る村を襲ったのか?森の中の生態系が変化した?)
突然、轟々しい地鳴りがしたかと思ったら、けたたましい獣の鳴き声がした。
煉紅郎は危険を感じて側にそびえる木に駆け上って声の主を探すと直ぐに正体を現した。声の主は四本の腕と四本の脚を持つ巨熊だった。
(アイツはベアケンタウロスか?)
四腕四脚の巨熊、ベアケンタウロスはその名の通り、ケンタウルスの様に四本の脚を使い大地を駆け、四本の腕をもって獲物を狩る。雑食の巨熊で何でも食べ、普通の熊の様に冬眠する。凶暴性や攻撃性がもっとも高くなるのは冬眠明けの頃で、ベアケンタウロスの生息する森や山は春先の立ち入りを禁止している所も在る。
(もしかしてアイツが他所から来たからこの森の生態系が崩れてハントウルフが人里の近くまで逃げてきたんだ。突然現れた自分より強い生き物に殺されない為に逃げた先に村があって狩りの標的が森の動物から村の人間に変わったのか)
グルルッと唸り声をあげながら周囲をキョロキョロ何かを探すように顔を動かすベアケンタウロスを木の上で動きを塞がれていた煉紅郎がベアケンタウロスをじっくり眺める滅多に無い機会でもあるのでベアケンタウロスの動向に目を向けていると、突然ベアケンタウロスが顔をグルッと煉紅郎に向け向かってきた。
「なっ!」
(なんで俺に気付いた?兎は血を出さない様に素手で絞めた。魔力草か?いや、雑食でも好んで草は食べない筈、そうなると・・・・・・あ~、俺だ・・・)
届かない煉紅郎に業を煮やしたベアケンタウロスはその持ち前の巨体で木に体当たりをして、木を薙ぎ倒した。
煉紅郎は倒れる木の反動を利用して別の木に飛び移り、幾つかの木々を飛び移りながら移動すると地面に音も無く下り立った。
暫くするとベアケンタウロスが煉紅郎の後を追うように姿を現した。煉紅郎はベアケンタウロスが姿を現すのと同時に森の中を走った。
(あのベアケンタウロスはナワバリを追われてこの森に流れてきたんだろうな。だとすると、この森の中に存在する自分以外の異物は・・・今日、森に入った俺だ。まぁ、ナワバリを追われてきたんだ。怖くて仕方がなくて安心したいんだろうねぇ。じゃなきゃ、俺の事なんか襲いはしないか)
煉紅郎は木や岩を使いながら縦横無尽に森の中を走り抜け、ベアケンタウロスを撒く事に成功し、一息つく間も無く目的地へと走り出した。
それから少しして煉紅郎の後方からけたたましい獣の雄叫びがした。
ココは、ビシュヌの森の側にある村「キマの村」
村のはずれで一人の少年が六頭の狼に囲まれている。少年は革張りの防具を身に着け、左手に木製の丸盾、右手に両刃の片手剣を持つ冒険者であった。
少年の名はジョジュ・パンチ。若手の冒険者の中でも英雄願望の大きい少年であった。ギルドの依頼は複数の冒険者を求める案件もあり、ハントウルフ討伐依頼もそれにあたる。
依頼を見つけて少年はこれこそ自分がやるべき依頼だと思い、依頼を請けるとすぐさまキマの村へ急いだ。到着して村長と話をしていると外で悲鳴が、急いで悲鳴のあった場所に向かうと其処には女性に襲い掛かろうとするハントウルフがいた。
少年は女性とハントウルフの間に入り丸盾でハントウルフの顔を強かに打ちつけた。
ギャインっと鳴き声を放ちながらも空中で蜻蛉を切って地面に着地して、建物の影などから更に四頭のハントウルフが飛び出し、少年の周りを取り囲んだ。
女性が逃げ切れたのを確認し周囲のハントウルフに警戒しつつ森の方に向かおうと正面のハントウルフに片手剣を振り下ろすがヒラリとかわされ、別のハントウルフが襲い掛かるのを丸盾で防ぎながらも一歩一歩と森の方へ向かう。
「くっ、キツイっすね。でも、何とか村から離れれば・・・」
ジョジュはその後の言葉を出せなかった。彼の視線の先には二足歩行の狼、ハントソルジャーが森の茂みから姿を現したのだ。
ハントソルジャーはハントウルフの進化した姿を言われている。見た目がハントウルフが人間の様に後ろ足で立った姿なのだ。しかし、強さは飛躍している。知性が高くなり、骨格が変化した事で後ろ足で立った事を可能にし、肩甲骨が人間の様に横に広がり人間の様に肩が形成され自由になった前足は腕の様に扱うようになった。ハントウルフとの大きな違いは、魔力を使った攻撃をしてくる事だった。
今までモンスターと対峙した事が無く、知り合いの冒険者に教えてもらった話で、ハントソルジャーの強さは個の強さではなく群の強さだと聞いていた少年は内心焦っていた。
(ヤバイっす!ヤバイっす!ハントウルフだけなら何とかオイラだけでも討伐できるっすけど、モンスターなんてパーティーでやる相手っす。ヤバイっす。でも、オイラがココで頑張らないと村の人たちが・・・やるっす!オイラやるっすよ!)
ジョジュが覚悟を決めて自分を取り囲むハントウルフとハントソルジャーに対峙すると森の方からガサガサと枝や葉が揺れ擦れる音が此方に向かって徐々に大きくなって幾つかの黒い影が飛び出した。
(もしかして、他にもハントウルフが出てくるんっすか!?)
影の正体は三頭のハントウルフと煉紅郎だった。
煉紅郎はあの後、キマの村へ向かい森を進み、その途中でホーンラビットを残りの三羽仕留めたが、コレがいけなかった。
最後の一羽を仕留めた時にホーンラビットの角で手を切ってしまい血が流れて、その血の臭いを付近に居たハントウルフを呼び寄せてしまったのだ。五頭のハントウルフに追われながらも試作品の棒手裏剣を使い二頭のハントウルフは何とか仕留められたが、残りの三頭は仲間が二頭殺されたで学んだのか、木や枝を巧みに使い棒手裏剣を避けた。
そんなやり取りをしながらも煉紅郎の足はキマの村を目指し、遂に森を抜け外に飛び出した。
煉紅郎は、続いて飛び出したハントウルフ達に空中でダートを投げ、額に命中させ絶命させ、自身は転がるよう地面に着くとその一連の流れを見ていたジョジュが話しかけてきた。
「あっアンタ何者っすか?冒険者っすか?」
「ん?あぁそうだよ。此処キマの村?」
「えっ、そっそうっすけど・・・」
「じゃあ、こいつ等を仕留めればギルドの依頼は達成か。さっさと済まそう」
「なっ何言ってるっすか!?この量のハントウルフの群れ、それにあれ、分かります?ハントソルジャーっす。モンスターが混ざってるのにそんな簡単には出来ないっすよ!」
「なんで?」
「なんでって・・・」
「やってもいないのに悲観的に考えない方が良い」
「へっ?」
そう言うと煉紅郎は近くの木の根本にバックを放り投げ、ファルシオンを引き抜いて脱兎の如くハントウルフの群れに向かって駆け出した。
ハントソルジャーの咆哮でハントウルフ達が標的をジョジュから煉紅郎に切り替え襲い掛かる。
正面から飛び掛ってきたハントウルフの顔面にファルシオンを振り下ろし顔面を断ち割った。すぐさま右からも襲い掛かってきたハントウルフに体勢を低くし振り下ろしたファルシオンを全力で右に振り隙だらけの腹を真一文字に切り裂き血と臓物をぶち撒けながら地面に頭から落ちた。
ハントウルフの血に塗れながらも左右からハントウルフ襲い掛かろうとしている事に気が付くと右から鋭い牙を光らせ噛み付こうと飛び掛るハントウルフの口の中に左手を突っ込み舌を掴み千切れんばかりに反対から襲い掛かるハントウルフに放り投げた。二匹が衝突するのを確認すると空いた左手で二本のダートを取り出し、倒れこんでいる二匹のハントウルフの目掛けてダーツを放つと見事命中し、ギャイン!ギャウン!っと鳴くのを最後に絶命した。
残る三頭のハントウルフはあっという間に四頭もの仲間が屠られたの目の当たりにして臆したのか煉紅郎から距離を取り出した。しかしそれをハントソルジャーは許さなかった。さっきよりも大きく強く部下を鼓舞するように雄叫びを上げると一歩、また一歩とじりじりと煉紅郎に近づき、ある程度近づくとピタリと止まる。
ハントソルジャーは大きく息を吸うと咆哮を一回した。その瞬間、煉紅郎は不味いと思い身を屈め様とするが時既に遅く、咆哮を聞いた瞬間、ビタッと煉紅郎の身体が硬直して動けなくなった。
(やばい、動けない。どうする!?)
先程のハントソルジャーの咆哮は魔力を込められたモノ『緊縛する咆哮』である程度の範囲の生物の動きを封じる事が出来る。
煉紅郎の後方に陣取っていたハントウルフが煉紅郎が硬直した瞬間駆け出し、煉紅郎に飛び掛った。
迫り来る牙と爪に覚悟を決める煉紅郎であったが、それはギャイン!っというハントウルフの鳴き声とその後から聞こえた声に杞憂となった。
「大丈夫っすか?アニキ?」
「ぁ・・・ぃ・・・」
「もう大丈夫っす!オイラもアニキのお手伝いするっす!」
「・・・はっ、はぁはぁ。助かった。悪いな」
「アニキ、そんな事無いっすよ」
ジョジュが煉紅郎とハントウルフの間に入り、煉紅郎に及ぶであろう牙と爪を自身の身に着けた剣と盾で襲い掛かるハントウルフを迎撃し、防いだ。
煉紅郎は硬直が解け身体に自由が戻ると周囲を見回すと周囲に居た筈のハントウルフが一頭残らず全て血を流し地に伏していた。
配下のハントウルフが全滅した事でハントソルジャーは森に逃げようと走り出すが、それを見逃す煉紅郎ではない。キマの村の存在を知ったハントソルジャーは森に逃げ込まれたら見つけ出すのは困難、自分の身の安全を確認すると気を狙って再び村を襲うに違いない。
煉紅郎の側に居たジョジュも続いて走り出した。
しかし、ハントソルジャーは森の手前で身を返し二人に対峙し再び『緊縛する咆哮』を放とうと息を吸い込むと煉紅郎の前にジョジュが躍り出て丸盾を構えた。
「アニキ!オイラの後ろに入るっす!そうすればアイツの咆哮を防げるはずっす!?」
「分かった!」
『緊縛する咆哮』を放つと思われていたハントソルジャーだったが、吠える事無く猛然と二人に向かい突進してきた。
二人共、咄嗟に避けようと左右に分かれるがその瞬間、ハントソルジャーは『緊縛する咆哮』を放ち、二人の身体を縛った。
ハントソルジャーは『緊縛する咆哮』を放つと二人から離れて咆哮の効果があったのか確認し、煉紅郎とジョジュが動けない事が分かるとしたり顔を浮かべ、自分の鋭く尖った爪で切り裂こうとハントソルジャーが一歩、足を運んだ。
その次の瞬間、ハントソルジャーを影が覆い隠し、恐怖に包まれ動けなくなってしまった。
その刹那、ハントソルジャーは自身を呪った。何故、人間の村を襲ったのか。何故、森の外に出たのか。何故、人間とこんな事になったのか。それは全てこの影の主の所為ではないかと、忘れていた事を呪った。
強者の出現
コレは自然界でも何処でも多々起こりうる事だ。どんな分野でもそうだ。
だからこそハントソルジャーは呪った。自身に力が無い事に。自分に仲間を、自分を守れる力が無い事に・・・
次の瞬間、彼の者は大木の様な腕の一撃で屠られ地面のシミとなった。
煉紅郎とジョジュは魔力の効果が切れ自由になるとすぐさま森から出て来た影の主と距離を取る為、後ろに飛び退いた。
「なんなんすか。あれ?」
「あぁ~悪い。俺の所為だ。追い続けてるとは思わなかった・・・」
森よりいずる影の主、ベアケンタウロスは自分が屠ったハントソルジャーの血と肉の付いた手をペロペロと舐めはするが、足元に転がる屍体には興味が無い様に足蹴にし、目の前に居る興味の対象に視線を向けると見つけてやったぞとばかりに興味の対象である煉紅郎に向けて吠え猛った。
ベアケンタウロスの咆哮はビシュヌの森の木々が揺れ葉を散らし、村に住まう人々の心を恐怖に包み込んだ。
モンスターやっと出せた・・・
この小説では、魔力が使えない猛獣と魔力を扱えるモンスターがいます。
猛獣は凶暴な獣と言う感じで、モンスターは口から火や吹雪の息を吹いたり光学迷彩並に姿を消したり、などしてくる獣ってな感じで分けてます。
わかりずらかったりしますかね?
出来るだけ説明しながら書いていこうと思っています。
もしくは、解説を別に書いていくべきか・・・
では、次話は来週火曜日正午頃にアップします。
誤字脱字など御座いましたらよろしくお願いします。




